対面では実に2年ぶりとなるG7サミット=主要7カ国首脳会議が6月11日から13日の日程でイギリスのリゾート地・コーンウォールで開催される。

G7には議長を務めるイギリスのジョンソン首相をはじめ、アメリカのバイデン大統領、フランスのマクロン大統領、ドイツのメルケル首相、イタリアのドラギ首相、カナダのトルドー首相、EUの大統領と委員長、そして日本の菅首相が参加する。

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7カ国の首脳のうち最古参はオンラインも含め実に18回目の出席となるドイツのメルケル首相だ。これに対し対面での初参加は、アメリカのバイデン大統領とイタリアのドラギ首相、日本の菅首相の3人となる。

G7で記憶に新しい場面がこちらの2018年のカナダで行われたサミットでの写真だ。

2018年カナダでのサミットでトランプ大統領に詰め寄るメルケル首相
2018年カナダでのサミットでトランプ大統領に詰め寄るメルケル首相

腕を組むトランプ大統領に詰め寄るドイツのメルケル首相。その間で悩ましい表情を見せる安倍首相。一体、この時何が議論されていたのか。政府高官はこう話す。

「この時G7では“ルールに基づく国際秩序”が話し合われていたが、トランプ大統領がこのフレーズは何のことだ?と話し、メルケル首相がWTO(世界貿易機関)のことだと答えた。それに対してトランプ大統領は“WTOはいらない”と反論した」

この緊迫のサミットに加え、2019年には首脳宣言さえまとまらないという異例の事態となるなど、自国第一主義を掲げるトランプ米大統領と欧州各国の溝の深さが浮き彫りになり、G7は名実ともに崩壊しかけていた。

しかし今年、アメリカではトランプ氏に代わり同盟国との多国間主義を重視するバイデン大統領が誕生し、日米欧が再結束する位置付けのG7となる。

G7結束の象徴は対中 異例の「中国」を集中討議

今回のサミットは3日間で以下の6つのテーマが議論される。

(1)コロナ禍からの経済回復、ジェンダー
(2)中国
(3)地域情勢
(4)大規模感染症対策
(5)民主主義の結束・権威主義への対応
(6)気候変動・生物多様性

この6つのテーマが3日間の日程で討議されるがコロナ禍からの経済回復や地域情勢、権威主義への対応などに加えて「中国」という特定国もテーマに設けられていることが今回のサミットの大きな特徴だ。これまで欧州各国は地理的にも遠く、経済的な結びつきが強い中国に対する警戒感が低かったのが実情だが、新疆ウイグル自治区の人権問題や、中国政府が関与を強める香港情勢を踏まえ、危機感は日米と足並みをそろえるものとなりつつある。

トランプ政権下ではアメリカと欧州は安全保障や通商を巡って関係が冷え込んだが、その立て直しに向けて、「対中政策の連携」というテーマがG7再結束の試金石になる。

会議では菅首相がリードスピーカーとなりG7唯一のアジアの国として中国が周辺に及ぼす影響などを説明し、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」への支持を各国に広げる役割を担う。また4月の日米首脳会談の共同文書に盛り込まれた「台湾海峡の平和と安定の重要性」もG7首脳宣言に盛り込まれる方向で調整が進められている。

菅首相 中国問題対処に加え東京オリパラ開催支持取り付けに向け奔走へ

一方、菅首相は国内でも反発が根強い東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けた支持を各国から取り付けたい考えだ。各国首脳との個別会談での支持に加え、首脳宣言でも「開催支持」を盛り込むことで調整が進められている。菅首相としては「東京五輪開催支持」でもG7結束を示し、大会を盛り上げる国際的な機運を高めたい狙いだ。

また、G7は各国首脳が膝をつき合わせて様々な問題を討議する場であり、国際会議の経験が少ない菅首相にとっては外交手腕の問われるデビュー戦となる。上記の6テーマでいかに議論をリードできるのも注目ポイントだが、中国と五輪という日本にとって極めて密接な議題をリードするという点で、菅首相は今回のサミットの“影の主役”だとも言える。

招待3カ国で注目なのはやはりあの国?

また今回のサミットには正規メンバーの7カ国とEUに加え、オーストラリアのモリソン首相、韓国の文在寅大統領、南アフリカのラマポーザ大統領も出席するほか、オンラインでインドのモディ首相も参加する。中でも注目なのは2019年12月以来、1年半近く対面での首脳会談が行われていない韓国の文在寅大統領の動きだ。

韓国では6月8日、いわゆる元徴用工らが日本企業に損害賠償を求めた訴訟でソウルの裁判所が2018年の最高裁判決に反し原告の訴えを却下するという動きがあった。日韓関係の改善の糸口にもなりうる判決だが、日本政府内では冷めた意見が大勢だ。ある政府関係者は「G7前に青瓦台(韓国大統領府)が司法を動かしてきたのは確かだ。将来的なG10などを見据え協調姿勢を今更出しても遅い」と突き放していて、G7の場での日韓首脳会談の開催にも否定的だ。果たして韓国の文在寅大統領はどう動いてくるのか、そして菅首相の対応は。この駆け引きも一つの見どころとなる

(フジテレビ政治部 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。