車いすユーザーでコラムニストの伊是名夏子さんが今年4月、JR東日本の無人駅で下車しようとして駅員から“乗車拒否”された体験をブログに書いたところ、ネット上で炎上し、誹謗中傷が現在も続いている。伊是名さんは10月11日、炎上後初めて公的な場に姿を現し、女性が安全にインターネットを使える社会の構築を訴えた。

「火のないところに煙は立たないは間違いでした」

伊是名さんは会見で、こう語り始めた。

「私は今まで火のないところに煙は立たない、いじめられたり炎上にあったりするのは本人にも問題があると思っていました。しかしそれは大きな間違いでした。今回火のないところにわざとライターを持ってきて、どんどん燃え広げてデマを作り上げ、それを世界中に拡散する人がいるのがよくわかりました」

伊是名夏子さんには今年4月以降誹謗中傷が続いている
伊是名夏子さんには今年4月以降誹謗中傷が続いている
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伊是名さんは今年4月、子ども2人と介助者らで旅行に出かけた。その行き先が無人駅だったことで、当初駅員から「階段しか無いので案内できない」といわれたが、結局他の駅の駅員が同行し車いすを運んだ。これについて伊是名さんは自身のブログに「ここまでの乗車拒否は初めてでした」と書いたところネット上で大炎上となり、伊是名さんには半年経った今も誹謗中傷やデマの拡散が続いている。

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半年間ネットの誹謗中傷やデマが続いている

「最初は『車いすだから事前に連絡しろ』、『駅員が可哀想』という批判もありましたが、それが『わざと狙ってやったのに違いない』、『障がい者のくせに』、『当たり屋』、『プロ障がい者』という誹謗中傷になり、家の住所や家庭のことがSNSに書かれました。さらには『階段から突き落としたい』、『税金の無駄遣い』、『他人に頼らなければ生きていけない自分を恥じろ』といった暴言が書かれています」

伊是名さんによれば、他にも「テロリスト」、「くず」、「社会に迷惑をかけているのだから亡くなった方が皆のため」、「モンスタークレーマー」といった言葉が次から次へと書きこまれているという。

「ヘルパー制度を不正に利用している、歩けるのに歩けないと嘘をついているというデマもどんどん書かれています。私の著書のアマゾンレビューには、本の内容と関係の無い言葉が並び、ヤフコメではヘイトスピーチにつながるようなことが書かれています。またYouTubeでも『伊是名夏子の不正を暴く』といった動画がつくられ20万回以上再生されているものもあります」

5カ月間でツイッターの書き込みは4万5千件以上、ヤフコメは約8千件に上るという。

「生活がズタズタにされ、涙が止まらなくなる」

被害はネット上だけにとどまらない。伊是名さんの住んでいる地域の役所に不正受給について問い合わせをしたり、警察に電話をするケースもある。またパートナーの会社や伊是名さんの仕事の繋がりのあるところにも電話をしてクレームを入れる。自宅にも差出人不明の手紙が届いたり、携帯電話にも非通知着信がある。

こうした事態を受け、伊是名さんは「生活がズタズタにされている」と語る。

「街中で子どもを叱っているのをみられたら虐待していると拡散されるのではないかと怯えたり、仕事相手に非常識とかわがままとか呼ばれるのではないかと常に不安を抱えています。時に何も考えられなくなったり、気持ちが落ち込んだり、消えた方がいいのかなと考えたり。涙が止まらなくなることもあります。ネット上で毎日集団リンチに遭っているような気がします」

ネットで誹謗中傷に苦しむ被害者は、よく周りから「ネットの書き込みなんか気にしなくていい」「時間が経てばおさまる」とアドバイスされる。しかし伊是名さんはこう反論する。

「例えば学校でいじめが起きたときに、いじめた側に改善や責任を求めるのではなくて、いじめられた側にしばらく学校を休んだらと提案するのと同じで、何も問題の解決にはなっていません。加害者の責任、そしてプラットフォームの改善が必要です。そうしないと私のように誹謗中傷やデマが拡散され、次のターゲットを見つけてまた繰り返されるだけです」

女性が安全にネットを使える社会を目指す

今回伊是名さんは、同様にSNSでの誹謗中傷に苦しんでいるアクティビストの石川優実さん、市民活動家の菱山南帆子さんらと、女性が安全にネットを使える社会を目指す活動として「Online Safety For Sisters(=オンライン・セーフティ・フォー・シスターズ)」を立ち上げた。

SNS被害を受けた女性らが安全にネットを使える社会を目指す活動を開始
SNS被害を受けた女性らが安全にネットを使える社会を目指す活動を開始

この活動では今後、SNSでの誹謗中傷に苦しむ被害者の自殺の撲滅、SNS事業者に差別解消を義務づける法制化のよびかけ、そしてオンライン上のヘイトスピーチ解消に向けた取り組みを3本の柱として取り組んでいく。

具体的にはSNS被害者の相談員の育成に取り組むほか、ヤフーやツイッター、アマゾンなど利用者が自由に書き込めるSNSやサイトを運営する企業に対して、削除や苦情対応などを義務づける法制化を訴えていく。

「私は嫌なことにはやはり声を上げていきたい」

伊是名さんは「私は困ったことや嫌なことにはやはり声を上げていきたい」と語る。

「障がいのある人は我慢や工夫を重ねれば生きていけます。今の時代はいろいろな制度も出来てきました。でも障がいのない人が10個持っている選択肢を、私のような障がいのある人は2,3個しかない。どうか5にしたいと声を上げて改善や権利を訴えると、『わがまま』『感謝をしろ』と言われ誹謗中傷やデマが広がります。本当に辛いです。だから安心してSNS使えるように声を上げていきたい、今回この活動をしたいと思っています」

「私は困ったことや嫌なことには声を上げたい」
「私は困ったことや嫌なことには声を上げたい」

SNSの被害者達は孤独に悩み孤立することが多いという。SNSの誹謗中傷やデマ拡散は、新しい種類の暴力であり国としての対策が急務だ。

彼女たちが勇気を持って声を上げたことを無駄にしてはならない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。