2022年春に卒業する大学生などを対象とした企業の採用面接が6月1日に解禁となった。就職活動が本格化する一方で、「お祈りメール」が届く回数が増えてきた学生もいるかもしれない。

「お祈りメール」とは企業の不採用通知の通称で、末尾に「ご活躍をお祈りします」などの定型文がつくことから、こう呼ばれている。

就活生にはつらい連絡だが、今年はそのショックを和らげてくれるかもしれないサポートが行われている。3通のお祈りメールが届いてしまったら、防音の会議室などが無料で使えるサービスを、コワーキングスペース事業を展開する「Kaeru」(大阪市)が1日から始めたのだ。

防音性に優れた個室などが無料で使える

利用できるのは、Kaeruが運営する大阪市中央区のコワーキングスペース「オオサカンスペース」とその内部に併設された「ぼっちボックス」。ぼっちボックスは防音性に優れた一人用の会議室(個室)で、吸音パネル、幅140cmのデスク、電源やWifi環境などを備えている。

防音会議室「ぼっちボックス」の内部
防音会議室「ぼっちボックス」の内部
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オオサカンスペースは広さ約106平方メートルで、社会人を中心に作業空間として利用されている。今回のサービスでは、ぼっちボックス2時間まで、オオサカンスペースを1時間までを1セット(合計3時間)とし、月に3セットまで無料提供するというものだ。

コワーキングスペース「オオサカンスペース」(提供:Kaeru)
コワーキングスペース「オオサカンスペース」(提供:Kaeru)

Kaeruによると、通常料金では1セットで3300円(税込)はかかるということなので太っ腹のサービスだろう。その一方で気になるのはサービスの目的。

3通のお祈りメールであるならば、就職活動をしていればすぐに届きそうなものだが、なぜこのような設定をしたのだろう。Kaeruの社長・大崎弘子さんに伺った。

お祈りメールでも「いいことがあった」と感じてほしい

ーー就活生への無料提供を始めたのはなぜ?

ぼっちボックスはもともと、社会人向けに2021年4月にオープンしました。ただその後、オオサカンスペースで働く学生アルバイトから「使わせてほしい」との声があったのです。

後から理由を聞いたところ、就職活動のオンライン面接に使ったそうで、集中できて、同僚のアルバイトらと感想などの意見交換もできたとのことでした。コロナ禍では落ち着いて就活を進められる環境が少ないと思っていたので、お役に立てればと始めました。

ぼっちボックスは社会人向けに作られたもの(提供:Kaeru)
ぼっちボックスは社会人向けに作られたもの(提供:Kaeru)

ーー利用条件を3通のお祈りメールにしたのはなぜ?

お祈りメールは受け取ると、自分が社会から必要とされていない感覚になります。そんな気持ちを癒して「いいこともあった」と感じてもらえればと思いました。3通という数字は普通に就活すれば誰もがあてはまると思い、設定しました。

また現在の利用者は社会人が多かったので、就活生は訪れにくいことも想定されました。3通という低いハードルがあることで、気分的に訪れやすくなるのではと思いました。

お祈りメールはつらいもの(画像はイメージ)
お祈りメールはつらいもの(画像はイメージ)

ーーお祈りメールの確認は行うの?高校生や第二新卒は対象となる?

お祈りメールの確認はしますが、利用しやすさに重点を置いているので、画面をちらっとみせてもらうだけでOKです。内容を詳しく見たりはしません。対象は現状、大学生と大学院生の就活生としております。この点はニーズを見て、検討していければと思います。


ーー利用状況はどう?

始まったばかりなので、知人のつながりで数人程度です。ただ、一般の就活生から予約の連絡もあったのでこれから少しずつ増えていくのではないでしょうか。

ぼっちボックスの利用イメージ(提供:Kaeru)
ぼっちボックスの利用イメージ(提供:Kaeru)

困ったときに「誰かがいる」環境がある

ーー無料提供を利用したい場合の流れを教えて。

オオサカンスペースのウェブサイトにある「ビジター予約」に進み、予約ページの自己紹介欄に無料提供の希望と時間帯を記入してください。オオサカンスペースの1時間(1セット分)は、ぼっちボックス利用時間の前後で、好きに配分できます。予約当日はオオサカンスペースに来ていただくと、スタッフが出迎えて簡単な説明を行います。後は自由にご利用ください。

予約画面の例(提供:Kaeru)
予約画面の例(提供:Kaeru)

ーー設備面では、就活にどのように役立てる?

一番は面接に集中できることです。自宅でのオンライン面接だと家族の声や周囲の工事音、上下階の騒音に悩まされたりしますが、そのようなことはありません。ネット環境も安定しているので面接の途中で通信が途切れることもありませんし、必要であればマイクやイヤホン、ヘッドホンなども無料で貸与します。

また、困ったときに「誰かがいる」というのは大きいと思います。オオサカンスペースは2012年にオープンしたのですが、起業家の利用者が多く、今は社長になっている人もいます。そうした点では珍しい交流ができるかもしれません。

当日の主な流れ(提供:Kaeru)
当日の主な流れ(提供:Kaeru)

ストレスや孤独のガス抜きができれば

ーー就活生には無料提供をどう活用してほしい?

例えば、オオサカンスペースの利用時間をオンライン面接前に設定し、面接先の企業についてスタッフらと話をしてはいかがでしょうか。コロナ禍の就活では、企業と直接会う機会が少ないので、なぜこの企業を受けたいのかわからなくなったりもするそうです。どの時間帯でも2人程度の学生アルバイトはいるので、就活生同士での意見交換もできると思います。


ーー就活生に伝えたいことはある?

コロナ禍は大学でも思うように交流できず、就活生には難しい環境です。孤独な就活でお祈りメールが届くと疲れや苦しさも感じると思います。入室時の検温や消毒、パーテーションの設置や換気などの感染予防対策はしているので、ガス抜きの役割もできたらと考えています。

感染予防対策もしている(提供:Kaeru)
感染予防対策もしている(提供:Kaeru)

お祈りメールを無料提供の条件としたのは、就活生のつらい心境を少しでも和らげたいという配慮からだった。コロナ禍の就活は続くが、学生はこのような場所もあることを覚えておいてほしい。

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プライムオンライン編集部
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