皆さんは「マグロ漁船に乗ったら人生終わり」「借金のカタに売られ漁船に乗る」などの都市伝説を聞いたことはあるだろうか。こうした悪評に関係団体が心を痛め、本当の労働環境や魅力を伝えようと、動画で情報発信に取り組んでいる。

遠洋漁業の関係団体がYouTubeに挑戦

それが、YouTubeのチャンネル「japantuna」で公開している「遠洋漁師になるって夢をかなえる動画っ!」シリーズ。漁師の育成支援を行う「一般社団法人 全国漁業就業者確保育成センター」(東京・港区)と関係団体が制作しているものだ。

YouTubeチャンネル「japantuna」
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シリーズ動画は3月31日から配信されていて、漁師を目指す「鮪蔵(まぐぞう)」とベテラン漁師の「めばっち」が漁業関係者に話を聞く形で、遠洋漁業の仕組みを学べる内容となっている。

鮪蔵(左)とめばっちが漁業関係者に話を聞いていく

キャラクターが劇画調になるなどコミカルな描写が目を引くが、それだけではなく、漁船の仕組みや漁の流れなど、仕事に関する情報を細かく解説している。

仕事に関する情報を細かく解説している

そして動画では、遠洋漁業に対する悪評があることにも触れ、その偏見をなくしたい思いも伝わってくる。実際の船員は、どんな生活サイクルを送っているのだろうか。

動画の企画・制作を担当している、遠洋カツオ・マグロ漁業者の生産者団体「日本かつお・まぐろ漁業協同組合」(東京・江東区)に聞いてみた。

ネットの悪評には「誤解と偏見」

ーー今回の動画発信を始めたのはなぜ?

ネットにあふれる遠洋漁業の誤解を払拭したい!遠洋カツオ・マグロの船や漁師の魅力を若者へ伝えたい!という強い思いから、スタートしました。
 

ーー動画ではネットの悪評にも触れているけど、実際はどうなの?

船には漁師になるために乗る人が多く、無理に乗せられた話は聞いたことがありません。ネットの悪評は事実ではなく、誤解と偏見にあふれています。漁師に興味のある若い人たちの乗船も遠ざけるような内容なので、困っています。

30~40年以上前は、船に1年間乗れば家が建つという高収入の時代がありました。仕事は過酷だけど短期間でお金が稼げるイメージから、都市伝説的なフレーズが生まれたと感じています。

ネットの悪評は事実ではないという

ーーそうしたイメージはどう影響している?

若手漁師は、残念なことに極端に少ないです。乗組員不足の理由はやはり過酷な労働環境、都市伝説的な怖いイメージや誤解があることだと思います。遠洋漁船の仕事が職業の選択肢の一つとして、認識されていないと感じています。

実際は達成感があり、やりがいもありますし、頑張った分だけ、若くして船長や機関長などの職務につけますし、それに見合った収入も得られます。

過酷さに見合った収入がある

ーー遠洋漁船員はどのような仕事をするの?

大きく、漁労長、船長、航海士、機関長、機関士、甲板員、機関員という職務があります。漁労長は漁場や魚種に合う漁具のしかけを考えたり、船長は航海、機関長は冷凍機やエンジンのメンテナンスを行います。また、投縄や揚げ縄などの漁労作業は全員で行います。

操業中の主な仕事は、仕掛けのついた枝縄の先にある針に餌を付けて海に投げ込む、1回6時間程度の「投縄作業」。その縄を回収してマグロなどを漁獲する、1回12時間程度の「揚げ縄作業」です。このほか、漁具のメンテナンスをすることもあります。

動画では漁の仕組みも解説している

投縄や揚げ縄は確かに過酷ですが、仕事は3交代制で自由時間もあります。部屋でテレビやゲームを楽しんだり、一部の船では家族とテレビ電話などをして、過ごしている人も多いです。


ーー漁船員の生活サイクルはどのような感じなの?
 
操業形態はさまざまですが、遠洋マグロ漁船の場合、約10カ月程度、国外の沖で漁をして帰ってきたら、45日間休むというパターンがあります。ただ、約10カ月の期間も休みがないわけではなく、漁場に到着するまでに何日もかかりますし、仕事がない日もあります。海外の港で、燃料や食料を補給しながら余暇も楽しむときもあります。

世界のマグロ・カツオの漁場

ーー実際の労働環境について教えて。

労働環境は改善されつつあります。船員保険には全員加入していますし、不漁の際にも基本給、航海日当、諸手当もあり収入は安定しています。別途、航海賞与、生産奨励金制度もあるので、漁獲量が増えればその分収入も増えます。

遠洋漁船は住居費、光熱費、食費の負担はないので、5年で平均1000万円以上の貯金をしている20代の若者も大勢います。乗船前研修もあり、丁寧な研修をしています。

さまざまな食事が無料で提供される

ーーどのくらいの年収となっているの?

高卒で遠洋マグロ船の漁師になった場合、約360~450万円以上。資格取得をして船長や機関長になれば、700~900万円以上。船のトップである漁労長は、1000万円以上です。漁獲量などに応じてプラスアルファもつくので、夢があります。

ただ、お金を目的に乗船すると「こんなはずじゃなかった」と思うこともあるはずです。漁師になって大きなマグロを獲ることに、魅力を感じる人に乗船してほしいですね。

漁獲量に応じた報酬もあるという

ホテルのような設備を備えた船も

ーー船内にはどんな設備がある?

カプセルホテルのようなベッド、お風呂、食堂、無料の洗濯機などがあります。遠洋マグロ船「第1昭福丸」の船内はホテルのようなイメージで、アロマも焚いています。世界中の海で使用できる無料Wi-Fiを搭載した船も増えつつありますね。

第1昭福丸など、ホテルのような船も増えている

ーー業務を通じて技術は身につけられるの?

約3年の乗船履歴を付ければ、航海士や機関士として働くために必要な、国家資格の受験資格を得られます。合格すれば船長や機関長の職務に就くこともできます。遠洋漁業だけでなく内航船やタンカー船でも海技資格の免状持ちは不足しているため、比較的高い給与と安定した収入を得ることができます。一生仕事に困ることはありません。


ーー遠洋漁船員になるための条件などはある?

健康でやる気があれば、誰でも遠洋漁船員になれるチャンスはあります。ただ、収入面のみに魅力を感じていると、長続きしなかったりするケースもあります。漁師の仕事に魅力を感じ、なりたいと思う若者にはぜひ来てほしいと考えています。


私たちが美味しい魚を食べられるのは、遠洋漁業の漁師たちが頑張っていることを忘れてはならない。Youtubeのシリーズ動画は現在までに、エピソード3まで公開されている。7月まで毎週水曜日に公開していく予定とのことだ。興味がある人は視聴してみてはいかがだろう。

(画像提供:日本かつお・まぐろ漁業協同組合)

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