フジテレビ夏のイベント「バーチャル冒険アイランド」の「未来を変えるFUTURE TALK」。

今回のテーマは「トイレから考えるSDGs」だ。世界で17億人が安全で衛生的なトイレの無い場所で暮らし、1日約700人の子どもが衛生問題で亡くなっている。

またトイレからはバリアフリーやユニバーサルデザインという多様性のありかたもみえてくる。2人のスペシャリストにフジテレビ佐々木恭子アナウンサーが聞いた。

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多機能トイレから機能分散されたトイレへ

登壇したのは株式会社LIXIL(以下リクシル)のコーポレート・レスポンシビリティ室 室長の長島洋子氏。リクシルは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」を目指す企業だ。技術やイノベーションの活用によりSDGsの達成を目指している。

株式会社LIXIL コーポレート・レスポンシビリティ室 室長の長島洋子氏
株式会社LIXIL コーポレート・レスポンシビリティ室 室長の長島洋子氏

そしてもう一人の登壇者は株式会社ミライロの代表取締役社長・垣内俊哉氏。ミライロは「障がいを価値に変え、すべての人が快適に過ごせる社会づくり」を提案している。垣内氏自身も「骨形成不全症」という病気をもつ車椅子ユーザーだ。

株式会社ミライロ 代表取締役社長の垣内俊哉氏
株式会社ミライロ 代表取締役社長の垣内俊哉氏

――「トイレ」といえば、命と人生に直結する大事なテーマですね。

長島氏:
リクシルでは、この夏にフジテレビの前に “LIXIL PARK”というバリアフリートイレの施設を期間限定でつくりました。車椅子ユーザーの方だけでなく、オストメイト配慮、乳幼児連れ配慮、さらに発達障がいの方などを想定した個室を展開しています。これまでは多機能トイレが主流でしたが、セクシャル・マイノリティの方や高齢者の介助者同伴による利用などが加わって、車椅子ユーザーが利用できないことも起きています。そのため今回リクシルでは機能を分散したパブリックトイレをご提案しています。

垣内氏:
LIXIL PARK拝見しました。トイレに右仕様と左仕様がありますがこれを知って頂けたことが素晴らしいと思います。左右どちらかに麻痺がある方は、手すりが左右にあるトイレのほうが便利です。しかしスペースの都合上、片方しかないトイレがこれまで多かった。こういう配慮が必要なことに気づいて頂けたというのは良かったと思います。こうしてたくさんの選択肢があると障がいのある方も外出しやすくなるだろうと思います。

リクシルは多機能トイレから機能を分散したトイレへのシフトを目指す
リクシルは多機能トイレから機能を分散したトイレへのシフトを目指す

選択肢が増えれば障がい者が外出しやすい

――ミライロは「障がい者視点の不自由を“価値”に変える」というサービスでビジネスを展開していらっしゃいます。

垣内氏:

幼稚園の頃から私は車椅子生活をしていて、歩けないことが嫌だったんです。「歩けるようになりたい。普通になりたい」と思っていました。「障がいは個性」といわれることは、自分の中では腑に落ちなかったんです。

「歩けるようになりたい」「普通になりたい」と思っていた垣内さんの幼稚園時代
「歩けるようになりたい」「普通になりたい」と思っていた垣内さんの幼稚園時代

しかし車椅子に乗っている自分だからこそ伝えられること、ビジネスにできることもあるだろうと考えるようになってから、「バリアはバリューだ」という視点を持てるようになりました。そして、ようやく車椅子に乗っている自分が「かっこ悪い」「情けない」ではなく、新しい形で社会に貢献できているんだという考え方に変わっていきました。

左右に手すりをつくる配慮が大切
左右に手すりをつくる配慮が大切

――垣内さんは外出する際にトイレについてどのようなご苦労はありましたか。

垣内氏:
まず選択肢が少なく探すのが大変でした。駅にはだいたいバリアフリー対応のトイレがあるので、駅で済ませて食事に行くとか、自分の一日の行動を考えるときにトイレに行くタイミングを組み込まないといけません。今後様々な仕様のトイレが社会に広がっていけば、障がいのある方の外出時の選択肢も格段に広がっていくんじゃないかと思います。

長島氏:
垣内さんがおっしゃるように車椅子生活をされている方でないと気づけない視点は非常に大事ですし、こういった当事者の声を活かしてできた商品が、車椅子でない方にとっても使いやすいということになり、多くの人に喜んで頂けることになります。ミライロさんとは、マーケティングや、商品開発で共同作業をさせて頂いています。

世界で17億人が衛生的なトイレを使えない

――リクシルでは様々な社会課題の解決に向けて取り組んでいますが、SDGsの達成に向けてトイレではどのようなアクションを起こしていらっしゃるのですか。

長島氏:
リクシルはコーポレート・レスポンシビリティ戦略の3つの重点取り組み分野「グローバルな衛生課題の解決」、「水の保全と環境保護」、「多様性の尊重」を通じてSDGsに貢献しており、トイレはそのすべてにあてはまります。先ほどのユニバーサルデザインは「多様性の尊重」につながりますし、「水の保全と環境保護」については、弊社のトイレは節水型かつ汚れが表面に付着しにくいようになっていて、掃除の際に水や洗剤が少しですみます。

 
 

――そして「グローバルな衛生課題の解決」ですね。

長島氏:
SDGsのゴール6.2では、「安全なトイレを世界中に」とありますが、いま世界で17億人が安全で衛生的なトイレが使えず、そのうち4億9千400万人が日常的に屋外で排泄しています。不衛生なトイレ環境だと感染症が広がり、1日あたり700人を超える5歳未満の子どもたちが亡くなっているんです。

こうした問題を解決するため弊社では開発途上国向けの簡易式トイレシステム「SATO(サトー)」を作りました。ハエなどによる病原菌の媒介や悪臭を防げる仕組みとなっています。こちらを製造・設置するのは現地の方なので、雇用が生まれることにもなります。現地で「作る」「売る」「使う」という持続可能なサイクルを実現しています。

簡易式トイレシステム「SATO」によって開発途上国の問題を解決する
簡易式トイレシステム「SATO」によって開発途上国の問題を解決する

災害時の避難所ではトイレ問題が切実

――日本は災害が多い国ですが、避難所でのトイレの問題が重要ですよね。

長島氏:
避難所でのトイレの問題は切実です。避難所でトイレの数が少ないとか、トイレが汚れてしまい被災者がトイレに行くのを避けたり、水分を取らなくなってしまうと健康に影響してきます。また夜暗い場所の仮設トイレに行った女性が暴行に遭うという問題もあります。

――特に障がいのある方にとって避難所のトイレにはどんな課題がありますか?

垣内氏:
避難所が学校になった場合、トイレがバリアフリーではないケースが多く、仮設トイレが出来てもやはりバリアフリーではないこともあります。またトイレが汚れてきて使いたくないので結局水分を我慢する。こうした理由で障がいのある方が健康を害する報告が非常に多いです。

災害時避難所でのトイレ問題は切実だ
災害時避難所でのトイレ問題は切実だ

――リクシルでは災害時のトイレについてどんな取り組みをされていますか?

長島氏:
弊社では災害時に強さを発揮する「レジリエンストイレ」をつくりました。見た目は普通の水洗トイレですが、通常モードと断水時に備えた災害モードに設定を切り替えることができます。通常モードでは水洗の際約5リットルの水で流せますが、災害モードでは1リットルで流せます。

このレジリエンストイレは、避難所になる小学校などに設置され、これらの仕組みを子どもたちに伝えることで、いざというときに、子どもたちが率先してリーダーになって活躍してくれます。

「レジリエンストイレ」の使い方を子どもたちにも学んでもらうことで持続可能な社会へ
「レジリエンストイレ」の使い方を子どもたちにも学んでもらうことで持続可能な社会へ

垣内氏:
残念ながら東日本大震災の時には、障がいのある方たちは、健常者と比較して2.5倍亡くなっています。逃げ切れなかった、または、周囲のサポートを受けとることが出来なかったわけです。地域住民の間で「助けあう」気運を醸成しておくことも大切ですから、そういう意味でも、子どもたちへの教育の必要性が高まってくると思います。

障がい者手帳をアプリに

ーー最後に、トイレの話からは離れますが、垣内さん、障がい者手帳をアプリにしたと伺っていますが、これはどういう目的があるのですか? 

垣内氏:
障がい者手帳は1950年代にスタートしましたが、これによって公共交通機関などで割引がきくなどありがたい制度ですが、毎日持ち歩かなければいけません。また障がいの種類や発行自治体によって種類が265もあるのです。そこで障がい者手帳をスマホのカメラで写真を撮るだけで登録できるようなアプリをつくりました。アプリを利用してレジャー施設や飲食店で使えるクーポンも発行できるなど、ユーザーの声を聴きながら日々アップデートしています。

ミライロは障がい者手帳をアプリ化した
ミライロは障がい者手帳をアプリ化した

――きょうはありがとうございました。このあとはぜひ動画を見て頂ければと思います。
 

【動画:THE ODAIBA 2021:未来を変えるFUTURE TALK-フジテレビ】

【関連記事:当事者だからこそ描ける障がい者との共生社会 ビジネス感覚を取り入れた『福祉の未来』とは

(文責:解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。