東日本大震災当日、岩手県釜石市では防災教育の成果でほとんどの子どもたちが高台に避難し津波を免れた。その取り組みに学び、全国の学校防災の改善につなげようというオンライン講座が今、行われている。

 時速36kmの車と競走…津波を体感する授業

震災から10年を迎えた2021年3月、あるオンライン講座が始まった。その名は「学校防災アップデート大作戦」。

釜石で震災前に行われていた防災教育に学ぼうという講座で、全国の教員など約20人が参加した。

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大阪の教員:
マニュアルが一切なくて。避難訓練はやっているけれど、「とりあえず校庭に」という段階で

主催者側の中心メンバーは、宮城県石巻市立大川小学校で娘を亡くしている佐藤敏郎さん(57)。
そして、釜石東中学校で震災当時、教員を務めていた糸日谷美奈子さん(43)。

佐藤さんは、自身もかつて中学校の教員だった。釜石の取り組みには、全国の学校が学ぶべき点があると考えていた。

大川小の遺族・元教員 佐藤敏郎さん:
震災の前に取り組んでいたことを、私たちはもっと知るべきだと思う。それを教訓にしない手はないですよね

糸日谷さんは震災の2年後退職し、現在は夫の地元・千葉市で暮らしている。直後は辛くて語れなかったというが、大川小の佐藤さんとの交流をきっかけに、体験をほかの教員に生かしてもらいたいと考えるようになった。

震災当時 釜石東中の教員 糸日谷美奈子さん:
釜石東中学校の取り組みは、今思い返してもすごく一生懸命でしたし、その裏で(教員が)どんなことを思って行動していたかを伝えた方が、これからの先生たちには良いんじゃないかと思った。学習の中で、釜石東中学校は(海が近くて)危ないとか、津波は来てから避難しても間に合わないことは学んでいました

糸日谷さんが講座で紹介した釜石東中の防災の取り組み、それは多種多様なものだった。まずは、隣の鵜住居小学校と度々行っていた合同避難訓練。

そして、かつて周辺を襲った津波の高さ13mを示すための矢印が校舎に設置されていた。実際にこの矢印を思い出して、震災当日、避難した保護者もいたという。

さらに津波を想定した速さ、時速36kmで教員が車を運転し、生徒と競走する授業も。こちらも当日の迅速な避難につながった。

防災を“日常化”することが大切

今回の講座では、当時の教員たちの思いも紹介された。震災前、釜石東中で防災教育を担当していた森本晋也さん(現在は文部科学省勤務)。

2006年に行われた市の研修会で、津波が必ず来ると認識したことが出発点だったという。

釜石東中で震災前に防災を担当 森本晋也さん:
どうやったら少しでも実感を伴って、この災害を自分事としてできるかと考える中で、学習を楽しみながらやっていくのも必要なんじゃないかと思っていた

講座で特に注目を集めたのは、ひときわユニークな取り組み。

地震発生時、てんでんばらばらに高台へ逃げる大切さを示す言葉「てんでんこ」。それを学んだ成果を地域に発表しようと「てんでんこレンジャー」に生徒が扮したビデオを制作していた。

また、防災は各教科の授業の中にも取り込まれていた。

震災当時 釜石東中の教員 糸日谷美奈子さん:
理科室の使い方というところで、避難訓練のような形で、ここで地震が起きたらどういう行動を取るかというのを実際にやっていました。国語の授業で防災の作文を生徒に書いてもらって添削したり、(防災に)協力していた先生もたくさんいたので、楽しくやっていました

釜石東中で震災前に防災を担当 森本晋也さん:
新しいものをどんどん取り入れる余裕はなかったんですね。なので、既存のものでいかに防災教育に取り組むことができるかアイデアを募集したり。教師がみんなで協力し合う雰囲気がとてもあったと思います

あの避難行動の背景にあった、防災に日常的に触れられる環境づくり。

オンライン講座ではそれを伝えるとともに、各地域でどんな災害が起きうるのかを理解し、想定を変えながら訓練を行うことが大切と呼びかけた。

震災当時 釜石東中の教員 糸日谷美奈子さん:
避難訓練も全校で行く前に自分のクラスだけで行ってみるとか、自分の部活動の生徒だけで行ってみるとかも良いと思う

全4回、合計6時間にわたって行われた今回の講座。受講生はそれぞれの現場で学びを生かし始めている。

津波の高さ示す“矢印” 川に近い保育園でも

東京都日野市にある、たかはた北保育園。講座に参加した保育士の沼田耕一さんが、さっそく取り入れたのは…

たかはた北保育園 保育士 沼田耕一さん:
こちらに水害を想定した最大の水の高さの矢印を張ってみました

この保育園は多摩川の支流・浅川から100メートルほどの場所にある。洪水が発生した場合、最大3m程度の浸水が想定されているが、その高さを見える形であらわした。

たかはた北保育園 保育士 沼田耕一さん:
保育園の子どもたちにも何かできることはないかと考えて、釜石東中の生徒が行っていたここまで(過去の)津波が来たという矢印を見て、これならすぐに発信できるなと

たかはた北保育園の保育士・沼田耕一さん

他の保育士:
ここまで水が来ると聞いて驚きました。水害っていうものは怖いと再認識した

釜石の取り組みが全国に波及していることに、糸日谷さんは手ごたえを感じている。

震災当時 釜石東中の教員 糸日谷美奈子さん:
すごく嬉しいです。防災っていうと、すごく敷居が高いイメージがあるんですよね。もっとフラットに色んな人と防災について話せるようになれば、もっと広がると思うけど、なかなかそうなっていない。第2弾、第3弾と続けていけたらという思いがあります

紹介したオンライン講座は、第2期が6月5日(土)から始まっている。「学校防災アップデート大作戦」で検索を。

(岩手めんこいテレビ)