冠水した道路を車で走行する危険性について何となく理解はしていると思うが、改めて国交省がひとつの指針を出したことには意味がある。ただ、台風シーズンが終わった2019年11月になって、なぜ注意喚起を始めたのか?
国交省の担当者に聞いてみた。
特徴をまとめて伝えることに意味があると公表
――そもそもこの資料をまとめた理由は?
2019年の台風19号や21号などで被災された方々の中には、車が水没するなどして車中で亡くなられた方が少なからずいらっしゃいました。その一つの要因として、冠水した道路を走った車がどうなるかユーザーがご存じない可能性があると考えたのです。
例えば、車は電気装置の「塊」であるとか、エンジンに水が入ったら当然壊れるとか、タイヤには空気が入っているので水深が深くなると浮くなど、車の技術的な特徴をまとめてお知らせすることに意味があるのではないかと思いました。
このような問題意識を日本の自動車メーカーとも共有し、様々な災害があったことも受けて、できるだけ分かりやすい形で打ち出すことに意味があると、この発表に至りました。
――台風シーズンを過ぎてから発表したのはなぜ?
その後、自動車メーカーと議論を重ね、正式に調査を行ったうえで、それらの情報を取りまとめました。
ともすると命に係わるような情報になるので慎重を期し、またあまり油断するような表現も避けようと考えを尽くした結果、発表が12月近くになりました。
――道路が冠水していたら水深が浅くても車を使わない方がいいの?
その状況は危険な状態なので、まず逃げ遅れないようにしていただきたい。
我々にできることは、車はこういう特性の工業製品ですとお伝えすることであり、それをご理解頂いたうえで、壊れない可能性にかけて車で逃げるのか、車を使わず高いところに逃げるのか、様々な選択肢があると思います。
ですので、絶対に乗らないでくださいとまではなかなか言えません。
――改めてドライバーに訴えたいことは?
まず、車の特性をご理解いただきたい。
そのうえで早めに避難するなど、冠水した道路を走るような状況に陥らないことが大事です。
普通の道路が冠水していなくても、水がたまったアンダーパスなどに油断して入ってしまう人がいらっしゃるそうです。そうならないよう避難していただきたいのですが、どうしても走らなければいけない状況に陥ることもあるでしょう。
そういう時、例えば水に浸かってドアが開かなくなった時、車の中と外の水の高さが一緒になるとドアが開くことなど知っておくと役立つことがあります。また、脱出用ハンマーを持ってるか否かで、逃げられるかどうかが変わることもあります。
このようなことを知っていただければ、万が一冠水した道路を走るような状況に陥ったとき、命を守る可能性が増えるかもしれないのです。
車内も外と同じぐらいに浸水するとドアが開く
国交省の担当者が語るように、「車内も外と同じぐらいまで浸水すると、ドアを開けることができる」ということについても今回の発表で言及していた。
この状況はJAFが実験によって確かめており、車内が浸水していない場合は水深90cmでドアがぴくりとも動かなかったが、車の中と外の水位が同じ場合は水深120cmでも女性がドアを開けることに成功している。
車が水没する状況に陥った場合、慌てずにこれを思い出してほしい。
近年は毎年のように集中豪雨や大型の台風が発生している。今からでも車の特性を理解し、脱出用ハンマーなどを備えておくことが、もしもの時に命を守ることにつながるのかもしれない。