トランプ氏激怒「文大統領は弱い指導者」

2018年4月27日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(現・党総書記)が板門店(パンムンジョム)で対面した。

2018年 文在寅大統領と金正恩(朝鮮労働党委員長(現・党総書記)が板門店で対面
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金委員長は南北分断後初めて韓国側に足を踏み入れて板門店(パンムンジョム)宣言に署名し、世界の視線が朝鮮半島に注がれた。北朝鮮の対話攻勢は続き、その年の6月にはシンガポールで史上初の米朝首脳会談が開催され、朝鮮半島の非核化に期待が高まった。

2018年 史上初の米朝首脳会談開催

あれから、もう3年たった。米朝の非核化交渉は事実上決裂し、北朝鮮は再び核ミサイル開発に着手。アメリカはバイデン政権に代わり、新たな対北朝鮮政策を策定中だ。2018年の熱気はもはや見る影もない。

そんな中、トランプ前大統領が文大統領を批判する騒動が起きた。

トランプ氏が噛みついたのは、4月21日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が掲載した文大統領のインタビューだった。

インタビューに答える文大統領(大統領HPより)

この中で文大統領は「史上初の米朝首脳会談を開催したのは、明らかに彼の成果」とトランプ氏の功績を認めながらも、その手法を「藪の周りを叩くような遠回しなやり方」と表現して、「結局、それ(非核化)を引き出すのに失敗した」と批判したのだった。

これにトランプ氏は怒り、直ちに電子メールで反論声明を出した。

金正恩氏の事は「最も困難な状況で知り合い(そして好きになった)」と評価する一方、文大統領を「指導者としても交渉人としても弱かった」と非難。トランプ氏が要求した在韓米軍の駐留経費増額交渉以外では腰が引けていたと断じた。

そのうえで「韓国に向けた(北朝鮮の)攻撃を防いだのは、いつも私だった。だが彼ら(韓国)にとって残念なことに、私はもはやそこにない」と強調した。

文大統領とトランプ氏はともに金正恩氏との交渉にこだわり続け、首脳会談にはこぎつけたものの、非核化に向けた措置で合意をみることはできなかった。

そもそもトランプ政権時代、内部では「米朝首脳会談そのものが『韓国の策略』に乗せられたもの」という不満が募っていた。

安全保障を担当したボルトン前米大統領補佐官は回顧録で▽米朝首脳会談を提案したのは金正恩氏ではなく韓国側だった▽文大統領が南北首脳会談の後、アメリカ側に「金正恩氏に1年以内に非核化することを要請し、同意を得た」という不確かな情報を伝えていた――などを暴露した。

希望的観測を振りまき首脳会談を焚きつけておきながら、責任は全て押しつけると言わんばかりの文大統領の態度が、トランプ氏の怒りに火を付けた形だ。

インタビューに答える文大統領(大統領HPより)

米朝の「仲介役」に執着

トランプ氏の米朝対話を失敗と決めつけた文大統領はNYTのインタビューで、バイデン政権にも北朝鮮との対話を続けるよう強く求めた。

「私はバイデン大統領が韓(朝鮮)半島の完全な非核化と平和定着のための、実用的で、不可逆的な進展を遂げる歴史的な大統領になるよう願う」

文大統領は5月に訪米し、日本の菅義偉首相に次いでバイデン氏との対面での首脳会談を予定している。

5月に予定されている米韓首脳会談でバイデン政権は韓国に何を突き付けるのか

この際に焦点となるのが、トランプ氏と金正恩氏が署名したシンガポール合意。アメリカが北朝鮮に安全の保証を与え、北朝鮮は朝鮮半島の完全非核化を約束したものだ。バイデン大統領はトランプ政権時代の外交決定を次々に転換している状況にあり、シンガポール合意の取り扱いに注目が集まっている。

米韓首脳会談を前に、文大統領側はNYTを通して「朝鮮半島の非核化のための幅広い目標を定めたシンガポールの合意を破棄することは間違いだ」と警告した。破棄せずに前政権が収めた成果をさらに進展させれば、その結実はバイデン政権が得ることができる――と促している。

金正恩氏は一連の首脳会談により、米朝対話で成果を得ることの難しさを悟り、2019年末には党中央委員会総会で、国連制裁が解除されない前提で経済再建を進める「正面突破戦」を宣言した。同時に米朝対話再開の条件に「敵視政策撤廃」を据えて、非核化に向けた交渉に応じるためのハードルを引き上げている。「完全非核化」ははるかに遠のいたことになるが、文大統領は今もその幻にしがみついている。

そればかりか「米朝が譲歩と補償を同時に提供し、漸進的・段階的に非核化を進めるべきだ」として、北朝鮮がかねてより主張している「行動対行動」原則と「段階的非核化」を持ち出し、アメリカの決断を促した。また、会談が決裂したハノイでの首脳会談を引き合いに出して「(ハノイでの)失敗を土台により現実的な方法を探せば、双方が解決策を見つけられると確信している」と話し、どこまでも楽観的だ。

何とかバイデン大統領を説得し、再び米朝首脳会談の橋渡し役になりたい、という執念がにじみ出ている。

アメリカと中国の二股外交

北朝鮮としては、もはや文政権との対話に関心はない。それでも米朝の橋渡し役を果たすためには、北朝鮮をひきつける必要がある。そこには中国の協力が不可欠――文大統領はこう判断しているようだ。

米韓による外務・国防担当閣僚協議(2プラス2)でも中国の名指しを避け、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相の初外遊先に中国を選ぶなど、中国への配慮が際立つ。

NYTとのインタビューでも文大統領に「中国寄り」と取られかねない発言があった。

アメリカに対し、北朝鮮や気候変動を含む世界的な懸案について、中国と協力するよう注文をつけたのだ。

インタビューに答える文大統領(大統領HPより)

「超大国間の関係が悪化すれば、非核化に向けたあらゆる交渉のマイナスになる」

「もし、米中間の葛藤が激化すれば、北朝鮮がそれを有利に活用・利用しようとすることもあり得る」

「親中」発言はこれだけではない。

4月20日に中国で開催されたボアオフォーラムでは「新技術の分野でのアジア国家間の協力強化」に言及し、中国を半導体や通信機器などの国際的な供給網から締め出そうとするアメリカの動きを暗に批判。返す刀で、中国のワクチン外交を「高く評価する」と称賛したのだ。

これでは、米中双方にいい顔をする二股外交を展開していると言われても仕方がないだろう。

韓国では保守層を中心に、訪米を前にした重要な時期に、こうした「親中」発言が飛び出せば、バイデン政権から不興を買う、という懸念も出ている。

一方、バイデン政権は米中対立を「民主主義国家」対「専制主義国家」の対立と位置付け、同盟国や友好国を巻き込み中国と対峙していく姿勢を強めている。アメリカの対中政策と一線を画すような動きを見せる同盟国・韓国の動きに、アメリカ側は内心苛立ちを募らせていると見られる。

2022年の大統領選の前哨戦とされたソウル・釜山両市長選挙で惨敗し、文大統領の求心力は急速に低下しつつある。米中の狭間で揺れ動く文政権だが、5月の訪米ではアメリカ側から厳しい選択を迫られることになりそうだ。

【執筆:フジテレビ 解説副委員長(兼国際取材部) 鴨下ひろみ】