中学校の部活動を地域のクラブや団体に移すいわゆる「地域移行」が2023年度から本格化する。この「地域移行」には指導者の確保や資金面での不安などの課題がある。そうした中、長野県千曲市と坂城町は連携して指導者を確保し、行政主体の「地域クラブ」を県内で初めて立ち上げた。課題は解決したのだろうか。
15の部活動を5校合同 地域移行「受け皿」
日曜日の戸倉上山田中学校。吹奏楽の音色が響いていた。演奏しているのは、千曲市と坂城町の中学校5校の生徒50人。 「千曲坂城クラブの吹奏楽専門部」の合同練習で1回目の活動だ。

「千曲坂城クラブ」は千曲市と坂城町が立ち上げた部活動の「地域移行」の受け皿。 学校ごとにあった運動系、文化系合わせて15の部活動を一つの枠組みに入れて、運営する取り組みだ。

指導者「できることを伝えられれば」
トロンボーンを指導する須坂浩章さん(63)。 須坂さんは会社員として働く傍ら、千曲市の吹奏楽団で副団長を務めている。 この日から「クラブ」の地域指導者となった。

千曲坂城クラブ 指導者・須坂浩章さん:
こちらも手探り状態でやっているので、どうしていけばいいかわからないですけど、できることを子どもたちに伝えられればいいのかな
2023年度本格化 指導者不足が課題
「地域移行」は少子化で学校単位での部活動の維持が難しくなってきたこと、教員の働き方を見直すことを背景に政府が推し進めている。 2023年度から3年間は「改革集中期間」で、可能なところから部活動を地域のクラブや団体に移すよう促している。

最大の課題は―。
部活動に詳しい名古屋大学大学院・内田良教授(2022年11月取材):
とりわけ地方に行くと、まず「受け皿」がない。仮に予算が準備できても、受け皿、指導者、それを支えてくれるスポーツ団体がない。地方にとっては本当に大きな課題に直面している状況
行政主体で「受け皿」をつくる
地域に移せるクラブや団体がなければどうすればよいのか―。
千曲市と坂城町が出した答えは、行政主体で「受け皿」をつくること。 3月、「千曲坂城クラブ」を立ち上げた。県内初の取り組みだ。
千曲市教育委員会・山根義夫 指導主事:
小さな市と町なので、それぞれの競技団体、文化芸術団体も人数・組織的にも大きくない。そこにお任せするのは厳しいのではないか。今まで学校教育で行っていた非常に大事な活動ですので、部活動に代わる環境を保障していくのは行政の責任ではないかという結論に

千曲市教委の山根義夫指導主事(63)。地域移行を見据え2020年から調整役を担ってきた。まず始めたのが「指導者の確保」だ。
4月23日、「千曲坂城クラブ」陸上部の初練習。指導するのは宮入修一さん(56)だ。 会社員として働く傍ら、長く戸倉上山田中陸上部の外部コーチを務めてきたが、「千曲坂城クラブ」の指導者となり、この日は埴生中の部員も指導した。

千曲坂城クラブ 指導者・宮入修一さん:
心配とか不安もあるが、陸上をやりたい子どもたちができる環境を整えてもらったので、微力ですがやっていければ

理由を丁寧に説明 指導者137人確保
千曲市教委の山根さんは県のモデル校・長野市の裾花中に出向いて課題などを聞いて地域への説明会やアンケートを実施。その一方で指導者確保に奔走した。

千曲市教育委員会・山根義夫 指導主事:
最初は「学校の部活を俺たちに丸投げするのか」と言われたこともあった。どうして地域に部活動を移行しなければならないのか、どうして地域のクラブにしていくのか。丁寧に十分、説明して理解していただいた上で、指導者をお願いしていくことがとても大事。(指導者等への説明は何回くらいした?)ちょっと思い出せないくらい数が多い
その成果で運動系・文化系合わせて137人の指導者を確保した。(※4月18日時点)
先生とは違う目線で生徒を見る
4割は教員の「兼業」だが、残り6割は地域の指導者。 難しいとされていた文化系の指導者も確保し、吹奏楽部では冒頭で紹介した須坂さんなど地元の吹奏楽団のメンバー14人が指導者になった。

千曲坂城クラブ 指導者・須坂浩章さん:
先生たちとは違う目線で生徒を見ることができると思うので、うちのバンド(吹奏楽団)のメンバーの力を使えればいいのかな。みんな「吹奏楽バカ」なのかもしれないですけど、確かに休みがつぶれることはありますが、そこで不満が出ることはない
まず休日の活動からスタートした「千曲坂城クラブ」。
参加した生徒は―。
吹奏楽部の生徒(更埴西中):
最初はすごく緊張して、友達ができるかと思ったけど、同じパートの人と練習していくうちに、どんどん友達も増えてよかった
陸上部の生徒(埴生中):
最初は知らない人が多いからちゃんと話していけるか不安だった
陸上部の生徒(戸倉上山田中):
不安とかないです、逆に楽しみです。他の地域の人とか他のクラブの人とあまり関わることがないから楽しみ
家庭負担は年間3000円 資金確保の課題は残る
指導者の確保と並んで課題だったのが「資金の確保」だ。 クラブは指導者に時給900円、一日の上限を3時間と定め報酬を支払う。これに保険を含めた費用を両自治体の補助金の他に、生徒の家庭から年会費3000円を集めて賄うことにした。

月額にすると250円。保護者からの不満は聞かれなかった。 家庭の負担が少ないのは補助金があるから。資金の確保は課題として残り、今後は企業の協賛なども検討する必要があるという。
やりたいスポーツ、文化芸術活動がやれる環境を
千曲市教育委員会・山根義夫 指導主事:
すべての子どもたちが、自分のやりたいスポーツ、文化芸術活動を自分がやりたいときにやれる環境をつくっていくことが目標。補助金に頼っているのは望ましい姿ではない、自立したクラブにしていかなければならない。将来的には平日もクラブにしていきたいので、指導者への謝金を考えた時には大きな財源が必要になってくる
千曲市と坂城町はうまく滑り出した印象だ。
取材したNBS・久保圭輔記者:
地道な取り組みに加え行政主体ということで、地域の信頼感も得られやすかったようです。千曲・坂城は、地域に指導者がいて確保につながりましたが、中山間地などは指導者を見つけることも難しいため、自治体を越えた取り組みなど今後も知恵を絞る必要がありそうです
(長野放送)