なくならないフェイクニュース

このコラムが「NON FAKE NEWS」を標榜している以上はフェイク(偽)ニュースの指摘を続けてゆかねばならないだろう。

今回フェイクなニュースを流したのは、米国でもCNNと反トランプを競っているMSNBCで、キャスターでコメンテーターでもあるローレンス・オドネル氏が先月28日夜彼自身の番組の前の番組に出演し、トランプ大統領のロシア疑惑を追及し続けて有名になった司会のレイチェル・マドーさんにこう言った。

「貴女の反応がどうしても知りたくて出演させてもらいました。その話というのはドイッチェバンクに近い一人の消息筋が語ってくれたもので、ドナルド・トランプの借用書には保証人の署名があるというのです。この人物の保証で彼(トランプ)は銀行から借り入れを起こすことができたわけですが、その保証人というのがロシアのオリガルヒ(政治的影響力のある新興財閥)だったのですよ」

オドネル氏はさらにこう続けた。
「これでトランプ大統領がプーチン大統領に好意的な理由が分かるでしょう?」
「ほんとう?」
マドーさんは目を丸くするだけだった。

「放送するには準備不足だった」

ドイッチェバンクはかねてトランプ大統領の主要取引銀行と言われ、ムラー特別検察官らの捜査も念入りに行われたがこれまで何もロシア疑惑を裏付ける事案は見つかっていなかった。そこでオドネル氏の証言はトランプ大統領の弾劾にも通じる大スクープになるのかと注目されたが、その翌日オドネル氏は自らの番組内で前日の発言を撤回し謝罪してしまった。

「昨夜の番組内で申し上げた情報は公にする準備ができていないものでした。その情報は一人の情報筋から得たもので『もし事実なら』という前提でお話ししましたが間違っていました。私はこの情報についてMSNBCの審査を経たものではなく、もし審査を受ければ放送することもツィッターで語ることも許されなかったでしょう。(中略)このためこの情報は撤回します。この情報が不正確だったかどうかはわかりませんが、放送するには準備不足だったことは確かで、謝罪します」

情報を撤回せざるを得なかった悔しさが滲み出た謝罪でこれで訂正したことになるのかどうかわからないが、オドネル氏はその日トランプ大統領の顧問弁護士から抗議の書簡が届き、この中で情報は虚偽であり撤回することを要求されたことも明らかにした。

情報源が匿名という危うさ

 
 
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「これまでで最もバカバカしい話だ。ロシア、ロシア、ロシア。ロシアのオリガルヒが保証人になって借用書に署名したって?これまで彼や彼の死に体のマスコミが長年言ってきたこと同様に大ウソだ。皆謝れ!」

トランプ大統領もここぞとツィートした。

トランプ大統領の公式ツイッターより
トランプ大統領の公式ツイッターより

今回の話は情報源も匿名の一人でその情報を補強する取材もせず、放送局のニュースデスクなりの審査も通さずに放送で喋ってしまったということで取材に携わった者には考えられないような話だが、今横行しているフェイク・ニュースの多くがそうなのかもしれない。

とりあえず、トランプ大統領に不利な話でその情報源が一人で匿名というのは疑ってかかった方が良さそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】

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木村太郎著
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木村太郎
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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。