食卓に身近な存在でもある「サバ」。3月8日、株式会社NTTドコモ (以下、ドコモ)がサバの体長を“非接触”で測定することに成功したと発表し、世間を驚かせている。

ドコモがサバの体長測定…なぜ?

ドコモによると、ドコモは魚群探知機などを製造・販売する企業「アクアフュージョン」(神戸市)の協力を得て、和歌山・串本町で2020年10月から実証実験を続けてきた。その結果、サバを非接触かつ、高精度で測定することに成功したという。

ドコモのプレスリリースより
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測定を実現したのは「超音波式水中可視化技術」(保有元:アクアフュージョン)という、超音波を送信してその反応から、魚かどうかを識別する特許技術。反応の強さから体長を算出することができ、タブレットなどの端末で確認できるという。

魚体長の測定と確認のイメージ(提供:ドコモ)

従来の魚群探知機の100倍の分解能(対象を測定・識別する能力)を備えていて、養殖いけすのような魚が密集した状態でも活用できるとのことだ。

これまで体長測定は、漁業者がタモ網で生け簀から養殖魚を数匹取り出し、それを一匹ずつ計測器で測定していたというが、触れることで養殖魚が死んでしまったり、サンプルで抽出した養殖魚の成長にバラツキがあるため、正確な成長過程を把握できないという課題があったという。

そして、今回の発表で気になるのは、通信事業者であるドコモとサバの組み合わせ。ネットでも「ドコモとなんの関係が…」などと、関心を持つ声があった。
なぜ、サバの測定に乗り出したのか。非接触での測定で何が変わるのだろう。ドコモの担当者に聞いてみた。

きっかけは東日本大震災の復興支援

ーードコモがサバの測定に乗り出したのはなぜ?

ドコモは東日本大震災の復興支援に協力していて、宮城・東松島市でカキ・ノリ養殖の販売支援やブランディングのお手伝いをし、海の水温や塩分濃度の“見える化”に取り組みました。こうした中、養殖業者から「養殖業は経験や勘で餌をやっていて、成長過程がわからない」という課題を聞き、そこも見える化できないかと考えたのがきっかけです。

きっかけは復興支援で海の見える化に取り組んだこと(提供:ドコモ)

ーーサバを選んだことには理由があるの?

サバ専門店などを展開している「鯖やグループ」というグループ企業と、協業を検討する過程で「本格的にサバ養殖をするので、ICTの部分をドコモでやってみないか」とお話をいただいたことです。その後に合意して、業務提携をしました。

また、サバは浜値が良く、稚魚の購入から出荷までが1年サイクルなので、漁業者の経営的安定につながることです。日本は水産業が基幹産業の地域も多く、養殖業者が廃業すると加工業者なども仕事がなくなります。雇用維持のためにも、水産業を盛り上げる一助になれればと考えております。

鯖やグループの理念(鯖やグループのウェブサイトより)

サバは人の体温でやけどする

ーー測定の仕組みと精度を教えて。

アクアフュージョンの技術で、魚群探知機を養殖向けに転用したものになります。測定方法は振動子という装置から超音波を海中に出し、そこを通った魚の反応・反射の強さから体長を測定します。通過数が母数となり、測定時間が長いほど測定の対象数も多くなります。

精度面は現時点(2021年3月)だと、誤差が1cm内に収まる程度で測定できます。ただ分かるのは平均値なので、一尾一尾との誤差を特定するのは難しいです。機械学習もかけているので、実測値と合うように精度を良くしていければと考えております。

養殖いけすでの測定の様子(提供:ドコモ)

ーー非接触で測定できることのメリットは?

これまで魚の体長は人が網ですくい、測定していました。ただサバは鱗がないので、人が触れるとやけどで死んでしまいます。また、成長度が正確に測定できないため、いけす内のサバの成育にばらつきが出ることも課題でした。これらも問題も非接触で測定できれば解決できます。
 

ーー測定で工夫した部分、苦労した部分は?

ノウハウの話になりますが、魚の体長は振動子からの音波が当たり、その跳ね返りがないと正しく測定できません。魚は振動子に対して垂直に通過してくれたほうが望ましいわけです。ただ、魚ですから当然、斜めや横に通過することもあります。

そのため、魚の特性などを調査して、振動子の置き場所なども工夫しました。また「想定魚体長」という数値を設定し、通過した物体があまりに大きかったり少なかったりすると、ノイズとして測定結果に含めないようにもしました。

成長曲線が分かれば効率的に育てられる

ーー非接触で測定できると何が変わる?

測定は精度も大事ですが、今回に限っては同じ方式かつ、一定間隔で体長のデータを集められることに意味があると考えております。そうすると魚の成長曲線が分かり、どうすれば餌を食べるのか、効率的に育てられるのかも分かるようになります。

魚の成長曲線と海洋環境を把握できれば、給餌の効率化や最適化につながります。実は、サバやタイなどの養殖にかかるコストは約7割が餌代です。こうした部分をデータに基づいて改善できれば、収益性の向上も期待できます。

養殖いけすを泳ぐサバの群れ(提供:ドコモ)

ーードコモとサバの組み合わせに驚く人もいるが?

ありがたいお話です。当社の中期戦略では、社会課題の解決を積極的に行うとしていて、今回はわかりやすい事例になったのではと思います。震災の復興支援、漁業者と本気で向き合った経験やノウハウがあり、できていることだと思います。

ーー水産業分野のこれからの目標は?

水産業全体を見渡すと、漁獲量や漁業者人口の減少など課題も多いですが、私たちネットワーク事業者がこれらを解決するのは難しいです。ただ、事業者が養殖に新規参入したいと思ったとき、障壁となるものを乗り越える力になれればと考えております。それができれば、担い手不足などの解消にもつながるのではないかと思います。

今回のサバは「うめぇとろサバ」として出荷・販売もされる(提供:ドコモ)

畑違いのようにも見える、ドコモとサバの測定技術。そこに挑んだのには、水産業を盛り上げることで漁業者の支えになれればという狙いがあった。

今回の測定技術を使って育てられたサバは「うめぇとろサバ」として、鯖やグループの関連企業で出荷・販売もされる。養殖事業が活性化すれば、おいしい魚を味わえる機会も増えるかもしれない。