暴言吐かぬまま首相になった人

岸田さんが外相だった時だから今から6~7年前のこと。フジテレビの番組に出てもらったのだが、例によってあまり盛り上がらなかった。僕は終了後にスタジオを出て歩きながら岸田さんに「たまには暴言とか吐いてもいいかもしれませんね」と言ってみた。

一緒に歩いていた外務省の秘書官が血相を変えて「失言はダメです!」と口を出して来たので「失言はダメだけど暴言はいいんだよ」と言い返したのだが、その間、岸田さんは黙ったままずっとニコニコしていた。

政治家は暴言の一つも吐かなければだめだ、と思うのだが岸田文雄氏はそういうことをしないまま、第100代日本国総理大臣に就任した。岸田氏は「人の話を聞く」「国民に丁寧に説明する」と言っており、その誠実な人柄は素晴らしい。一国のリーダーには強さ以上に優しさが必要だからだ。

岸田政権の顔ぶれを見て一番の感想は甘利明・自民党幹事長の存在が想像以上に大きいなということだ。まるで甘利政権のようである。小林鷹之・経済安保相や山際大志郎・経済再生相という重要ポストへの配置はいずれも甘利氏の意向だろう。

岸田内閣の顔ぶれ
岸田内閣の顔ぶれ
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相変わらず周りがうるさい

誠実な岸田首相のバックには怖いオヤジが3人控えている。せっかく社長になったのに、代表権のある会長(甘利)と、創業者の相談役(安倍)と、強面の顧問(麻生)がいるのだ。

代表権のある会長・甘利氏
代表権のある会長・甘利氏
創業者の相談役・安倍氏
創業者の相談役・安倍氏
強面の顧問・麻生氏
強面の顧問・麻生氏

これは大変頼もしい一方でとってもウザい。岸田氏は「成長と分配の好循環」を掲げているが、9年近く続いた安倍-菅体制を大きく覆すような政策を打ち出すのは大変だろう。3人のオヤジの顔色を窺いながらいかに自分の色を出せるかが勝負だ。

で、3人のオヤジだが相変わらずうるさい。

麻生氏は財務相退任のあいさつを「あちら(岸田氏)はええ男。我々は、ケンカ買います、みたいな顔してるから。」と暴言で締めくくった。甘利氏は麻生氏に対して「ご老公様に頼りない幹事長を助けて頂きたい」とヨイショしたが、これははほめ殺しのようにも聞こえる。唯一沈黙の安倍氏については「人事の要求が通らず怒っている」という一部報道があるが、安倍さんは「ワルい人」なので「怒ってるふり」だと思う。

うるさいのはオヤジだけではない。総裁選で予想外の大負けを喫し、自民党の広報本部長に格下げされて、「謹慎」しているはずの河野太郎氏が「党員を百万人増やして次の総裁選に勝つ」と豪語してひんしゅくを買っている。僕は河野氏のこういうめげないところがとっても好きだし、こういう人を抱え込むのが自民党の懐の深さだと思う。

甘利さんを叱り飛ばせ!

周りが好き勝手なことを言ってる中で岸田首相は暴言など決して吐かずにコツコツと仕事をしている。しかし本日(10/6)メディア各社が一斉に出した内閣支持率は日経が59%、読売56%、毎日49%、朝日45%と評価が割れた。朝日と毎日は「重ね聞き」をしないので低めに出るのだが、割れるということはまだ評価を決めていない人が多いということだ。

コツコツと仕事をしている岸田首相
コツコツと仕事をしている岸田首相

いずれの調査も菅政権の退陣時と比べると支持率は大きく上昇しているが歴代内閣発足時に比べるとかなり低い。やはり岸田氏が地味だから支持率が伸びないのだろうか。

だとしたら岸田さんは3人のオヤジに対し、あるいは河野さんに対して、時にはケンカを売り、時には暴言を吐いて「強い岸田」を見せる時が来たのではないか。甘利さんは部下なんだから叱り飛ばすとかしたら支持率は上がると思う。でもしないかな。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。