1972年に沖縄が本土に復帰しても、多くのアメリカ軍基地が残った現実は、県民の願った形とは程遠いものだった。

こうした中、自衛隊の配備が新たな基地負担と受け止められただけでなく、沖縄戦で住民を守らなかったと数多くの証言が残る「旧日本軍」と同一視するまなざしが向けられた。

県民の不信感と「自衛隊」の溝を少しでも埋めていこうと、奔走した元自衛官達がいた。

大きな反対運動の中、円滑な駐屯目指した“幻の先遣隊”

屋良朝苗琉球政府行政主席(当時):
県民はかつての戦争の体験、戦後の米軍支配の中から、戦争につながる一切のものを否定しています。このような理由から自衛隊の配備には反対の意を表明せざるを得ません

1971年 琉球立法院 屋良朝苗琉球政府行政主席の発言
1971年 琉球立法院 屋良朝苗琉球政府行政主席の発言
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1972年の復帰にともなって、沖縄に配備された自衛隊。

まだまだ先の大戦の傷も癒えない沖縄では、住民を守らなかった「旧日本軍」と同一視するまなざしを向けられ、反対運動が巻き起こり、当時のテレビや新聞は連日大きな問題として取り扱かった。

1972年12月放送 OTVニュースハイライト復帰
1972年12月放送 OTVニュースハイライト復帰

県民の不信感が渦巻く中、自衛隊配備に向けて活動したのが「幻の先遣隊」と呼ばれる人たち。

幻の先遣隊 写真提供:石嶺邦夫さん
幻の先遣隊 写真提供:石嶺邦夫さん

自衛隊の負のイメージを和らげ、円滑に駐屯を進める役割を担った。
「幻の先遣隊」の1人、石嶺邦夫さんは、沖縄出身の元自衛官に呼び掛けて、沖縄隊友会を発足させた。

沖縄県隊友会初代会長 石嶺邦夫さん:
自分たちの同僚、自衛隊が沖縄に移駐してくるのだ、彼らを迎えてやらなければならないという気持ちと、奉仕精神ですかね。(糸満市)摩文仁に各県の慰霊塔があるから、各県の慰霊塔の奉仕作業をしてお礼に代えようと。それでスタートした

幻の先遣隊の1人・石嶺邦夫さん
幻の先遣隊の1人・石嶺邦夫さん

アメリカ軍の横暴や、ベトナム戦争を背景に反戦運動が激しくなっている最中、石嶺さんたちは常に気を張りつめながら、自衛隊の広報活動や自衛官の募集業務に奔走した。

沖縄県隊友会初代会長 石嶺邦夫さん:
このメンバーの中から、被害者とか事故でも起こったら大変なことになると。冷や冷やしながらやっていた

時が流れ、県民感情にも変化が…

1972年10月、自衛隊の配備が始まると反発は一層強まり、自治体から自衛官の住民登録を保留されたり、成人式への出席を拒否されたこともあった。

一方、こうした強い風当たりは、時代が「昭和」から「平成」に代わるころには次第に鳴りを潜めてきた。

沖縄戦を研究し、体験者の証言などを聞き取ってきた沖縄国際大学名誉教授の石原昌家さんは、県民感情が変遷した背景を次のように指摘する。

石原昌家沖縄国際大学名誉教授:
(戦争体験者は)必ず異口同音に自衛隊配備はまかりならん。そんなことを体験者は口々におっしゃっていました。
復帰後、大きな手術、輸血を必要とする手術も行われるようになった時点で、いつも血液、輸血用の血液が足りないと。そういう時に自衛隊が、各部隊ごとに何十人単位で毎日のように献血をしていく。
不発弾処理とか、急患輸送は新聞でよく出てくるわけなのですが、あまり知られていない事が結構ありました。キビかりとか、援農とかですかね

自衛隊について県民の意見は?

県民は自衛隊について、どのように考えているのか。

男性A:
災害とかに関しては救助活動だったり、活動とかニュースとかで聞いたりすると必要かなと思います

女性A:
自衛隊に対しての印象は良いですけど、沖縄で自衛隊っていうと、何かちょっと、「んっ?」みたいな顔されるっていうのが、なんかかわいそうだなと思います

男性B:
自衛隊は必要最小限、必要ですよ。国防という意味では。ただ、宮古・八重山とか、与那国とか、ああいうところに前線基地をつくるというのは、しかもミサイル基地とかね…そういうのは沖縄の負担が大きいと思う

「国防から目を背けてはならない」

自衛隊の配備が始まってから、2022年で半世紀。
国は南西諸島の防衛強化を掲げ、先島諸島に次々と部隊を展開している。

南西諸島の防衛を強化
南西諸島の防衛を強化

石原昌家沖縄国際大学名誉教授:
離島各地でも自衛隊基地を誘致する動きがあるというのは、戦前と全く違う。この辺は沖縄戦の体験が教訓として生かされていない。
国民の生命・財産を守るという意味での救助活動、それに特化していくような、そういう時期に来つつあるのではないかと思う

一方で、かつて県民に自衛隊を受け入れてもらうための「地ならし」をしてきた石嶺さんは、自衛隊の役割の1つ、「国防」という観点から目を背けてはならないと強調する。

沖縄県隊友会初代会長 石嶺邦夫さん:
とにかく沖縄戦体験したから、大変だと、戦争は二度とやってほしくない、これは当たり前。この言葉に異議を申し上げる人はいないと思います。戦争は二度と起きてほしくない。
問題はそのあと。二度と戦争やってほしくないためにはどうしたらいいか。その言葉がなかなか出てこないのです。それをつなげていくのが、われわれの仕事だと思っています

復帰して50年がたとうとする現在も、広大なアメリカ軍基地が残り、自衛隊の体制強化が進められる沖縄。
国防の名の下に翻弄され続け、様々な感情が交錯している。

(沖縄テレビ)

沖縄テレビ
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