厚生労働省によると、日本の認知症患者は2018年に500万人を突破し、65歳以上の約7人に1人が認知症と見込まれるとしている。さらに2050年になると患者が1000万人を超えるという推計もあり、もはや誰もが認知症となる可能性があると言えそうだ。

そのような中、患者と医師が10分ほどの会話をするだけでAIが認知症を判断するシステムが登場し、期待が集まっている。
 

画像提供:FRONTEO(以下全て)
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株式会社FRONTEOが「会話型 認知症診断支援AIシステム」の臨床試験を始めるため、3月12日に治験届を提出したのだ。このAIシステムによって医師・患者双方の負担を軽くするとともに、認知症の早期発見に活用されることを目指しているという。

同社によると、言語系AI技術を活用したAI医療機器はどの国においても承認はなく、正式に薬事承認されれば世界初になるとのことだ。

これまで認知症の診断は専門的な知識や経験が必要で、それが早期診断や早期治療の妨げにもなっていたという。

例えば「今日は何日ですか」「100から順番に7をくり返し引いてください」などの質問を行う認知症の神経心理学的検査は、経験のある医師でなければ難しいとされていた。しかし、開発しているAIシステムは、患者の5~10分間の会話のテキストデータを読み込むことで、認知機能障害を判断するというのだ。

患者はテストのような質問に答えるのではなく、ごく自然な日常会話をするだけだという。

スマホでも使える! アプリ画面イメージ
スマホでも使える! アプリ画面イメージ

医師側は自動音声認識を使えば会話を書き起こす手間もなく、入力すれば直ちにAIの判断が出るという。FRONTEOによるとこのシステムは、専門医に限らず一般的な疾患を診療する家庭医の使用や、遠隔診療などでの活用が可能になるとしている。

気になるのはAIの精度だが、具体的にどういう会話から判断するのか?また実用化されると何が変わるのか? 担当者にお話を聞いた。
 

AIが認知症を見抜く精度は87.8%

――AIの認知症判断の精度はどのぐらいなの?

探索試験において、医師の診断と遜色のない80%以上の精度を得られています。
(専門医の判断:85%、AIによる判定:87.8%)
 

――AIを病院で使うとその場で結果を教えてもらえるということ?

システムの判定はその場で提示できますが、診療の流れにつきましては、お医者様それぞれのご判断になるかと存じます。
 

認知症の可能性が大きい発言とは?

FRONTEOの資料には、AIが認知症の可能性が大きいと判断した会話の例と、小さい会話の例も記載されている。

あなたは、どちらの受け答えが可能性が大きいのか見抜けるだろうか?

テキスト1(抜粋)
はい。やっぱり
体がちょっとだるいん、です。
ええ。これがなかなか治らない。
ええ。もう結構前ですよね。
ええ、はい。いや、全体に
もうなんかこう、ええ。
疲れたって感じで
何かそうゆう感じなのね。
どこも行きたくないとか。
ええ。でも
歩かないと足が悪くなる…

テキスト2(抜粋)
食あたり、だから多分、
お昼ご飯が良くなかった、ね、
弁当が、つらかった。
うん、他の人は、あのー、
弁当だからさ。
自分家から持ってきたやつ。
ううん、火曜日は一応、
全部出勤ってか
5時半まで働いたけど、
次の日はもう、
それどこじゃなかったら
休んだ。…

判定では、テキスト1が「可能性大」で、テキスト2が「可能性小」とのことだ。

――AIはこの発言のどこから認知症の可能性を判断している?

当社技術の機密にあたりますので、お答えできません。
 

早期発見や医療の地域間格差の是正に

――では、このAIが実用化されると、医療の何が変わる?

(1)医療者と患者の間の5~10分程度の自然会話から認知症の疑いを判定できるようになるため、専門的な知識や経験のない一般医でも広く認知症の診断ができるようになる。医療の偏在や地域間格差の是正にも貢献できる

(2)検査ではなく日常会話から認知症の診断が可能になることにより、本人だけでなく周りの家族も含め、「認知症の検査を受ける」ということへの心理的な負担を軽減することができ、広く早期に認知症を診断する事ができる。早期に認知症を診断する事で重症化への進展を抑制する事が期待できる

(3)従来の検査だと患者が検査の質問項目や回答を覚えてしまう学習効果のリスクがあり定期的に検査を実施する事が難しいが、自然会話に基づく判定のため学習効果もなく定期的に検査を実施できるようになるため、認知症の早期発見や重症化の発見に活用できる

(4)通常の日常会話だけで診断が出来るようになるため、遠隔医療や訪問診療・看護など、医療機関以外の場所など、さまざまな場面で利用する事ができる


――実用化はどのぐらいになりそう?

見通しにつきましては、薬事承認時期の目途は2023年を目指しています。
 

認知症は、症状が軽いうちに適切な治療を受ければ、進行を遅らせたり症状を改善したりすることもできるとされている。このAIシステムの活用で早期診断が広まれば、人生100年時代と言われる中で健康寿命を延ばすことができるかもしれない。
 

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プライムオンライン編集部
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