武田双雲「新しい何かが生まれた」

6月4日午後11時30分頃。あるネットオークションに、Mr.サンデーのスタッフは固唾を飲んだ。

番組ディレクター:
たった今ですね、さらに上の約8842ドル(約96万円)で落札しようとする人がいます!

その時、100万円の大台に届こうとしていたのは、書道家である武田双雲氏がしたためた一枚の「書」だった。​(「SCAM」…いわゆる「“詐欺”退散」と書かれたなんとも奇妙なこの「書」の最終落札額は、なんと137万円。

驚くのはそれが「半紙に書かれた直筆の文字」ではなく、スキャナーで取り込んだ「画像データ」と、誰もがYouTubeで見られる「動画データ」だったことだ。

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デジタル画像を売ることに戸惑いはないのか?翌日、ご本人にインタビューしてみると…

武田双雲さん:
僕、ITファンだから。IT革命っていうのは人類の歴史にとって、とんでもなくインパクトの大きい革命だと思っていて、それが今リアルに体験できてるって感覚ですよね。アーティストとして、生々しく…NFTっていう新しい何かが生まれたことで、(作品を)所有した人たちの人生をよりハッピーにするという…

NFT=デジタル世界での「本物の証明書」

武田双雲氏が「新しい何か」と語る「NFT」。その正式名称は「ノン・ファンジブル・トークン」といい、「代替できない印」を意味する。

慶應義塾大学 経済学部 坂井豊貴教授:
(NFTは)デジタルの世界での「本物の証明書」なんです。デジタルの世界では、本物と偽者の区別というのがすごく難しいんですね。

そう、デジタルデータは何度コピーをしても劣化しないため、これまでどれが「元祖」で、どれが「複製」なのか見極めるのは、ほとんど不可能だった。

ところが、そこに暗号資産(仮想通貨)などに使われる技術で「改ざん不可能な印」、つまり「NFT」を付けると…

慶應義塾大学 経済学部 坂井豊貴教授:
こっちは本物なんだという証明ができます。本物と偽者の区別がつくので、本物がすごく希少になるんですね。

その言葉通り、2021年3月にはアメリカ人アーティストが5000枚のアートをコラージュして作ったデジタル作品が、史上最高値となる「75億円」で落札された。

慶應義塾大学 経済学部 坂井豊貴教授:
これは、ブランドバッグを考えたらいいと思います。とてもよくできたブランドバッグって世の中にはあるわけです。しかし、それが偽物と分かったら、人は高いお金を絶対に払いません。でも、物理的には同じようなものでも、何十万、時には何百万って(本物の)ブランドバッグに人はお金を払うわけです。それぐらい人は本物と偽物に価値付けするんですよ。NFTは、デジタルアートの世界でそれを可能にします。

そして、約10日後には、ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシー氏が、15年前に世界で初めて投稿した「just setting up my twttr(今ツイッターを設定しているところだ)」という、わずか5単語のツイートが3億円で落札された。

1300万円で落札!日本人アーティストの作品

いくら「世界初」とはいえ、これほどコピーされ、まったく同じデータが山のように存在する中、NFTがあるだけで3億円の値が付くのはなぜなのか?

慶應義塾大学 経済学部 坂井豊貴教授:
(ツイッターは)万葉集みたいなものなんですよ、デジタルの万葉集。そうすると、 デジタルの万葉集の原本の1ページ目、これにいくらの値段がつくかというと、別に3億円というのは不思議ではないですよね。僕は将来、もっともっとはるかに高くなると予想しています。

分かったような、分からないような世界だが…。これまで自分の作品をどうお金に換えるかで悩んでいたデジタルアーティストにとって、“NFT”の出現は何よりも朗報だった。

仮想空間の中にリアルタイムでアートを描き出す、「VRアーティスト」のせきぐちあいみさん。これまでは作品そのものよりパフォーマンスを世界各国で行い、主なる収入を得てきたというが…

せきぐちあいみさん:
(新型コロナの影響で)全部一回なくなってしまったので、今はなんでもしようという気持ちが強かったですね。

そこで2021年3月、自身のVR作品にNFTを付け、オークションに出してみると…なんと、いきなり約1300万円で落札。

せきぐちあいみさん:
びっくりですね。いつかそういったデジタルアートに価値はつくだろうと思っていたんですけど、それがこんなに早く、しかも自分が当事者になって、こんなに高額なんて全く思っていなかったです。

NFTの価値は「優越感」と「希少価値」?

では一体、どんな人がデジタル作品を落札、購入しているのか。

都内でITベンチャーを経営する髙瀨俊明さんは、3年前からNFTアートを収集し始めたという。これまでに購入したNFTアートは20点~30点。その合計金額は…

髙瀨俊明さん:
1番高いもので約270万円ぐらいしたので、全部合わせて400万円ぐらいにはなっちゃうかもしれないですね。

今回、初めてその事実を知った妻は…

高瀬さんの妻:
デジタル上で所有するとかっていうのが…正直、何のためにそんな大金を払っているのか、ちょっとよく分からないです…

と驚くばかりだが、当の本人は…

髙瀨俊明さん:
例えば、アイドル好きの方はコンサートに行ったり、握手会に行ったり、よくされると思いますが、それと同じように、私もデジタルアーティストさんに対して資金的な(応援の)意味でも購入をしたいと思っています。NFTができる前にはなかなかできなかったので、NFTによってそれができるようになって、僕も嬉しく思っています。

自分のデジタル作品が100万円超えで売れた、武田双雲氏は…

武田双雲さん:
お金のためだけに買われるのは、多分みんな嫌じゃないですか?やっぱり本当に共鳴してくれる、共感してくれる、感動してくれている人の元に行ってほしいというのは、きっと全アーティスト共通だと思います。

一方、作品を137万円で落札した男性は…

購入者:
唯一のものを持っている優越感ですもんね。嬉しい…こんなもの持ってるよとか、どこまでレアなのか分からないですけど、双雲さんのNFT初期作品みたいな感じなんじゃないですかね。そういった意味でも価値はあるのかな。

NFTの肝は「優越感」と「希少価値」。

慶應義塾大学 経済学部 坂井豊貴教授:
希少な物というのは値上がりします。そして、そのNFTは他者に売ることができたりもする。そうしたら、資産価値が付くと。ですから、ものによっては、とても高い値段が付いて買う人がいるというわけです。

新しい世界にはリスクも…注意点と対策は

その一方で、リスクもある。NFTに詳しい増田雅史弁護士によると…

増田雅史弁護士:
海外ではアーティスト本人になりすまして、勝手にNFT作品を販売する事例もある。対策として、NFT作品の販売サイトが信頼できるサイトであるか、どういった形で出品者の本人確認を行っているのかを確認する必要がある。

また、NFT作品を買っても作品自体を独占できるわけではなく、コピーして販売するなどはできないこともあるため、NFT作品を購入する際には、どんな権利が与えられているのか説明をよく読んで確認することが大切。

国際弁護士 八代英輝氏:
価値を証明するという仕組みである以上、実社会との取引が不可欠であって、そこにはやはり詐欺であったりマネーロンダリングであったり、金融商品取引法の問題であったり、いろいろ法的な保護が必要になりますので、やはり自己責任というところが大事だと思います。

NFTの出現はデジタル世界に新しい価値をもたらしたが、伴うリスクには注意も必要だ。

(「Mr.サンデー」6月6日放送分より)