壺の中でじっくり焼いたホクホクの「つぼ焼き芋」…その時季に最適な種類の芋を使用した極上の味

寒い季節に食べたくなる「焼き芋」。岐阜県大垣市で人気の焼き芋は「石焼き芋」ではなく「つぼ焼き芋」だ。直火で焼く石焼きと違い、壺の中で炭でじっくり焼かれた芋は、ホクホクして黄金色に輝いている。

このつぼ焼き芋の絶妙な甘みを生み出すのは、常滑市の伝統工芸士が作る「常滑焼」の壺。岐阜の焼き芋店と愛知の常滑焼の職人が手を取り合い、東海地方の新しい名物を生み出している。

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岐阜県大垣市墨俣町の長良大橋の西、県道23号線沿いに「つぼ焼いも 岐阜総本舗 幸神」はある。

この店は、キッチンカーのイベントを企画するフードプロデューサーの古澤登さん(45)が、2019年に開いた。

店先には並ぶ大きな壺の中には「つぼ焼いも」(1本350円)があった。底に炭を置き、その熱で芋に火を通す。

直火に当てているわけではないので、皮に焦げ目はつかない。割ってみると中は綺麗な黄金色。ホクホクしていかにも甘そうだ。

女性客A:
とにかく甘い。ここのを食べたら、他のところは食べられないです

男性客:
芋のおいしさが濃いというか。好きで何回か買いに来ているんです

老若男女に愛され、すっかり墨俣の名物となっているつぼ焼き芋。その美味しさの秘密は、時季によって変える9種類の芋にある。

この日は茨城のシルクスイートという品種を使用。糖度は高いが、さっぱりとした味だ。店主の古澤さんは、焼き芋店を開くにあたって、全国の芋の産地に足を運び勉強。味や栽培方法を確かめたものの中から最もおいしくなる時季を見極めて使い分けている。

女性客B:
色々な(芋の)種類が来るたびにあるので、それを楽しみに来ていたりします

芋の極上の甘味を生み出す“壺”…炭の熱が循環し均一に伝導 理想的な焼き加減に

美味しさの最大の秘密は、壺。ゆっくり熱を通すことで甘味が増すという。

壺の底で燃える炭の熱が中で循環し、熱い石に直接触れる焼き芋と違い、カゴで宙に浮いた状態で置かれるため均一に熱が通わる。そして重要なのが、温度と時間の管理だ。

60-70度で1時間半から2時間、ゆっくり熱を通すことでデンプンが麦芽糖に変わり、甘味が増していく。

一定の温度で均一にじっくりと時間をかけて焼く。これを可能にしたのが、理想的な熱の対流が起こる大きさの壺だった。

日本で1人しかいない伝統工芸士が作る「常滑焼」…73歳の職人に訪れた“転機”

炭でじっくりと焼かれ、黄金色に輝くつぼ焼き芋。これを焼くのは焼き物の町、常滑で生み出される「常滑焼」の壺だ。

この壺は伝統工芸士で、市の無形文化財にも指定される前川賢吾さん(73)が作っている。

現在前川さんには、古澤さんから同業者用にと20点ほど注文が入っており、製作に追われていた。古澤さんとの出会いは大きな転機となった。

伝統工芸士の前川さん:
10年前なんか、年間1つか2つしか売れなんだ。そりゃね、うれしいわ

もともと大きな壺は古くから米や野菜・水などを貯蔵するために使われてきたが、冷蔵庫の普及とともに姿を消した。古澤さんから注文が入るまでは、ほとんど需要がなかった。

前川さんの作る常滑焼は、伝統技法の“ヨリコづくり”によって生み出される。こねた土を、人の腕ほどの太さの紐状にして、それを積みあげて作る。土にひねりを加えながら、均等の厚みに。この力加減とひねり具合こそ、職人の技だ。

1日に積み上げるのは1段のみ。土の重みで崩れてしまわないように、つなぎ目を綺麗に仕上げたら、乾燥させるために次の段を積み足すのは翌日になる。

1つの壺が完成するまでに1週間。ヨリコづくりには熟練の技と手間が必要です。現在この技法を守るのは前川さんただ1人で、後継者もいない。

つぼ焼き芋を焼くのに欠かせないの理想の壺…途絶えさせたくない伝統技術

伝統の技術が途絶えようとしている…。この後継者問題を知り、古澤さんは常滑焼に着目した。

古澤さん:
大きい壺を作る先生っていうのは日本で1人しかいないので。先生から買わないと意味がない

おいしい焼き芋を作る上で、理想の大きさを持つ壺と作る技術を途絶えさせたくない。その想いから、壺を譲ってもらうため前川さんに直談判。自分の店の分だけでなく、仲間の店でも使ってもらい、注文が増えるようにした。

用途は異なるものの、再び自分の作る壺に光が当たった前川さんは「技術を残していくのは、やっぱり銭金になっちゃうけど、売れればやってくれると思う」と未来への兆しを感じている。

岐阜・墨俣でこだわりの焼き芋を作る男性と、愛知・常滑の伝統技法を守る匠。このタッグが東海地方に新しい名物を生んだ。

古澤さんにとってこの常滑焼の壺は宝物。「貴重な壺を作っている先生を大事にしながら、うちも助けられ、常滑も壺が出荷できるっていう状態が理想」とお互いの明るい未来に思いを馳せている。

(東海テレビ)