2021年7月、大阪市西成区の教会で1人の男性の告別式が行われた。身寄りがなかった男性と晩年を共に過ごし最期を見送ったのは、血のつながっていない「家族」だった。

人生につまずいた過去をもつ信徒たち

小島準一さん(70)。7年前に大阪市西成区にあるメダデ教会にやってきた。以前は郵便局員として働き結婚して2人の娘も授かったが、いつしか酒に依存するようになり、仕事も家族も失った。

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小島準一さん:
一番大事なのは“家族サービス”の仕事を忘れてたんや、酒で。仕事帰ったら酒。休みの日は酒。上の子が小学校5~6年ぐらい、下の子が5~6歳かな、そのときに別れたから、それきりだ。

酒に溺れ、ベッドから起き上がることもできなくなった小島さんに手を差し伸べたのが、メダデ教会の牧師、西田好子さん(71)だ。

メダデ教会 西田好子牧師:
この礼拝を通して、生まれ変わったメダデ教会の、この信徒の姿を見てもらえたらええなと。

約20人いる教会の信徒は、ホームレスだったり刑務所に入ったり、みな人生につまずいた過去があり、今は生活保護を受給して暮らしている。西田牧師はこの教会で、そんな彼らの「生き直し」を支えている。

身寄りなく、互いに世話をしながら「家族」として暮らす

信徒:
小島準一兄。

小島準一さん:
はい。それゆえイスラエルの家よ、私はあなたがたをそれぞれの態度に従って裁く。悔い改めて、あなた方の全てのそむきの罪を振り捨てよ。

礼拝で、聖書の一節を読み上げる小島さん。

メダデ教会 西田好子牧師:
酒飲んで、娘にも嫁にも逃げられて、追いかけていったら、娘に「あんたみたいなん知らんわ」って言われた。酒で脳梗塞になった男もいとる。捨てられて嫌われて、相手にされへんかった人間が、堂々とここで語っとるんや。これが新しく生きてきたということなんや。これだけでも証になっとるわね。

信徒たちのほとんどは、身寄りがない。彼らは同じマンションに住み、互いに世話をしながら「メダデの家族」として暮らしている。

小島さんもその家族の一員となり、浴びるほど飲んでいた酒はきっぱりとやめることができた。別れた妻と娘には30年近く会っていない。

――メダデ教会のみんなは家族のような存在?

小島準一さん:

まー、そんなもんですわな。向かうが話しかけたらのっとるだけ。私は下手だから、話をするのが。向こうがニコニコしたら、こっちもニコニコ、合わせてるんや。せっかく来てくれるから、それ以上に話したろと思って。自分に合うんだわ、仲間もみんな良さそうな人ばかりだからね。

末期がんと診断され…信徒みんなで支える「教会に通う日常」

そんな小島さんに2020年10月、異変が。末期の肺がんと診断され、入院することになったのだ。 入院準備を手伝うため、西田牧師が小島さんの部屋を訪れた。

メダデ教会 西田好子牧師:
タオルは?

小島準一さん:
これ、汚いよ。向こうで洗うわ。

メダデ教会 西田好子牧師:
これ持っていったら笑われるで。

小島準一さん:
誰も見てない。

メダデ教会 西田好子牧師:
違うで、看護師が見てな「小島って汚いやつやな」って思ったら、もう相手してくれへんで。パンツも変えてくへん。あんた甘いで。

信徒の多くは高齢で、持病を抱えている。入院の準備や病院の付き添いは、西田さんの日常だ。

入院の日、みんなで小島さんを病院まで見送り、西田さんは祈りを捧げた。

メダデ教会 西田好子牧師:
私たちとともに交わる時を少しでも長くお与え下さい。全てのことを御手にゆだね、この祈り、主イエス・キリストの御名によって御前にお捧げします。アーメン。はい、行こう。

病院に向かう小島さんの車椅子を押したいと、信徒の1人が声を上げた。

信徒:
先生、俺に(小島さんの車椅子)押させてや。

メダデ教会 西田好子牧師:
そうかそうか、押してやれ。

小島準一さん:
皆さん、ありがとうございました。これから頑張ります。

信徒:
すぐ帰って来いよ。

小島準一さん:
すぐ帰りますわ。

別の信徒:
頑張って。

医師からは、余命は長くないと宣告されていた。 

入院から約2カ月後、クリスマスを前に小島さんが教会に姿を現した。そこには、小島さんを待っている「家族」がいる。 しかし、病は日に日に小島さんの体を蝕んでいた。

医師から「もう治療法はない」と言われ、西田さんは小島さんをマンションで看取ることを決めた。昼夜を問わない看病が続く。

メダデ教会 西田好子牧師:
捨てられた人間やからな。親戚も誰も顔も出しもせんし、手紙書くわけでもなし、連絡するわけでもなし…。ここの兄弟がいてるから生きる実感があるんや。甘えられるのはこの人たちだけや。兄弟だけはいてるってな。それをずっと忘れんように、最後まで植え付けていきたいねん。それが家族やということですよ。

理学療法士:
ゆっくり足倒して…痛くない?

小島準一さん:
痛くない。

メダデ教会 西田好子牧師:
小島、自分でしろよ。やれよ自分の力で。自分の意思でやってや。

小島準一さん:
やってる、やってる。

メダデ教会 西田好子牧師:
もう口から、がん放り出せ。

自力で呼吸をすることが困難になっても、小島さんは自らの意思で車いすに乗り、新しく建てられた教会に通い続けた。

――体調しんどいですか?

小島準一さん:
(うなずく小島さん)

――それでも教会に来るのはどうして?

小島準一さん:
半分半分。しんどいけど、行かなきゃあかん、それだけだ。きょうは、日曜日はな。

――教会に来たら、ちょっと気持ちは楽になる?

小島準一さん:
なる、ただそんだけ。

日常生活の中で少しずつ、できないことが増えていく。それでも「教会に行くという日常」を西田さんたちは支え続ける。

斎場から遺骨を持ち帰ることはできず…娘からの返信は

この礼拝から2週間あまり…。

信徒:
小島さん、朝、目を開けて「おはよう」って言ってくれたのに…なんでなん。

別の信徒:
よう頑張ったな、小島。みんなちゃんと見守っとるからな。なんとか言え。

葬儀は、生活保護法による「葬祭扶助」を受け、メダデ教会で行われた。骨上げも西田さんがしたが、斎場から遺骨を持ち帰ることはできなかった。

遺骨の引き取りができるのは、原則、親族だ。大阪市では親族の引き取りに備え、遺骨は最低1年間、斎場で保管される。それでも引き取り手がない場合は、共同埋葬される。

2020年9月までの1年間で、大阪市立の斎場で火葬された人のうち、引き取り手がなかった2773人の遺骨は大阪市の墓地に共同埋葬された。そのほとんどが生活保護の受給者だ。

小島さんを共同埋葬したくなかった西田さんは、メダデ教会で葬儀と骨上げ、納骨をすることに同意を求める手紙を小島さんが亡くなる前に娘に出していた。その返信には、同意とともに「亡くなっても、こちらに連絡はしないで下さい」と書かれてあった。

西田さんによる遺骨の引き取りが認められたのは、娘の正式な同意の手続きなどが終わった時。
死後、約3週間が経っていた。

信徒:
小島さんお帰り、わしらを見とってくれよ。

別の信徒:
小島さん、おかえり、ありがとう。天国に行って眠ってください。

メダデ教会 西田好子牧師:
(納骨できて)ほんま良かったなってみんな言うんでしょ、でも違うんねん。3週間ほど(斎場に)置いていた。私がその立場であれば嫌ですよ。なんですぐに来てくれないの、なんでなんですかって言いたいに決まってる。当然や。

身寄りがない人たちでつくるメダデの家族。命を失った後、迎え入れることができるのか。親族と連絡が取れる人は多くない。

(関西テレビ)

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