純米酒を原料に、水分を飛ばす独自の「浄溜」という製法で作られるこのお酒は「浄酎」と呼ばれる。

ナオライ・三宅紘一郎社長:
日本酒からピュアのアルコールを抽出しまして、そして少しエキス分を加えまして、約41度のまるでライスウイスキーのようにしたお酒。熟成がきく日本酒由来のお酒というのが浄酎

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これまでなかった酒「浄酎」を作り出したのは、苦境に直面する日本の酒蔵の未来を変えたいとの思いからだった。
浄酎は、日本酒の酒蔵と連携し、酒事業を営むナオライが神石高原町で作っている。
浄酎の開発は、代表の三宅さんの経験がきっかけだった。

ナオライ・三宅紘一郎社長:
中国の上海で日本酒を販売するような仕事をしていたんですけど。「酒蔵が世界に出る輸出をしていけばいいな」と思っていたんですけど、出せども出せども劣化してしまって、日本酒というのは海外輸出に向きにくいなと思ったので。それを熟成させる方法はないかと考えて、そして行き着いたのが今回の浄酎という

浄酎の完成には3年以上の月日がかかった。
特許を取得した「低温浄溜」という技術で、日本酒の水分を飛ばし、アルコール度数を41度にまで高める。

ウイスキーのような飲み方を提案する新しいジャンルのお酒。
県内4つの酒蔵から純米酒を仕入れ、浄酎を製造している。

栗尾信磁ディレクター:
こちらが浄酎ということなんですが、日本酒から作られているのでとてもいい香りがします。アルコール度数は高いのですが、不思議と飲めてしまう優しい感じがします

新たな取り組み…浄酎を樽で熟成

ナオライは今、新たな取り組みを進めている。
浄溜した浄酎を木の樽でウイスキーのように熟成し、さらに価値を高めようという。

ナオライ・三宅紘一郎社長:
同じ蔵でも樽の種類によって色合い、風味が変わる。そして同じ樽でも酒蔵によって風味と味わいが変わる

発売から1年。浄酎の販売は好調。
日本酒をベースにした新しいジャンルのお酒を考え出した三宅さん。そこには業界が直面する苦境があった。
日本酒の消費量は1970年台半ばをピークに、近年では3分の1以下に減少。酒蔵も半分以下に減ってしまった。

"米"の良さを日本酒とは違う形で表現

三次市の山岡酒造。三宅さんは新たな浄酎の原料となる純米酒を作るため、自身も米を作りながら酒を造る酒蔵へと協力を仰いだ。

山岡酒造・山岡克己社長:
全体にもろみを見ただけで、もう色が赤い

仕込みに使う米は酒米ではなく、自身がほれ込んだ農薬や化学肥料を使わない有機栽培の米。

ナオライ・三宅紘一郎社長:
タナベファームの田邊さんの米が本当に玄米の状態でも美味しいので、それをなんとか酒に活かせないかなと

有機米を生かすため、仕込みの方法も変えている。
日本酒は、米の中心部を使うことで、雑味のない酒を作り出せるとされ、通常、精米歩合は70%以下。玄米を3割以上削る。
三宅さんはあえて有機米をほとんど削らず、酒造りに挑むことにした。

山岡酒造・山岡克己社長:
今回は85%とか、90%とか、95%なんで。いわゆるうちで作ってる日本酒の領域以外の作り方。やっぱり日本酒は、ある程度3割以上削ったところ。70%とか50%ぐらいで十分日本酒としての美味しさは出せる。それより本当に黒いお米なんで、この辺も私らとしたら今回はちょっと違う分野

ナオライ・三宅紘一郎社長:
浄酎っていうのは、お酒の高級なラインとは別な世界をちょっと今、さがしているところで。それで「あまり磨かない日本酒でもこういう価値ができますよ」って言うことが、もう一つ表現できればなってことで

浄酎専用の備前焼‟ぐい飲み”も

地元・神石高原町の窯元・香神窯。
陶芸家の香山さんは浄酎専用の備前焼の試作を続けている。売れ行き好調な浄酎とセットでの販売を目指している。

香神窯陶芸家・香山善弘さん:
浄酎っていう、新しいコンセプトに基づいて作ってるんで。今までの従来の日本酒でもないし、かといっても蒸留酒なんで焼酎でもないし。いろいろ飲んでて、ウイスキーに近いのかなとか思ったり。ボテッとした口当たりのものを普段作ってるんですけど、浄酎に関してちょっと薄口がいいかなと思って

神石高原町古川地区。親子2代、半世紀を超えて化学肥料を使わず、無農薬の有機栽培にこだわるタナベファーム。

徹底した有機農法で米を作る田んぼには、今では希少となった生き物も多く見られる。
田邊さんも浄酎に期待を寄せる一人。

タナベファーム・田邊真三社長:
(浄酎)アルコールも結構高いんですけど、通常お酒が飲めない方がこの酒だったら本当に楽しんで飲めると。寝かせるほど風味とか味とかどんどん変化していくと。なかなか日本のお酒の中でそういったものって無かったと思うんですけど

ナオライ・三宅紘一郎社長:
ああいうところの昔の倉庫。昔の蔵ですね。蔵にオーク樽熟成室を作れたらいいなと

三宅さんは浄酎の原料とする酒米の生産地のすぐそばに、新たな熟成用の蔵を作ろうとしている

ナオライ・三宅紘一郎社長:
こっちは結構長期で3年から12年ぐらいの樽を寝かしていきたいなと思ってます。今年中ぐらいには作りたいですけどね

多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぎたいという思いで活動する三宅さん。
浄酎という酒を通じて、新たな価値を生み出し地域を醸す。

(テレビ新広島)

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