年末年始だからこそ話してほしいことがある

年末年始は実家に帰省して、家族団らんのひとときを過ごす人も多いだろう。
離れて暮らしている人は特に、親と一緒に過ごせる時間について考えてみてほしいが、例えば、毎年5日間を帰省に当てたとしても、一緒にいられるのは10年で50日、2カ月にも満たない。

高齢になっても親には元気でいてほしいが、遠方で暮らしている子どもは体調の変化にも気付きにくいもの。

特に2025年には患者が700万人前後まで増え、高齢者の5人に1人がなると推計される認知症においては、早期の発見と対策が重要とされているため、早い段階で兆候を察知することが大切になる。

のんびりとリフレッシュすることも大事だが、年末年始のたまの帰省の際に、親の様子から、そういった気配を感じとるにはどうしたらいいのだろうか。
そして異変を感じたときには、何ができるのだろう。

介護問題のカウンセラー・飯野三紀子さんに、注意したい変化などを伺った。

「おふくろの味」が変わったら注意

介護問題のカウンセラー・飯野三紀子さん
介護問題のカウンセラー・飯野三紀子さん
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――帰省時に注意しておきたい、親の様子などはある?

年末年始ということを考えると、手料理の味が分かりやすいですね。料理は段取りが大切なので、認知症の兆候があると、味が薄すぎたり濃すぎたりして確実にまずくなります。手料理を日常的に食べる夫婦間では気付きにくいですが、久しぶりに帰省した子どもならその違いはすぐに分かるはずです。「おふくろの味」が急に変わったと感じたら、注意すべきでしょう。

――このほかには?

冷蔵庫や押し入れの様子が変わることもあります。高齢者は「買えるときに買おう」と買い物の頻度が多くなるのですが、認知症の兆候があると、同じ商品を買い込む傾向にあります。私が介護したときの実体験では、醤油が計1ダースも買われていたことがあります。日常用としてはおかしい量が買い込まれていたら、もしもの可能性を考えてもよいと思います。

食料や日用品が本来とは適さない場所に置かれることもあります。洗剤をストックしている場所にお菓子が置いてあったり、冷蔵庫に洗剤がしまってあったりですね。きれい好きな人がだらしなくなった可能性もありますが、違和感を感じたときは注視しましょう。


日常用としては異常な量が買い込まれていることもあるという(画像はイメージ)
日常用としては異常な量が買い込まれていることもあるという(画像はイメージ)

日常の何気ない行動や様子に、認知症の兆候が表れることがあるようだ。「おふくろの味」や冷蔵庫の様子など、さりげなくチェックしておくのがいいだろう。
ただ、帰省時にやりがちな行為が症状の悪化につながることもあるというので注意が必要だ。

子どもの「スッキリ」のために親を傷つけないで

――帰省時に子どもがやっていけないことなどはある?

最近の「断捨離」ブームもあってか、子どもが実家を一気に片付けることもあるようです。認知症の点で考えると、これはお勧めできません。年齢を重ねると生きる楽しみは減るものですが、思い出深い物はその楽しみとなれるのです。認知症の治療でも、懐かしい物を見て当時の記憶を思い出させる方法があります。子どもがスッキリしたいために、断捨離をするのはやめてほしいです。片付ける場合も、思い出の物を少しでも残してあげてください。

このほか、高齢者は賞味・消費期限の切れた食品でも食べる傾向にあります。状態によっては健康被害につながることもありますが、子どもが勝手に捨てると心理的ショックにつながることもあります。子どもがその食品を貰って帰るという体裁で家に持ち帰ってから捨てるというような、心遣いも大切です。高齢者はもったいないと思う気持ちが強いですから。

よかれと思って子どもの行動が、親を傷付けることもある(画像はイメージ)
よかれと思って子どもの行動が、親を傷付けることもある(画像はイメージ)

――親に違和感や異常を感じたときは、それを伝えてもよい?

子どもの立場では指摘したくなると思いますが、対応には注意してほしいです。認知症は軽度の場合、本人がその状況を取り繕うことがあります。買った物を全部どこかに隠したり、聞いても何も話さなくなってしまったりですね。「取り繕い行為・反応」とも言われます。

これらの行為は、周囲にそんな状態であることを知られたくないという、本人の葛藤から来ているところもあります。むやみに指摘すると傷付くでしょうし、みんなが集まる年末年始の場ならなおさらです。心配な状況があっても、まずは指摘せずに様子を見ましょう。

親だけではなく、子どもが自分自身の問題として考えることも大切(画像はイメージ)
親だけではなく、子どもが自分自身の問題として考えることも大切(画像はイメージ)

――ではどうすれば?子どもは親の衰えとどう向き合う?

親の介護を心配するとなると、40歳以上の世代も多いはずです。自分の健康問題でもあると切り出してはどうでしょうか。例えば、認知症の兆候が疑われるのであれば「脳ドック」などを予約しておいて、「自分が検査するから付き合ってよ」などと誘うとか。親の立場としても、一方的に指摘されるよりは一緒に検査した方が受け入れやすいはずです。

また、正月に終末期の話をするのは縁起が悪いと思う人もいるでしょう。そんなときは「これからどう生きたいか、または生活したいか」という話から広げてみてはいかがでしょうか。年齢を重ねると、生きる先には必ず死が見えてきます。自宅で死にたいのか、介護施設を利用したいのかといった、具体的な話にも落とし込みやすいです。

帰省時にしておくべき“見守りの備え”

――帰省時にしておくべき、見守りの備えなどはある?

まずは、親が住む場所の地域包括支援センターを調べておくことが大切です。介護が必要になったときの相談先となりますが、地域ごとで施設の名称が異なります。外出のついでに場所や連絡先などを確認してはどうでしょうか。何かあったときにすぐ動けるよう保険証や各種保険証書、通帳など必要な物の置き場所を情報共有しておいてもよいでしょう。

ご近所と交流があるなら、あいさつを兼ねて「うちの親は最近どうですか」と聞いてみてはいかがでしょうか。親も子どもがいるときはしゃきっとするので、普段の様子が見えないこともあります。連絡先を伝えておくと、親の異変を伝えてくれることもあるでしょう。

親は「情けない姿を見せたくない」と葛藤することもあるという(画像はイメージ)
親は「情けない姿を見せたくない」と葛藤することもあるという(画像はイメージ)

――子どもは親をどう見守ればよい?

親の元に早期に駆けつけられる状況では、こまめな訪問や連絡が第一です。親と離れて暮らしている場合は、親と関わりを持つところから連絡が届くようにしておくべきですね。独居状態の親もいるでしょうが、民生委員の見回りなど、自治体は何かしらのフォローはします。そのような関係先の連絡先を、親と共有しておきましょう。

きょうだいがいる場合は、見守りのキーパーソンを固定化しないことも大切です。親が介護状態になると、近くにいる子どもに対応を任せがちですが、きょうだい間で考えが違ったり、話し合うことでよりよいアイデアが出ることもあります。

介護の初期段階は手続きが多いので、親の近くにいる人が適任ですが、介護サービスなどを利用して安定期に入ると、遠方でも見守りに関われます。介護の大変さも分かりますし、きょうだい間の温度差もなくなるので、家族全員が関わるような状況にしたほうがよいと思います。

年末年始はこれからのことを話し合う時間としてみては(画像はイメージ)
年末年始はこれからのことを話し合う時間としてみては(画像はイメージ)

――年末年始に集う、家族に呼びかけたいことはある?

認知症を怖がらないでほしいと伝えたいですね。軽度なら症状の進行を抑えたり、回復することもあります。がんと同じで早期発見が大切なので、ある程度の年齢になったら、脳ドックや認知症の検査などを受けることは、これからの親世代の責任でもあるのではないでしょうか。

みんなが集まる年末年始は、家族の在り方を見直すよい機会です。認知症、介護、老化と聞くと暗いイメージを持つかもしれませんが、特別視するのではなく、家族のステージが少し進んだ、変わったと考えてはいかがでしょう。親の衰えからは目を背けたくなりますが、現実から逃げず、家族一人一人が活き活きと生活できるようにワンチームで変化に対応していけるとよいですね。一人一人の負担が減る時間にしてもらえればと願います。



加齢による老化や衰えは、誰もが避けては通れないことだ。後になって「あのとき話し合っておけばよかった」とならないよう、年末年始の帰省時を利用して今からできることがあるはずだ。



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飯野三紀子
会社員時代に介護離職を経験。親族ら5人の介護と4人の看取りをした経験を生かして、介護と仕事の両立を呼びかけている。一般社団法人・介護離職防止対策促進機構の理事を務めるほか、ウェルリンク㈱にて「介護とこころの相談室」を立ち上げ、介護のアドバイスや心のケアを行っている。著書に「介護と仕事をじょうずに両立させる本」がある


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プライムオンライン編集部
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