企業の36.8%で既に高卒新入社員の離職者が…

新型コロナウイルス感染症の影響による解雇や雇い止めで仕事を失う人がいる中、今年入社したにも関わらず、すでに離職した高卒新入社員がいる企業が約4割となることがわかった。

高校生の採用に特化した求人サイトを運営する株式会社ジンジブが、企業の採用担当者を対象にアンケートを実施したところ、「21年入社の高卒人材の中で、すでに離職した人いる」企業が36.8%だったという。
(※この割合は、2人入社1人離職者の場合でも、40人入社1人の離職者の場合でも「いる」の回答数は1となるので、離職率とは異なる)

調査は、企業の新卒採用担当者496人を対象に「2022年卒の新卒採用に関するアンケート」として6月14日~16日にインターネットリサーチで実施。この中で、「高卒採用を実施している」と回答した190人に、「21年入社の高卒人材の中で、すでに離職した人はいますか?」と質問したところ、70人(36.8%)が「いる」と答え、「いない」が114人(60%)、「答えられない」が6人(3.2%)だった。

提供:株式会社ジンジブ
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入社から2カ月半で、約4割の企業で既に高卒新入社員の離職者がいるとのことだが、なぜこんなにも早く仕事を辞めてしまったのだろうか? もしかしたらコロナが関係しているのだろうか?

詳しい理由などを株式会社ジンジブに話を聞いた。

コロナ禍で企業を理解できないまま就職

ーーなぜ高卒人材を採用する約4割の企業で、新入社員の早期離職が起こった?

高校生の就職活動で応募する1社を決める上で、貴重な情報源となっているのが「職場見学」です。

高校生は求人公開された7月から夏休み期間を使い、希望する会社に訪問して初めて企業の人事担当や職場訪問をすることができます。(多くの場合その1回で応募するかどうか決めます)期間も短く、斡旋する先生の業務負担が多い、企業と先生の間の関係性重視などで、先述したように1社のみや、2社ほどしか訪問できない生徒が多いです。

このようにコロナ前に関しても、充分な企業研究や選択ができなかった中で、コロナ禍が重なり、職場見学が実施できないなど、就職先企業のことが充分に理解できないままに応募就職することになり、ミスマッチが増えていると思われます。

職場先の研究ができない点ですと、オンライン就活ができにくかったことも上げられます。学校が就職活動の仲介していることにより、「1社だけの応募ということもあり実際訪問させたい」「学校のPCやWi-Fi環境が整わなかった」「オンラインの接続が上手くできるか心配で付き添いが必要になる」などでオンライン化が進みませんでした。

(イメージ)
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ーーコロナの影響は他にもあった?

求人数は約38万人で前年同期20.2%減少しました。とはいえ求人倍率は2.64倍、就職内定率(就職希望者に対する就職内定者の割合)は99.1%(前年同比0.2ポイント減)と例年と変わらないです。就職者数は14万6千人(前年同期 16万6千人)と12.7%減少しました。

2020年は新型コロナによる学校の休校措置が取られ、3月~5月末まで多くの高校が休校となりました。休校になったことでキャリア授業や、進路面談などが充分に行えず進路指導が遅れた高校もあったようです。

全国の就活期日も応募開始が9月5日から1カ月後ろ倒しとなり、10月5日に変更されました。卒業時期は3月ですので1カ月の就活期間が短くなりました。

採用スケジュール(提供;株式会社ジンジブ)
採用スケジュール(提供;株式会社ジンジブ)

「内定を得るまで時間がかかった」「希望の業種・職種を変更した」「職場見学に行くことができなかった」「県外への就職ができなかった」などの影響もありました。

通年でも高校生にとって企業研究する時間が短いにも関わらずコロナの影響で、進路始動が充分にできなかったり、職場見学へ行けないまま応募したりと、ミスマッチが増えたのではないかと危惧しています。 

また地域による求人倍率の格差も大きく、元々地元就職の志向が強い高校生ですが、コロナの影響で県外就職の志向は少なくなりました。


ーーこれまでも早期離職が課題になっていた?

高校生の就職活動では長年続く特有の仕組みによって、充分な企業研究がされないままの内定を得て入社をする傾向と、加えて学校によるキャリア教育の不十分さもあり、早期離職につながっていると指摘されています。

【高校生の就職活動の特有のルール】
高校生の就職活動では、高校の紹介を介して就活を行う「学校斡旋」が一般的です。学校斡旋を受ける場合、応募開始から一定の期間は1社しか応募することができず、高い内定率を誇る一方、高校生は「1社だけを調べ見て、1社だけを受けて、1社に内定した人」が55.4%(リクルートワークス研究所調査)と、半数以上が1社だけを見て就職活動をしている状況があります。

企業側は学校を通じてPRを行うため、求人票以外の魅力を充分に伝えることができません。高校生は学校からの推薦ということもあり内定辞退もしにくいのが現実です。(学校と企業のつながりが重視されてしまう)

これらによって双方にとってミスマッチが起き、入社1年目の離職率(高卒の17.2%と大卒の11.6%)(「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」厚生労働省)などの課題につながっていると言われております。

学校斡旋について(提供:株式会社ジンジブ)
学校斡旋について(提供:株式会社ジンジブ)

このことは、2020年2月の文部科学省と厚生労働省の「就職問題検討会議」のワーキングチーム報告書により、ミスマッチを防ぐため一人一社制の見直しや、学校斡旋以外に、「民間業者斡旋」も利用できる旨の浸透など提言がなされております。

2021年6月18日の政府の「骨太方針2021」でも「高校卒業者の就職に係る一人一社制の在り方について、各都道府県における検討を促す」と明記されております。


ーー「一人一社制」とは?

9月の応募開始時期、一部の地域を除いて、高校生が応募できるのは原則一人一社です。「一人一社制」とは、企業が自社への応募に際して、単願を求め、学校側としても応募の推薦を制限し、「応募解禁日」から一定時期の間まで、一人の生徒が応募できる企業を一社とする制度です。

学校の推薦状を持って応募するため、原則、内定辞退をすることはほとんどありません。10月以降、一部の都道府県を除いて“一人二社”応募が可能になります。ただし、秋田県・沖縄県は9月の応募開始時期より一人三社応募が可能です。また、2021年度(2022年卒)より和歌山県は複数社応募可能です。
※一人二社応募が始まるスケジュールは都道府県ごとに異なります。

一人一社制(提供:株式会社ジンジブ)
一人一社制(提供:株式会社ジンジブ)

大学生より自由度は低いが内定率は高い

ーー高卒と大卒の就職活動で違いはある?

多くの学生が行っている「大卒の自由就活」と高卒の「学校斡旋」の比較です。

・大卒は就職協定はありつつも3年生の時期から就活を行うなど本人の意思で早く就職活動を行える、高卒は7月の求人情報公開から9月5日の応募までと短い就職機会
・大卒はインターンや、リクナビなどの求人サイト、就活イベントなど多く企業に触れる機会があるが、高卒は「求人票」という表裏1枚の文字情報で情報収集を行うため待遇面でしか判断ができない
・大卒は多くの企業に応募し多くの選択肢の中から選ぶ、高卒は応募は1社ずつの応募、1人1社~2社から選ぶ
・大卒は自分の意思でどの企業、担当にも会える、高卒は自ら会いに行くことができない。
・大卒は複数内定を得て1社を決めるが、高卒は内定を断りにくい、複数の内定を得られない


ーー高卒人材の離職の特徴は?

大学生の就活では多くの企業との接点を取ったり、複数社にエントリーを行い比較検討することができます。高校生の就活では、多くの高校生は1人1社~2社しか見ていない、接点回数も職場見学と面接1〜2回程度と少なく、自己選択による就職がなされているかという面では弱くなります。入社してから初めて知ること感じることによりミスマッチを感じて辞めてしまう。

高卒者にとって、早期離職した場合、大卒のように「第二新卒枠」が一般的ではなく大卒と比べると再就職は難しく、退職して非正規雇用となりやすいです(高校卒者で36.2%、大学卒者で25.3%と10%以上の差がある)。

理由は知識がなくフリーターになったり、早期離職してしまい学校に申し訳ないと学校斡旋の既卒採用について相談に行けないなどです。

(イメージ)
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ーー高校生の就活は自由度が低い?

学校斡旋による就職の場合、自由度は低いですが内定率は高く、「大変さ」は大卒と比較すると低いです。学校からの推薦ということと、一人一社応募もあり企業も内定を出します。最初の1カ月で60~65%ほどが内定を得て就活を終えます。

学校と企業の関係性(先輩も入社している、来年の後輩のため)を重視すると、高校生は内定辞退はしにくいのが現状です。就職しやすいが、自由度が低いということです。(多数の企業を見比べていない、一社しか応募ができない)

学校斡旋は、高校生の学業優先や平等に職業機会を与える内定を得やすくするため、また高校生が自ら職業選択するのに未熟(未成年)という考えで戦後から長く続いている仕組みです。自分で企業を調べて選択して複数応募する大学生の就活は大変ですが自由度が高いです。


ーーなぜ内定は辞退しにくいのに、入社してすぐに辞めることができる?

高校を卒業してしまうと先生の管理はなくなります。学校との関係性を考えて辞めにくいと思う人もいると思いますが、基本的に卒業したら関係はなくなりますので、そのことよりもリアリティショックが大きく退職の道を選ぶ人がいるということだと思います。

上司や先輩との人間関係、職場に馴染めない、勤務条件、思っていた仕事と違った(理解不足)などの理由が多いです。入社1~3カ月の場合は社会人になるメンタルが追いつかず辞めてしまうケースが多いように思いますので定着には丁寧なフォローが必要です。

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いまはチャレンジできる社会になっている

ーー新人教育にもコロナの影響はある?

企業のリモートワーク推奨をされていることによって、新人研修自体が困難しています。出社が制限されることによるコミュニケーション不足が起き、早期離職につながっている面があります。パソコンの操作が分からない、社会に対するギャップは大卒よりも大きいのでそのギャップを埋めるためにもフォローが重要となります。


ーー就活支援をする側の悩みはある?

コロナによって、学校に通えない、外部の立ち入りを禁止するなど、今まで当り前であった日常行動が出来なくなりました。また、就職活動においては、職場見学なども日程が限られるなど、企業と高校生の接点がとりづらくなることもあります。

そんな中、オンラインで職場見学を行ったり、高校でのガイダンスを行ったりしてきました。新たなやり方を模索しながら、高校生がより多く社会に触れ、考えるきっかけ創りをするためには、何が必要か。常に悩みながら、試しながらの支援の1年でした。

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ーー今後はどう工夫した方が良い?

民間での支援の必要性、オンラインでの企業見学、面接の推進です。


ーーこれから就活をする高校生にメッセージはある?

まずは自分自身で本当に働きたいエリアや、就職したい業界、やってみたい職種を考えてみてください。学校からの求人票情報や、私たちのような民間サービス(就職情報サイト)も一回見てみて、自分の意思で就職活動を進めてください。

高校生の就職活動では学校に寄せられる求人情報には多くは地元企業の情報しか集まりません。そうすると希望する仕事では選ぶ選択肢は狭まってしまうかもしれません。首都圏には求人は多くあります。社宅や寮を準備してくれる会社もあります。地域間格差によって、求人倍率は大きく異なりますので、一度他のエリアも見る事をしてみてください。

今の時代は学歴を気にしない経営者は多くなってきています。想像するよりやりたいことをチャレンジできる社会になっています。なので就職活動に関して決して卑下せず、諦めず、夢や希望を持って就職活動に臨んで頂きたいと思います。


なおジンジブでは、1人1社~2社しか企業をみない高校生の就活を少しでも視野を広げたり、希望の企業を見つける機会を設けるイベント「ジョブドラフトFes2021」を7月12日から全国10会場で開催するとのことだ。

提供:ジンジブ
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2020年ジョブドラフトFesの様子(提供:株式会社:ジンジブ)
2020年ジョブドラフトFesの様子(提供:株式会社:ジンジブ)

コロナ以前から課題となっていた「一人一社制」に加え、昨年はコロナの影響で職場見学ができないなど、企業研究があまりできずに入社したことでギャップなどが生まれ、離職を選んだ新入社員がいたとのことだ。

担当者が話すように、高校生も受け身ではなく自発的に就職活動をしてくいくことが重要となりそうだ。

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プライムオンライン編集部
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