政治家の中には“元記者・元ジャーナリスト”が少なくない。現職議員では石原伸晃元国交相や額賀福志郎元財務相、安住淳元財務相らがいる。そして菅内閣の現役閣僚の中にも地方紙の記者から政治家に転身した人物がいる。それは少子化対策や地方創生、そして孤独孤立問題を担当している坂本哲志大臣だ。

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熊本弁で、まるで実家の親せきが思い出されるように素朴で物腰やわらかな坂本大臣は、各メディアの番記者からこっそり「てつしマン」という愛称で親しまれている。あるとき私が他社にあるスクープ記事を書かれた…いわゆる「抜かれた」ことで消沈していた際に、坂本大臣がにかっと笑顔を向けて次のような歌を口ずさんだ。

「七つとせ、泣く泣く書くのを抜かれ原稿と申します、涙滲みます―。何回かこの歌を歌って強くなるもんよ」

これは「記者数え歌」という歌で、自身が15年間務めた熊本日日新聞の記者時代に、よく同僚と歌っていたという。記者の先輩に教えてもらったそうで、歌詞は10番まである。

坂本大臣の原点…熊日新聞に伝わる「記者数え歌」

「♪記者数え歌

一つとせ 一人で書くのを特ダネ原稿と申します 胸が躍ります

二つとせ 二人で書くのを企画原稿と申します ボツがありません

三つとせ 皆で書くのを発表原稿と申します どこも同じです

四つとせ 夜に書くのを泊まり原稿と申します 酒が滲みます

五つとせ いつも書くのを得意原稿と申します メモが要りません

六つとせ 無理して書くのを捏造原稿と申します 後が怖いです

七つとせ 泣く泣く書くのを抜かれ原稿と申します 涙滲みます

八つとせ 宿で書くのを出張原稿と申します 日当入ります

九つとせ こってり書くのを特集原稿と申します 談話入ります

十ォとせ とうとう書けない頭悪いと申します 会社クビになるお終い!」

ユーモアたっぷりに歌われた記者の悲喜こもごもは、坂本大臣にとって朝から夜遅くまで取材と執筆に奔走した当時のことを思い出させてくれるものだという。私をはじめ現役記者にとっても「なんとなくわかる!でも、わかりたくないものも…」と思わされる歌詞だ。

得意原稿~港町の支局で文才発揮、連載がヒット

坂本大臣は記者時代、熊本・天草の牛深支局で3年間を過ごした。港町の牛深は夏になると海水浴客で賑わい、子どもの水難事故が多発した。その際に上司から「〇時までに子どもの写真を絶対にとってこい」と指示されるのが憂鬱だったという。

「泣いてるお父さんお母さんを前にお子さんの最近の写真をお借りできませんかと頭を下げるわけだよ。なかなかできないよ。それがいちばん苦しかった」

「熊本・天草」

新米記者時代をこう振り返る坂本大臣だが、小さな支局であっても決められた紙面を埋めなければならない。そこで天草の伝説的ないわし漁師の人生を題材に「謙太郎どんのいわし漁一代」という連載を始めた。当時その人物について書かれた文献は一つもなく、漁師仲間や子孫を訪ねてまわり、地道に書き続けた。すると連載の評判がとある作曲家の耳に入り、トントン拍子で地元の歌手が連載をもとにした歌を歌うことになり、なんとNHKのみんなのうたで流れた。

「牛深に行くとその歌の石碑が今もあるよ。作詞作曲者名は書いてあるけど、原作者名は書いていないね(笑)」

こんな文才を持つ坂本大臣は今でも文章を書くのが好きで、ほぼ毎日更新しているブログには、議員の間でも「面白い」と密かなファンがいるなど、記者時代の経験が政治家としても生きている。

記者の「誰のため、何のために書くか」と、政治家の「人の苦しみへの寄り添い

記者はネタをとらなければならない。一方でそれが誰のためなのか、何のためなのか、ふと時々わからなくなり、胸がぎゅーっと締め付けられるようなことがある。そんなことをぼやいた私に、坂本大臣は「人と向き合うことはおもしろいことも、苦しいこともありますよ」と笑い、続けてこんな体験を語った。

「昔、仲の良かった人のお父さんが行方不明になってね。頼まれて記事にしたけど、見つかったとき、自殺だとわかった。それをまた記事にするかどうしようか考えたが、探していると書いたので結論も書いた方がいいかなと思った。しかし、記事を見たその家族から『なぜ書いたのか』と何度も問われた。自分の記事で傷つけてしまったんだ。一緒にジョギングもしていた仲だったのに、それ以来絶縁になった。あのことは忘れられない」

坂本大臣にとって、記事によって人を傷つけたという記者時代のつらい記憶は、今コロナ禍で経済的にも精神的にも日常を奪われて苦しんでいる人への支援や、社会の孤独と孤立の問題に政治として何ができるのかを考える原点の1つになっているのかもしれない。

「政治家に、苦しむ人の気持ちがどれだけわかるのか」

これは政治家が国民から痛いほど浴びる言葉だ。それだけに政治家は、人の気持ちを知り、他者の思いは自分とは違うかもしれないということを前提に、苦しんでいる一人一人に慎重に向き合う必要がある。そして今その先頭に立つのが坂本大臣の立場だ。

さらに坂本大臣は「苦しみを苦しいと声にできない人もいる」とも語る。苦しい!という叫びと、声にならない叫び、両方に孤独孤立政策はアプローチしなければならない。自身の原点である新聞記者時代の魂を持ち続ける坂本大臣が、人の孤独感に今後どう向き合っていけるか、「孤独・孤立対策担当大臣」の難しい取り組みは国内外から注目されている。

(フジテレビ政治部 池田百花)