焼き魚や煮魚を食べている時に、その骨が喉などに刺さってしまった経験は誰にでもあるのではないだろうか?

魚の骨が刺さるとチクチクするが、特にカレイやヒラメの骨は取り除くことが大変だということが、東北大の研究グループの調査で明らかになった。

魚の骨が刺さった様子 (画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)
魚の骨が刺さった様子 (画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)
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調査は、東北大学病院で魚骨異物(魚の骨が口や喉に刺さってしまう疾患)の疑いで受診した患者368例(調査期間は2015年10月から2020年5月)のうち、医師が異物を確認した270例を対象に行われた。

その結果、まず年齢別では、0歳~4歳が最も多く全体の25.9%を占めていた。

魚骨異物症例の年齢分布 (画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)
魚骨異物症例の年齢分布 (画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)

続いて骨が刺さっていた部分は、口蓋垂(こうがいすい、いわゆる「のどちんこ」)から舌根(舌の付け根の部分)にかけての中咽頭領域が87.4%と大多数を占め、特に口蓋扁桃(いわゆる「扁桃腺」)に刺さっている症例が多かったという。

原因となった魚の種類は、アナゴやハモを含むウナギの仲間が14.4%と最も多く、次いでサバ(12.2%)とサーモン(12.2%)、アジ(11.1%)とカレイ/ヒラメが(11.1%)となった。また、カレイやヒラメの骨は、下咽頭や食道に刺さる頻度が高く、内視鏡下摘出術や全身麻酔下での手術が必要になる症例が多いこともわかった。

魚種ごとの魚骨異物の摘出方法(画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)
魚種ごとの魚骨異物の摘出方法(画像提供:東北大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 鈴木淳講師)

魚の骨であればどれも同じかと思うが種類よって、このような違いがあることはとても興味深い。では、私たちがカレイやヒラメを食べる時、どんなことを気を付けるべきなのか?

研究グループの一人である、東北大学大学院医学系研究科、耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野講師の鈴木淳氏に詳しく話を聞いてみた。

きっかけは「“刺さった骨”を探す手助けになれば」

――なぜこの研究をはじめた?

魚の骨がのどに刺さり耳鼻咽喉科を受診される患者さんは少なくありません。のどは凹凸がある複雑な構造をしていますし、口を開けてのどを観察されるのが苦手な方も多いので、魚の骨を見つけるのに一苦労することがあります。魚の種類によって骨が刺さりやすい場所に違いがあれば、刺さった骨を探す手助けになるのではと思ったことが、この研究を始めたきっかけになります。


――この研究はこれまで詳しくされていなかったの?

魚骨異物は魚消費量の多い東アジアでは多くみられる疾患ですが、欧米では比較的稀な疾患となります。そのため、全世界的に見てあまり研究が進んでいないと考えられます。また、「がん」や「アレルギー」などの専門家はたくさんいますが、「異物」の専門家は少ないということも一因だと思います。

ブリやタラでも大掛かりな手術が必要

――カレイやヒラメの骨はなぜ危険?

今回の研究結果では、カレイやヒラメの骨はのどに刺さると自然には抜けにくく、内視鏡を使った摘出術や全身麻酔をかけての手術が必要になる割合が高いという結果でした。摘出した骨の形態(太さ・長さ)や調理法について傾向があるのかもしれないと考えていますが、過去のカルテを辿って調査する今回の研究ではそこまで突き止められませんでした。

従って、なぜ危険なのかという点については残念ですがお答えできません。ちなみに、患者さんの数としては少ないのですが、ブリやタラでもカレイやヒラメの骨の場合と同じく大がかりな摘出術をしなければならないケースが多かったです。


――ひどい場合、どんな手術が必要になる?

口を開けた状態で魚の骨を確認できる場合は、ピンセットのような器械を使って比較的容易に摘出できます。口から見えない場所に刺さった場合は、内視鏡を使って摘出します。骨が引き抜けなかった場合や内視鏡の操作で周りの組織を傷つける可能性がある場合は、直達鏡という金属製の筒をのどに入れて摘出します。この時には全身麻酔が必要になります。

食べる時はゆっくりよく噛む

――ではカレイやヒラメを食べる時、どのように食べるのがいいの?

カレイやヒラメに限った話ではありませんが、食べる時にはゆっくりよく噛み、飲み込む前に魚の骨が含まれていないか注意することが大切だと思います。


――幼児が魚を食べる時はどうしたらいい?

幼児は自分で骨を取り除くことが難しく、また口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)が大きいため骨が引っ掛かりやすいと言えます。保護者の方が注意して骨を取り除くことが大切だと思います。また、骨が取り除きやすい(小骨の少ない)魚を選ぶことも、魚骨異物を防ぐためには有効だと思います。

(※画像はイメージ)
(※画像はイメージ)

ごはんの丸呑みなどの民間療法は危険

――この結果をどう受け止めている?

患者さんののどに刺さった骨を探す際に、魚の種類によって刺さりやすい場所に傾向があれば、患者さんに大変な思いをさせる診察の時間がより短くなるのではないかと思って取り掛かった研究ですが、のどに刺さる頻度の高いウナギ、アジ、サンマの骨は中咽頭(特に口蓋扁桃いわゆる扁桃腺)に刺さりやすいなど傾向があったので、今後患者さんを診察する際に医師が素早く骨を見つけるのに役立つと感じました。また私自身、カレイの煮物が好きでよく食べるので、今後はより注意しながら食べようと思いました。


――レポートの発表後、反響はあった?

魚骨異物はご自身で経験された方も多いので、実体験に基づく反響をたくさん頂きました。カレイやヒラメの骨については、いったんのどに引っ掛かると厄介なことは事実ですが、今回の研究ではそれぞれの魚の骨が引っ掛かる確率などを調べたわけではありません。一般の皆さんには、魚を避けるのではなく、骨に注意したうえで美味しい魚をたくさん味わって頂きたいと思っています。

もし不幸にも骨がのどに刺さってしまった場合には、ごはんの丸呑みなどの民間療法はさらに骨が深く刺さる危険性があることから行わずに、迅速に耳鼻咽喉科、時間帯によっては夜間救急外来などを受診して頂くと早く楽になれると思います。

また、たいしたことの無い痛みだからと数日経ってから受診される患者さんもおられますが、チクチク痛む時には小さな骨が刺さっている事が多くあります。そこから感染が起きるなどの危険性もありますので、やはり耳鼻咽喉科を受診していただくのが良いと思います。


――今後はどんな研究をする予定?

のどの異物は窒息など生命の危機につながることがあります。魚の骨に限らず、のどの異物の研究は続けていきたいと思っています。

骨の形態(長さ、太さなど)や魚の調理法(煮魚、焼魚、揚げ物など)の違いによって骨の引っ掛かりやすさが異なるのかは、興味のあるところです。

また、魚の消費は地域差が大きいと考えられます。自分で行うのはなかなか難しいですが、宮城とは違った食文化の土地で同様の研究が広まっていくことを期待しています。

(※画像はイメージ)
(※画像はイメージ)

鈴木講師は、骨がひっかかるからといって魚を避けるのではなく、骨に注意した上で魚を味わってほしいと語っていた。また、もし骨が刺さった場合は、ごはんの丸呑みなどは避けて、すぐに耳鼻咽喉科で相談してほしい。
 

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。