2021年3月12日の厚労省の発表で、厚生労働省の職員398人の残業が1月に月80時間の過労死ラインを超えたことが、また3月5日に政府が出した答弁書によれば内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の1月の残業時間が平均124時間に上ったことが明らかになった。2019年度には6名の国家公務員が過労死している。

民間企業の働き方改革が進む中、官僚の長時間労働が依然問題になっている。官僚の長時間労働はなぜなくならないのか、日本の未来にどんな影響があるのか。

2021年6月7日に行われた、国会改革をめざす超党派の議員による「衆議院改革実現会議総会」で、講師を務めたワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長にインタビューし、3回に分けてお伝えする。

第1回は、官僚の国会質問対応の課題と、誰もが疲弊する国会の仕組みについて述べる。国会という「モンスター」が国会議員、官僚を苦しめているのかもしれない。

「衆議院改革実現会議総会」で講演する小室氏
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官僚の重要な仕事の一つ、国会質問対応が残業の原因に

慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授による2018年のレポートによれば、国会の開催期に官僚が強いられている残業にかかっている費用は、なんと102億円である。深夜に終電を逃し、利用するタクシー代だけでも22億円かかっている。しかも、実際には行政の公表データの約3倍前後の残業をしている実態があるという。コロナ禍で、国民に休業補償の給付金も速やかに届かない中、本来であれば削減できるはずの費用が国会起因で発生している。

小室氏は、官僚の残業の原因のひとつが国会議員とのやりとりだと言う。官僚と国会議員のやりとりにはどんなものがあり、どんな課題があるのだろうか。小室氏に聞いた。

ワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長

――官僚と国会議員のやりとりにはどんなものがあるのでしょうか。

小室氏:
与野党の国会議員から国会での質疑に先立って政府への質問通告が出されます。質問する議員からの事前質問対応、政府の答弁を準備すること、答弁する大臣等に内容のレク(詳細な裏付けデータや法令の説明をしておくこと)を行うことが、官僚の役割です。
 

株式会社ワーク・ライフバランスは、国家公務員を対象にアンケート調査を2度行い、2020年8月に回答者480名の「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」、2021年4月に回答者316名の「コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」の結果を発表した。

ーー調査結果から官僚と国会議員とのやりとりに関して、どんな課題が浮かび上がりましたか?

小室氏:
課題が3つ明らかになりました。
一つ目は国会前日の深夜になってから、議員からの質問通告が出されることです。本来、質問通告の提出には「2日前ルール」があり、2日前に質問通告が届いていれば、通常の業務時間内で、質問に対する答弁書を作成し、当日答弁に立つ大臣が詳細な内容まで理解して答弁できるだけの説明をすることができます。しかし2021年4月発表の調査では国会質問の対応をしている回答者204名のうち85%が、「2日前ルールは守られていない」と回答しました。質問通告が前日夜に提出され、官僚が夜通し答弁を作成して早朝5時や6時に大臣レクをすることも珍しくありません。同調査では、国会の質問通告の遅い党や議員も明らかになりました。

出典:株式会社ワーク・ライフバランスHP

二つ目は質問通告のアナログさです。デジタルツールを積極的に活用するデジタル実践議員宣言に賛同する議員も増えており改善は見られるものの、FAXでの質問通告、対面で紙資料を使ったレクを求める議員がいることが課題です。

三つ目は、質問通告の内容です。「内外諸情勢について」などの漠然とした内容の質問をすることで、膨大な答弁準備をさせ、各答弁内容の詰めが甘くなることを狙って上げ足を取るためだと言われています。こうした質問通告が届くと、答弁内容を特定することができず、果てしない答弁作成になることがあります。また、各議員の質問持ち時間に到底収まらない多さの質問が送られることもありますが、官僚としては全てに対応する必要があります。

出典:株式会社ワーク・ライフバランスHP

議員の意識改革と定時完全閉庁が必要

――国会議員からの質問通告提出の遅さに対しては、どんな提案がありますか?

小室:
まずは、議員の意識改革が必要です。議員が質問通告の2日前ルールを守っているかに世論が注目することは、議員の意識につながると思います。言い換えると「どの議員が私たちの税金を102億円、無駄遣いしているのか」ということですよね。これは、今回の選挙でもしっかり争点にしていく必要があります。最後の一人の議員の質問通告が来なくて、台風の襲来するなか、待機をかけられた大勢の各省庁の官僚が帰宅困難になったこともありました。

また、時間になったら物理的に省庁を閉庁することが有効だと思っています。2020年12月に、「各省庁を22時から翌朝5時は完全閉庁する」という提言署名、約27,000筆を河野太郎行革担当大臣に手交しました。

「深夜閉庁を求める国民の会」による提言署名約27,000筆が河野太郎行革担当相に手渡された(2020年12月2日)

「質問通告のシステム化」の提案

――質問通告の脱アナログを進める具体的な施策についてはどうお考えですか?

小室氏:
まずは、今すぐにでも脱FAX、脱対面を進めて質問やレクをメールやオンライン会議で行うことから始めていただきたいですが、「衆議院改革実現会議総会」の講演では一歩進んで、質問通告を入力する専用サイトを構築することを提案しました。質問者が入力した質問内容がシステム内で共有されれば、答弁作成の担当官僚がすぐ作業に着手できます。

また、国民にも公開される仕組みにすれば、議員が質問した意図や背景が明らかになり、国民も巻き込んだ非常に実りある国会議論になるのではないでしょうか。国民の目があれば論点の不明確な質問も減るはずです。

ちなみに現在、国民が質問通告の内容を見るためには情報開示請求の手続きが必要ですが、当社で情報公開請求をしてみたところ、ほぼ全て黒塗りされて内容がわかりませんでした。国会議員と各省庁の信頼関係を守る必要があるためだそうですが、国民との信頼関係が置き去りにされているようにも見えます。また、SNSで質問通告の内容について発信する議員が増えているのは良いことだと思いますが、持続可能な公式の仕組みにすることは大切です。

国会議員が官僚を苦しめていたという気づき

――「衆議院改革実現会議総会」での小室さんからの講演に、出席した議員からはどんな反応がありましたか?

小室氏:
質問通告提出の遅さとアナログが官僚の長時間労働につながっていることに関して、「永田町の常識が非常識だったと身につまされた」「衆議院改革実現会議で取り入れられる対策を実現していきたい」というコメントがありました。与野党議員とも、国民のためにという気持ちで働いていると思います。

官僚の国会対応は「聖域」で非常識な時間でも対応することが当然、という空気がありますが、非常識な時間に質問通告の対応をしなければならなくなる官僚も国民だということに気づいていなかったのかもしれません。しかも、その残業代は国民の血税で支払われるのですから、まさに国益を損ねている行為です。

質問通告のシステム化に関しては、是非進めるべきだという前向きな意見がありました。

「衆議院改革実現会議総会」で講演する小室氏

質問通告がギリギリになる構造的な理由は、日程闘争にある

――質問通告の2日前ルールを徹底し、オンライン化を進めれば課題はすべて解決されるのでしょうか。

小室氏:
意図的に質問通告時間を遅らせている議員がいる一方で、致し方なく質問通告の提出が遅くなる構造的な要因は、「日程闘争」にあると考えます。国会の開催日程が2日前の段階で決まっていないことがあるのです。国会対策委員会の与野党議員によって国会を開催するか否かが争われ、直前まで国会の日程が決まらないという報道をご覧になることもあると思います。先進国で国会の日程が前日まで決まらないような国は日本だけです。

今の国会では、国会が開かれれば多数決で過半数与党の法案は可決される仕組みなので、野党が法案を阻止するには折衝の中で日程を遅らせることにより、あらかじめ決まっている国会の会期中に議論しきれなかった法案を廃案に追い込むという「時間切れ作戦」というカードで対抗するしかないという構造があり、問題は非常に根深いです。

しかし、基本的にはこの日程闘争は表面的なもので、最終的には折れて国会を開催することに合意するのです。それが前日ギリギリまで闘争してしまえば102億円の残業代になり、2日前で決着をつければ官僚は残業する必要がなくなるわけですから、どんなに与野党で折衝しても、必ず2日前には合意してもらうべきだと思います。

日程闘争よりも議論の内容に注力できるよう、日程闘争に代表されるような国会の仕組みそのものが変わるべき時が来ているのではないでしょうか。日程がギリギリに決まることは議論の質に影響し、国会議員や官僚も疲弊しています。

――日程闘争は議員にとっても不合理なのではないでしょうか。

小室氏:
実は日程闘争については、問題意識を持っている国会議員が少なくありません。しかし、「現在の国会の仕組み自体を否定するような提案をすると『国会軽視』だと批判を受けるので、それ以外のところで何か対策はないものか」という質問を議員から受けたことがあります。つまり、国会という姿の見えない「モンスター」のようなものを変えることができない、と議員ですら考えているのです。

――議員が仕組みを変えられないのであれば、誰が変えることができるのでしょうか?

小室氏:
国民の声です。議員の発案では難しいことでも、政権がひっくり返るほどの国民の声があれば、対応せざるを得なくなります。世論が動くことが重要なのです。しかしながら大きな問題は、日程闘争の仕組みが今まで一般国民には全く知られてこなかったこと。国民の理解が進んでいるとは言えません。

――メディアにできることは何でしょうか。

小室氏:
もっと日程闘争について深く取材し、かみ砕いた解説をして国民の議論を促すことが必要なのかもしれません。メディア自身が長時間労働すぎて、官僚の異常なほどの長時間労働をおかしいと思わないような感覚の麻痺が今まではあったと思います。また、政治担当の記者は政治の仕組みにとても詳しいので、今さら日程闘争のことを話題にしたら当たり前すぎて恥ずかしい、という空気があるのかもしれませんが、コロナ禍で日本社会に余裕がなく、これほどまでに多くの人が我慢している中で、こんなにも旧態依然として変わらない、国民に負担をかけている仕組みがあることを、知らしめることは大切なことだと思います。国会で、重要な政策の議論よりも日程闘争にエネルギーが使われていているのだとしたら、国民にとっても不幸なことなのではないでしょうか。

 

国会という「モンスター」を変えるための議論は官僚の長時間労働解消のためだけでなく、国会での議論を実り多いものにするために非常に大切だと感じた。まずは国会議員が質問通告の提出の2日前ルールを守ること、そして質問のオンライン化を進めることは、官僚の長時間労働の改善にダイレクトな効果がありそうだ。そして、国民にとっての透明化も進むだろう。

次回第2回は、官僚の長時間労働と残業代不払いの課題について述べる。

【執筆:フジテレビ 岸田花子】