水路工事から一変したマイホーム

玄関先のタイルが真っ二つに割れている。「ヒビ割れ」というか、隙間がある。
現場は、福岡・筑後市内にある木造住宅。

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
中にも、ずっとヒビが入っている。上にもある。(片方の)ドアが動かないんですよ

玄関に大きなヒビ割れ
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住宅の隣にある鉄工所でも…

鉄工所の社長:
ヒビが長く伸びてて、壁に隙間ができている。前はピタッと付いていたが、今は5cmぐらい開いている。ここ10年ぐらいどんどん酷くなっている

住宅と鉄工所両者に共通しているのが、傾いていること。
問題はその方向にあった。

築約40年の一軒家。住み始めて20年以上は平和な日々だったが…

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
工事をされて、すぐに水路に沿ってぐっと下がった

住宅と鉄工所の間を走る農業用、生活用の水路。
元は土の水路だったが、筑後市が行った改良工事でコンクリートとなり、2002年、約40メートルに渡り新しい水路に生まれ変わったのだ。

だが、その工事から2年が経過した頃、住宅の裏庭が一部、水路に沿って陥没したという。

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
うちで砂利を買ってきて埋めた。それで終わってた

その約3年後…

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
(玄関に)糸みたいな小さなヒビが入った。最初は

ヒビの状態は徐々に酷くなり、数も次第に増加。
まさにヒビだらけの住宅となっていったのだ。

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
元々あった土地。埋め立て地じゃなく、地盤がしっかりしている。工事をする前まで、何のヒビ割れもなかった

「違法工事」疑惑が浮上

2018年8月、住民は市の担当者に不具合の現状を見てもらったのだが―

筑後市(当時 取材メモ)
地震の可能性もありますし、水路の工事が原因だと断定できません。詳しい調査は行えません

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
これが工事によってできたものか、自然にできたものか。市の工事に対する調査をして欲しかった。でも因果関係がはっきりしないから調査はしないと

住民は建築士に依頼し、不具合の調査を実施。
その結果、住宅は用水路側に最大で約6センチ傾いていることが判明。
しかも傾きは、年々酷くなる一方だった。
地震や大雨、経年変化だけで生じたとは考えにくい状況だった。

傾いた家の調査資料

建築研究社・水溜清海建築士:
放置するのは非常に危険。柱と梁が、今はくっついている。柱が傾いていっているので、結局、梁ごと落ちてしまう

すでに住宅の2階では、敷居と柱にズレが生じている。

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
シ~ンと静まり返ると、ピチッピチッと音がする。恐怖ですよね

住民は調査結果をもとに再度、筑後市に当時の水路工事について尋ねたのだが―

筑後市(当時 取材メモ)
「標準的な工法」で施工しており、当該工事が原因で、クラックや隙間が生じたとは考えにくいものがございます。再調査、聞き取り等は考えておらず、ご理解を頂きたいと存じます

だが、さまざまな不具合の原因として「違法」な工事の疑惑が浮上したのだ。

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
「“矢板”は打っていた?」と聞かれ、「いや打ってない」と言った。それはいかんばいと言われた

本来、近くに建物がある現場で掘削工事を行う場合は、周辺の地盤に影響を与えないよう「矢板」などと呼ばれる仕切り板を深く打ち込まなければならない。

だが住民によると、その仕切り板がないまま掘ったり削ったりしていたというのだ。
このずさんな工事によって周辺の地盤が緩み、徐々に沈下。
そして傾きなどの不具合をもたらした。これが専門家の分析結果だった。

建築研究社建築士・水溜清海さん:
(仕切り板は)工事内と工事外を完全に遮断する目的でやってる訳ですから、専門家であれば常識。それをしなかったことで敷地に影響を与えたことは間違いない

記者:
用水路の工事で適切な安全対策が取られていなかったという疑惑。住民と筑後市は2019年、直接、議論することになりました

「仕切り板をしなかった」認めた筑後市

果たして工事の実態は…

住民と筑後市の協議(録音)

住民:
当時、工事が平成13年度ですかね。××組さんが施工していて、聞いたところ何も特段苦情もなく、滞りなく終わったと。矢板のことは聞いた?

筑後市:
矢板はしていない

仕切り板はしていない。
あっさり認めたのだが…

筑後市と住民やりとり(録音)

筑後市:
いずれにしても、掘削したと確認できてない

仕切り板をしなかったのは、そもそも掘ったり削ったりしなかったから。
市はそう主張したのだ。しかし…

傾いた家に住む・弓削孝幸さん:
ユンボ(重機)持ってきて。ガバガバ掘っていた。下も横も、竹が全部なくなった。その時に矢板をしていなかった。掘らな、出来んて

掘削したことをはっきり覚えているという住民に対し、筑後市は掘削しなかったと主張。
住民には高い壁が立ちはだかった。

立ち塞がる文書保有期間の壁

住民と筑後市の協議(録音)

筑後市:
工事の図面とかを探したが、廃棄処分が10年になっているので見つからなかった

住民:
契約書は?

筑後市:
なかった

住民:
そんな大事な物も全部破棄する?

筑後市:
10年でだいたい破棄

市は、繰り返し工事の資料がないと強調した。

住民と筑後市の協議(録音)

住民:
もうちょっと調べて

筑後市:
今回で最後にしたいと思っています。平行線なので裁判とかで白黒はっきりさせた方がいいんじゃないですかと

住民:
これが最後という?

筑後市:
最後で

話し合いは一方的に打ち切られてしまった。
建築・土木の問題に詳しい弁護士は…

建築・土木の問題に詳しい米田宝広弁護士:
公文書管理法という法律で保有期間が定められている。公共工事に関する文書は大きく2つ(保有期間が)5年・10年。文書がないと、どんな工事か全く分からないので責任追及もほぼできない。「5年・10年」の壁がある

立ち塞がる「5年・10年の壁」。
筑後市は取材に対し「裁判中」としてコメントを控えた。
住民の闘いは法廷で今も続いている。

(テレビ西日本)