日米豪印首脳会談を初開催 菅首相「中国の一方的な現状変更の試みに強く反対」

3月12日夜、日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4カ国によるオンラインでの初の首脳電話会議が開催された。この4カ国の枠組みは英語で「4」を表す「クアッド(QUAD)」と称され、中国の海洋進出を念頭に、自由で開かれたインド太平洋の実現のために4カ国で安全保障上の連携をとっていこうという会議である。

この記事の画像(9枚)

今回の会議は米国から提案されたものであるが、この4カ国の枠組みは遡ること14年、2007年の第1次政権で安倍首相が行ったインド国会での演説に始まっている。

この演説で安倍首相は、「太平洋とインド洋は今や自由の海、繁栄の海として一つのダイナミックな結合をもたらしている」として「拡大アジア」という概念を提唱し、「拡大アジアは米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶ広大なネットワークへと成長する」と、日米豪印4カ国での協力を呼びかけた。「自由の海」という表現には、「自由」の制限された中国へのけん制の意味が込められている。

そして第2次安倍政権下でも政府はこの構想を推進してきたが、この4カ国が一同に会しての首脳会議は開催されてこなかった。しかし今回、米国の呼びかけをきっかけに開催に至った背景には、中国の脅威の増大に対して、4カ国の首脳が集結して結束を確認する必要性に迫られた結果であるとも読み取れる。政府関係者は「この枠組みの組織化は、日本が事務レベルで積み上げに尽力してきた結果だ」と自負している。

そして開かれた初の首脳会議は約1時間45分に及び、菅首相は自由で開かれたインド太平洋についての連携を呼びかけ、4か国の首脳はASEANや欧州など様々なパートナーと協力していくことで一致した。そのほか会議では海洋安全保障やサイバーセキュリティー、質の高いインフラ投資等の連携協力の進展を歓迎し、新たにワクチン、重要・新興技術、気候変動について、それぞれ作業部会を立ち上げることで一致した。

会議を終えた菅首相は「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、私からASEANなどの諸国と連携することを提案し賛同を得た」「中国による一方的な現状変更の試みに強く反対する旨を訴えた」と述べた上で、今回の初の首脳会議について「日米豪印の(枠組みを)新たなるステージに引き上げた会合だった」と成果を強調した。また年内にこの4カ国での対面での首脳会議を行うことでも一致したという。

自由で開かれたインド太平洋の実現に向け下地作り 日豪・日印とバイ電話会談も

実は、今回の会議の開催に向けた調整は難航していた。政府関係者によると、当初、2月下旬での開催が模索され、一旦は具体的な日程の候補まで出たが、実際の開催は3月までずれ込んだ経緯があったという。背景には伝統的に諸外国と同盟を組まず対等の関係をとっていて中国に対する姿勢を鮮明に打ち出すことに消極的なインドの存在があり、複数の政府関係者は「会談の実現についてはインド次第だ」と吐露していた。

こうして会議の日程調整が行われる中、菅首相は2月25日にオーストラリアのモリソン首相と、3月9日にはインドのモディ首相と、それぞれ個別に電話会談を行った。どちらの会談でも中国を意識した「自由で開かれたインド太平洋の実現」に向けた協力を確認しており、4カ国会議に向けた対中政策について、トップ外交で事前の調整を進めた形だ。

最終的に、今回、4カ国首脳会議が実施される運びとなったことについて、インドの中国に対する姿勢が変化してきていると指摘する声がある。インドは昨年、中国と国境をめぐって争う地域付近での衝突で自国の兵士およそ20人を失った。ある政府関係者はこれを契機に「インドの中国に対する警戒感が強まってきており、クワッドの枠組みに寄ってきている」と分析する。

インドの姿勢への配慮もあり、会議後の共同声明には中国という文字は盛り込まれなかったが、別の政府高官が「クアッドは“説明上”は特定の国を想定したものではない」解説するように予定通りのことだ。その上で「インドをひきこむことはほかの3か国にとっては意味のあることだ」と語る通り、政府は今後も時間をかけて対中政策に関して共通の認識を構築していきたい考えだ。

尖閣諸島への領海侵入続く 世論調査で中国に脅威感じる国民が9割以上の現実

このクワッド首脳会議の開催など、日本をはじめ各国が「自由で開かれたインド太平洋の実現」への動きを加速させている背景には、ここ最近の中国に対する各国の懸念が急速に強まっていることと、米国のバイデン政権の発足が関係していると言える。

中国は2月1日に、中国が領海だと主張する海域に入った外国船舶が命令に従わない場合に、中国海警局の武器使用を認める「海警法」を施行した。沖縄県の尖閣諸島周辺では、中国海警局の船が連日のように日本の領海に侵入する事案が頻発しており、茂木外相が外交ルートを通じて懸念をすぐさま伝達するとともに、政府も法律施行前の1月29日に「尖閣諸島を含む東アジア安全保障情勢」についての国家安全保障会議を開くなどして対応を協議した。

こうした中国に対する懸念は、国民の間にも高まっている。3月13・14日の両日に行ったFNN世論調査では、中国による海警法の施行に対して、91.2%が「脅威を感じる」と回答した。

中国による尖閣諸島周辺への領海侵入が続く現状について、政府高官は「(領海侵入が)朝昼夜が関係なくなってきている」と危機感を募らせている。その上で「現状は、国際法違反だということを(国際社会に)言っていくしか方法がない。日本としては今ある(海上保安庁などの)対応力を落とさないように継続していくことが大事になる」と指摘している。

そこで今回の4カ国の枠組みのように、複数の国と連携することによる圧力の形成で中国を「静かに押し返す」ことができるかが課題で、政府の具体的で実行力のある対策と、各国に対する継続した外交努力が求められている。

日米首脳会談が来月開催へ アメリカが最初の対面会談国に日本を選んだワケは

そして、その鍵を握るのが米国でトランプ大統領に代わって就任したバイデン大統領だ。日本政府は安倍前首相とトランプ前大統領との蜜月関係を基盤に、自由で開かれたインド太平洋を推進してきたが、バイデン政権になることで、その方向性に変化が生じるのではとの懸念も政府の一部にあった。

こうした中、菅首相は12日、4月前半に米国・ワシントンを訪問しバイデン大統領と首脳会談を行うことを表明した。菅首相は「日米同盟のさらなる強化につなげ、新型コロナ、地球温暖化、中国を巡る諸課題、北朝鮮による拉致問題など、様々な課題について日米間の連携と協力を確認したい」と意気込んだ。

政府関係者によると菅首相は2回のワクチン接種を終えた上で、4月8日に日本を発ち、現地9日にワシントンでバイデン大統領と初めての対面での首脳会談に臨む見通しとなっている。予定通り訪米となればバイデン大統領が直接会談をする、最初の外国首脳となる。これについて政府関係者は「バイデンが最初の対面会談の相手に菅首相を選ぶのはすごいこと」と、日本の外交努力の成果だと強調している。

一方で、バイデン大統領が菅首相を最初の面会相手に指名したのは、バイデン政権の中国への危機意識が大きな理由だとの見方もあり、「欧州とインド太平洋という2方向を向かないといけない中で、インド太平洋に関しては韓国やオーストラリアより日本は大きなバリューを占めている。そういう部分で判断したのだろう」といった分析の声が出ている。

確かにバイデン政権は3月3日に公表した国家安全保障戦略の指針の中で、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手だ」とし、同盟国と共に中国に対抗していく方針を表明していて、中国に対する明確な姿勢を世界に示すというバイデン政権の思惑も見て取れる。今回の4カ国首脳会議に関しても、バイデン政権が中国に寛容な政策を取るのではという不安を払拭するものとなったとの見方が多い。

菅首相とバイデン大統領との初直接会談ではコロナ、気候変動、拉致問題など議論すべき課題が山積している。その中でも中国に関しては、1月の電話会談でアメリカの日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条の尖閣諸島適用や「自由で開かれたインド太平洋の実現」の協力を確認した以上の成果を上げられるかどうかが注目される。日米同盟の一層の緊密化と対中政策の深化を確認する首脳会談に向け、日米両政府の水面下の調整が今後活発化していくことになるだろう。

(政治部 首相官邸担当 亀岡晃伸)