世界各国で新型コロナワクチンの接種が行われる中、日本でもワクチンの接種が始まる。一方、国産ワクチンの実用化にはまだ時間がかかる見通しとなっている。遅れを取りながらも国産ワクチンの開発を進めるべき理由とは。

今回の放送では、国産ワクチン開発の先頭を走る二人を迎え、武見敬三元厚労副大臣とともに国産ワクチンの現状と将来に向けた課題を掘り下げた。

”ライバル”アストラゼネカ社の国内製剤化を引き受けた理由

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新見有加キャスター:
永里さんが経営する製薬会社KMバイオロジクスは、拠点を熊本県に置く日本有数のワクチン製造会社。新型インフルエンザ発生に備えて5700万人分の生産設備を保有し、去年5月から新型コロナワクチンの開発も開始されています。永里さん、日本のワクチン事業を世界と比べると、その質や量は。

永里敏秋 KMバイオロジクス 社長:
不活化ワクチン、生ワクチン、抗原蛋白ワクチンといった今までのワクチンの手法が世界に比べて劣るとは私は思いません。ただ今回、欧米でmRNAワクチンが良い有効性と安全性を示してきている。これはちょっと置いていかれた印象。

そしてワクチン会社の規模感。日本のワクチン会社は弊社含め小粒。それぞれの会社に技術はあるが、欧米に比べると小規模。海外メーカーは各国の支援を相当受けている。

また、今回のmRNAワクチンはまさに2002年〜03年に起こったSARS、その後のMERSの際に開発された技術が国の支援のもとずっと継続的に研究され今回に結びついている。一方日本では、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまう。

永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長
永里敏秋 KMバイオロジクス(株)代表取締役社長

新見有加キャスター:
KMバイオロジクスは今月、ファイザーに続いて日本でワクチンの承認申請をしたアストラゼネカのワクチンを国内で製剤化することを発表しました。アストラゼネカは製造面ではライバル会社ですが、引き受けた理由は。

永里敏秋 KMバイオロジクス 社長:
日本の閉塞感を何とかしなきゃいけないという一言。スピード感は昨年春の時点でファイザー、モデルナ、アストラゼネカが抜きんでていた。弊社の設備を有効活用しようということで、アストラゼネカとうまく話し合いが進んだ。

新見有加キャスター:
その一方、KMバイオロジクスは不活化ワクチンを開発中。来月にも第1段階である第1・2相の治験を始める予定です。永里さん、なぜ従来型の不活化ワクチンの開発を? 

永里敏秋 KMバイオロジクス 社長:
まず安全性を絶対に重要視したいということ。四種混合ワクチン、インフルエンザワクチンなど、弊社が作っているものはほとんどが不活化ワクチンです。高齢者も妊婦さんも投与・接種することができ、安全性が担保できること。また不活化ワクチンはウイルスそのものを取り扱うため、専門性が必要。弊社には技術者が多数いて設備もある。最初のプロトタイプには時間がかかるが、変異株が出たときにはスピード感を持って対応できるだろうと見ている。2023年には市場へ出していければ。

先行の”阪大・アンジェス”チームの最終治験は外交案件に

新見有加キャスター:
国産ワクチン開発において最も先行している、大阪大学とアンジェスが共同開発中のワクチンについて。アンジェスは本日ゲストの森下さんが創業した遺伝子治療薬を軸とする創薬ベンチャー。現在行われている第2・3相の治験をクリアすれば、数万人規模となる最終段階の治験に。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
治験そのものは本当に順調。一番の課題は、最終治験をどこの国でどれくらいの方に行うか。当然費用が膨大にかかり、厚労省含めてご支援いただかなければ。

武見敬三 自民党新型コロナ対策本部本部長代理 元厚生労働副大臣:
第3次補正予算でそのために1370億円の予算を取った。治験には、海外での治験含め数百億単位のお金がかかる。

武見敬三 元厚生労働副大臣
武見敬三 元厚生労働副大臣

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
今の日本では、新型コロナウイルスにおける発症率がアメリカなどに比べ10分の1。そこで100人が感染した場合に発症者を5人に抑えるという試験を行おうとすれば、30万人ほどが必要国内では不可能で、発生の多い国でやらなくては。また、もしうまくいけばその国にワクチンを供給する義務がある。そうしなければ人体実験になってしまう。

反町理キャスター:
今の時点で該当する国はあるんですか。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
いくつかあります。すでに話をしているが、東南アジアの国を中心に行うことになるのではないかと思っています。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授
森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授

反町理キャスター:
ただ、中国のシノファームやロシアのスプートニクVなど、ワクチン外交を展開してくるという話もある。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
まさにワクチン戦争。しかしワクチンというものは、ある程度の規模の数が入らなければ不公平感が起こり、その国の政権基盤が危なくなる。もう一点、中国やロシアはワクチンと引き換えにかなりの代償を要求しているという話を実際に聞いている。

反町理キャスター:
そこにはアンジェスのチャンスがあると。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
なんとか我々のワクチンで感染を防ぐお手伝いができれば。国のバックアップも必要。

反町理キャスター:
今日本が取り組んでいるワクチン外交は全く逆で、どうやって外国からワクチンを取り寄せるかという話。そもそも日本が提供側になる逆転の可能性は。

武見敬三  元厚生労働副大臣:
他国がしたがらないフェアな情報公開をし、共有を認め、そして一定のコスト面での協力もするという形をとれれば、だいぶ出遅れてはいるが日本が世界の中で主要な役割を果たせるようになる希望はある。

国産ワクチンの開発は国家安全保障上の問題

新見有加キャスター:
国産ワクチンを開発する意義と国の向き合い方について。海外では、アメリカ、イギリス、ロシア、中国産のワクチン接種が始まっています。それでもやはり国産ワクチンを作り続ける意義について。

永里敏秋 KMバイオロジクス 社長:
ワクチンは国家安全保障上の問題だと私はとらえています。パンデミックは世界中で起こる。今回政府がよく頑張ってくれたが、この後も継続的にワクチンが入ってくる保証はない。安定供給のために国産化は避けて通れない
それから変異株。今のイギリス株や南ア株と言っているが、来年や再来年に日本株が来るかもしれない。そこで国産技術がなければ誰が作ってくれるのか。今後も変異が起こりやすいのは間違いない。しっかりと国産ワクチンを育てておく必要がある。

森下竜一 大阪大学大学院 寄附講座教授:
私は実は来年のほうがワクチン生産が厳しくなると読んでいる。今は先進国を中心に10カ国ほどしか打っていないが、残りの国にワクチンがまだ入っていない。日本が来年2回目のワクチンを打とうというとき、むしろお金がない発展途上国に先に配るべきだという人道上の問題がある。自国生産していなければ優先的に確保するのは難しい。

また、接種が始まったワクチンの中でもアストラゼネカ、スプートニクV、シノバックというのはアデノウイルスを使ったもの。これは1回打つと次の年には効果が出ない。半分ぐらいのワクチンメーカーが来年の流行や変異株に対応しきれなくなります。

BSフジLIVE「プライムニュース」2月10日放送