倒れたら暗闇を照らす“こけし”

2月13日夜、福島・宮城を中心に最大震度6強を観測した地震が起きたが、地震後に再注目された防災グッズがある。

それが株式会社こけしのしまぬき(仙台市)が製造・販売している「明かりこけし」だ。
普段は部屋にインテリアとして存在しながらも、こけしにはLEDライトと傾きセンサーが内蔵されており、倒れると自動で底面のLEDライトが点灯する仕組みとなっている。
 

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地震が夜に発生し、もし停電になってしまった際、暗闇の中、まずは明かりをつけることが必要になってくるが、倒れやすいイメージのあるこけしにライトを内蔵させた防災グッズの発想が画期的だと改めて話題になったのだ。


「明かりこけし」は、単三電池2本を使用し、連続点灯時間は最長50時間。この持続時間にしたのは、東日本大震災の経験からとのことだ。また、こけしを元のように立てて置けば、ライトは自動的に消える。

種類は、首を回すと音が鳴る「鳴子系」、ベレー帽を被っているような柄が特徴的な「弥治郎系」、切れ長の瞳が印象的な「遠刈田系」、胴体が細めの「作並系」の4種類。

左から 鳴子系・弥治郎系・遠刈田系・作並系

こけしのしまぬきオンラインショップや店舗で購入することができ、サイズは24センチ(税込み10780円)と30センチ(税込み15400円)があるが、現在は完売しており予約した人から順番に購入してもらっているほどの人気だという。

なお、作並系は入荷のめどが立っておらず、オンラインショップでは一時掲載から外しており、30センチサイズのものは店舗のみでの取り扱いとなっている。

家具などが倒れるほどの地震のときに、自動的に明かりがつく防災グッズがこけしというのはイメージを逆手にとったいいアイデアに思えるが、どのようにして誕生したのだろうか?

株式会社こけしのしまぬきの島貫昭彦代表に話を聞いた。

「倒れてしまった際に役立つものができないか?」と考案

ーー「明かりこけし」はどういった経緯で誕生した?

昭和40~50年頃のこけしブーム後、売り上げが落ちていく中、こけしは頭が大きくて倒れやすいという印象からか「倒れるから嫌だよね」「倒れると戻すのが大変そう」といった、地震時のこけしのマイナスな話をよく耳にしていました。

そんなこけしのマイナスイメージにより、さらに需要が減少していく感覚があり、そういった世間のこけしに対する感覚や言われように困っているような時期に、輪をかけるように2008年に岩手・宮城内陸地震が発生しました。

我々こけしを製造・販売している側は「簡単にこけしは倒れない」と知っていますが、世間はそうではありません。明かりこけしは「簡単にこけしは倒れない」ということを伝えるため、そして、「もし倒れてしまった際に何か役立つものができないか?」という考えの中で生まれました。

明かりこけし 鳴子系

ーーどうやって作られているの?

一般的な通常のこけしは、ろくろで角材を回転させ、刃物を当てて丸く胴体を仕上げていきます。同じように頭も別で作り、完成した胴体と頭を繋げる方法です。基本的には外側を削って形を作ります。

明かりこけしの場合は、そこから更に、胴体の中にLEDライトと傾き検知センサーを一体化したユニットを入れるための空間が必要になります。24センチの大きさのこけしの場合、直径3センチ・深さ11センチの真っすぐな穴を、こけし胴体に開ける作業が別に出てくるのです。その穴の中に、作ってもらったLEDユニットを入れて、明かりこけしが完成します。


ーーこのアイデアはどうやって思いついた?

たまたま明かりが点くというのが、一番分かりやすかったのが1つ。あとは、明かりこけしの内部に入っている、LEDライトと傾き検知センサーが一体になっているユニットを製造する、技術的な特許を持つ会社とお知り合いになれたためです。

「こういう特許を持つ会社があるんだ」→「じゃあこういうのを作ってみよう」というところから、明かりこけしのアイデアができました。

傾きを感知するとライトが光る

なお島貫代表によると、倒れやすいといったイメージのあるこけしだが、実際に消防署の地震体験車で実験してみたところ、「震度4にならないとこけしは倒れない」ということが分かったという。
開発のきっかけはイメージを逆手にとったのかと思っていたが、実は「簡単にこけしは倒れない」ということを伝えるために作ったものだった。
 

ここまで反響が大きかったのは初めて

ーー製造にあたり苦労する点はある?

伝統こけしの胴体に直径3センチ・深さ11センチもの穴を開ける作業です。

こけしを始め、お椀やおぼん・仏具などの木工製品を作る木地師(きじし)の道具の中に「きり」という、パイプを半分にしたような形状の刃物があります。こけし製造の際などにも使用しますが、通常刃物の大きさは数ミリ程度のものです。

しかし明かりこけしで穴を開ける際に使用する場合は、直径3センチのきりが必要になります。その大きさとなると道具そのものを持つ人がほとんどいません。そして、そのきりを持っていたとしても、それを使いこなすある程度の技術が必要になるのです。

こけしが作れるから穴を開けられるわけではなく、穴を開けるためにもそれ相応の技術を求められます。


ーーこだわりの部分はどこ?

外見的に伝統こけしの形を変えないでいる点です。物としては、あくまでも観賞用・趣味で収集するような伝統こけしであり、それが倒れた時に全く違う機能を発揮するといった物になります。

伝統こけしというのは、師弟関係の中で技術を学び、身につけ、師に認められて初めて伝統こけしを作ることができるもので、誰でも簡単に作れるものではありません。そういった点を一切崩さずにいるのがこだわりです。

ーー明かりこけしにはどういった声が届いているの?

2009年に発売開始して、その2年後に東日本大震災が発生。その時に「役に立った」といった声を頂きました。しかし震災後の多かった用途としては、震災時に来てくれたボランティアやお見舞いの品を送ってくれた方々への、現地からの御礼品としての使用が顕著でした。地震に関係のある役に立つ商品という事で、こういった使い方をしてくれたのかなと思います。

また、発売当初から今も安定してある用途としては、大体が祖父母など大切な方への贈り物です。どこの家庭でも懐中電灯はお持ちだとは思いますが、夜間に発生した地震の際、暗い中でそれを探すのは大変です。明かりこけしですと倒れると勝手に点灯しているため、安心を届けるという意味でも選ばれているのではないでしょうか。

明かりこけし 遠刈田系

ーー現在、入荷待ち状態の売れ行きの反響だが?

2月13日の地震での反響が大きく、おそらく今回の地震では関東の広い地域でも停電になったことが関係しているのではないかと思います。実際経験したことで改めて、その時に何が必要なのかを考えた際に、明かりこけしが候補に挙がったのではないでしょうか。その地震以前の反響はばらつきがあり、ここまで反響が大きかったのは初めてです。


ーーそういった声や反響にたいしてはどう思う?

「実際に役に立った」というお声は、すごくうれしいです。怪我をしないですんだとか、安全な場所に移動できたとか、そういうことに繋がっているとすれば、明かりこけしが役に立つということについて、率直にうれしいと思います。


ーー最後に、明かりこけしの魅力を教えて。

必要な時に必要なことをしてくれているという事です。

震度4を超えると地震の揺れに対する恐怖心が芽生えると防災アドバイザーに教えてもらいました。地震が発生した際、こけしが倒れるタイミングと揺れへの恐怖心が生まれるタイミングが偶然一致します。

だから、恐怖心が芽生えたタイミングで、明かりこけしが明かりを届けてくれることで安心感を得ることができる。そういう丁度必要な時に必要なことをしてくれるこけしだと思います。狙ったわけではなく、結果的な話なのですが…

明かりこけし 弥治郎系

ちなみに、約50時間も点灯し続けられる明かりこけしだが、2009年の発売した段階では約8時間しかもたない仕様だった。しかしその後、東日本大震災が発生。何日間も停電が続いた経験を経て「持続時間が短い」「もっと明るさが欲しい」と感じたのだそう。

その経験をもとにユニットの変更を行い、省エネでありながら、点灯持続時間を50時間へ。そして明るさも1.5倍増という改良を行った。

なお50時間というのも短めに言っているそうで、実際に島貫代表が実験してみたところ、新品のアルカリ電池を入れ、明かりこけしを倒した状態のまま1週間放置しても、明かりは点いた状態だったという。電池の消耗状態次第では、かなりの時間明るさを確保することができる。

「何日間も停電が続く状況というのはあまり想像したくないが、いざという際には長時間安心して明かりを確保するのに役立ててほしい」と島貫さんは話している。


明かりこけしは、その存在だけで「いざという時は明かりは確保できる」という安心感を与えてくれることだろう。2021年は東日本大震災の発生から10年となり、改めて防災への意識を高める機会となる。現在オンラインでは予約販売となるが、防災グッズを準備している人は検討してみるのはどうだろうか。
 

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