「他で代替することができない能力だと思っている」
航空自衛隊のトップ・井筒幕僚長が「災害救助犬」について高く評価した。
大きな被害をもたらした静岡県熱海市の土石流現場。のべ2万人を超える自衛隊員が動員され、人命救助や捜索、道路上のがれき処理などを行う中、7月4日から13日にかけて9頭の災害救助犬が派遣され、行方不明者3人の発見に貢献した。
大量の泥にまみれた被災現場で、救助犬はどのようにして捜索活動を行うのか。
この記事の画像(6枚)150頭の中から選ばれるのは10頭のみ
航空自衛隊は基地などの警備を行う「警備犬」を約150頭、全国の各基地に持っている。この中で「人のにおい」を検知する訓練を積み、航空自衛隊が定める検定試験に合格した犬が「地域捜索犬」として登録される。この中からさらに、国際救助犬連盟(IRO)が定める基準を満たした約10頭のみが、今回熱海で捜索に当たったような「災害救助犬」として活動している。
災害現場で活動する救助犬は難関をくぐり抜けた“エリート犬”だと言える。
決まった“におい”が無い中で…災害救助犬の訓練とは
その災害救助犬が行う訓練はどのようなものなのか。
自衛隊の警備犬は、基地に爆発物が設置された場合などを想定して、火薬など特定のにおいを覚える能力に長けている。
一方、災害現場では追跡すべき特定のにおいがない中で、行方不明者を発見する必要がある。
航空自衛隊によると「複数ある箱の中の一つに対象者が入り、嗅覚を用いてどの箱にその対象者が入っているか捜索させ、特定した場合に吠えることで告知することができるよう訓練をする」ことで、能力を磨いているという。
「基地を守る」役目をもつ警備犬が、被災者を「見つけ出す」任務を与えられるようになった背景には、自然災害が近年頻発することで、「自衛隊の災害派遣要請」が増加していることが背景にある。
一般的に災害現場では、発生から72時間が経過すると生存確率が極端に低下すると言われている。このため速やかな救助活動が求められる中で、防衛省・自衛隊は「災害救助犬の投入が迅速な発見に寄与するもの」としている。
航空自衛隊のトップ・井筒幕僚長も15日の記者会見で「昨今、大雨や地震等の自然災害時に土砂崩れや倒壊家屋内で救助を求めている方々を災害救助犬が保有する優れた嗅覚を用いていち早く捜索救助することは、他で代替することができない能力だと思っている」と、救助犬の役割の大きさを評価している。
3年前に初めて被災地に 行方不明者を次々発見
航空自衛隊の災害救助犬が初めて被災現場に派遣されたのは、2018年に発生した西日本豪雨だ。集中豪雨により甚大な被害が出た中、救助犬が行方不明者4人の発見に貢献した。これを皮切りに、同年の北海道胆振東部地震では8人、2019年10月の台風19号の際は2人の発見に貢献した。
入間基地に所属していた災害救助犬、アイオス号とロック号はこうした功績が認められ、当時の小野寺防衛相からメダルや褒賞状の贈呈、栄養価の高い“高級ドッグフード”のご褒美が授与された。
活動時間は5時間が限界
一方、被災地での作業は救助犬に大きなストレスを与える可能性があるため、十分な休憩を確保しながら捜索を行う必要がある。このため、一日の稼働時間は5~6時間程度とされている。
共に活動する隊員にとって救助犬は「相棒」のような存在であるため、犬の健康状態を心配する声は省内にも少なくない。
自衛隊による救助犬の活用の歴史はまだ浅いが、救助犬の派遣の期間やタイミングをより精査し、きめ細かな計画を立てることが能力を十分に引き出すことにもつながる。決して身体が大きくはない救助犬への配慮が自然災害における「迅速な救助」の鍵の一つとなる。
(フジテレビ政治部・伊藤慎祐)