初めての小中学生向け白書…“若年層の理解が不可欠”
「国の防衛にはわが国の将来を担う若年層を含む国民の皆様のご理解とご支援が不可欠です」岸防衛相が8月10日の会見で紹介した1冊の小冊子。その名も「はじめての防衛白書~まるわかり!日本の防衛~」。
防衛省は、毎年、「防衛白書」を発行しており、令和3年版の白書は7月に発行されている。
今回、その白書の内容を小学校高学年から中学生に読んでもらえるよう、初めて「こども向け」の防衛白書を作成した。誰でも防衛省のホームページからダウンロードすることができる。

令和3年版の白書は、表紙の「墨絵」の騎馬武者が話題となった。スタイリッシュなデザインの表紙には、若い世代に関心を持ってもらいたいという狙いがあったという。白書制作のスタッフは、若手を中心に構成された。
そして、今回の「こども向け白書」は、若年層へのアピール第2弾だ。

若い世代に届くには…とにかくわかりやすく
約460ページの重くて分厚い従来の白書に対し、「はじめての防衛白書」は30ページ。小中学生でもわかりやすい「言葉」を使い、「イラスト」をふんだんに使っている。白書制作事務室の担当者は「伝わりやすさに主眼を置いた内容になっている」と話す。
言葉の選び方にも工夫が見られる。
例えば、「自由で開かれたインド太平洋」に向けた自衛隊の取り組みについて見てみたい。
“従来の白書”は「軍事力の近代化や軍事活動を活発化させている国に対しては、相互理解や信頼醸成を深めながら、不測の事態を回避することで、わが国の安全を確保すること」としている。一方、“こども版”では「国同士がお互いの理解を深め、信頼関係を築きながら、不測の事態(予測できないような衝突など)を回避すること」とシンプルに説明している。
「島嶼」を「島々」と言い換えるなど、随所に「こども読者」への細かい配慮も見られる。

政務官・中1長女「わかりにくい」の一言に…
2児の母である松川るい防衛政務官は、原案が出来上がった段階で、中学1年生の長女に感想を求めた。すると長女からは「使っている言葉がわかりにくい」と言われたという。こうした子どもの厳しい意見に応えるべく、松川氏も加わって校正作業が続いた。

松川氏が特に手応えを感じているのは、第1章「国の防衛はなぜ必要なの?」の記述だ。
「自分たちの国を守る意思と能力があることを周りに示し、日本から何かを奪うのは難しいと他の国に思わせること」「それでも他の国に攻め込まれるような場合には、確実に対処できるようにしておくこと」
松川氏は「抑止力と対処力という重要な考え方をわかりやすく説明できた」と話す。
副題の「まるわかり!」というフレーズも、松川氏の長女によると、「インターネットで検索する際に目にとまる」小中学生にとっての“バズワード”なのだという。白書には「こども読者」の生の声が反映されている。

“未来の自衛官“の心に届くのか
巻末には全体の2割にあたる6ページを割いて、戦闘機のパイロットや護衛艦の女性艦長など自衛官の「声」や任務の魅力について丁寧に特集している。

「こども向け」白書を制作した理由について、担当者は「将来を背負っていく世代を対象に、日本の安全保障環境や自衛隊の取り組みを知ってもらうため」と話す。
少子化が進む中、自衛隊も人材確保に頭を悩ませている。今回の白書を通じて、自衛隊は、若い世代の理解を深めることができるのか。そして、白書は“未来の自衛官”の心に届くのか。防衛省の試みは始まったばかりだ。
(フジテレビ政治部・伊藤慎祐)