3年ぶりにバグダッドで自爆テロ

イラクの首都バグダッド中心部で1月21日、連続自爆テロが発生し32人が死亡、100人以上が負傷した。バグダッドで自爆テロが発生したのは3年ぶりのことである。

自爆テロが起きた衣料品市場
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買い物客で混み合う衣料品市場で、男が「腹が痛い」と訴えてうずくまり、心配して人々が周囲に集まってきたところで装着していた自爆ベルトを爆発させた、と目撃者は語っている。その後、治安部隊員などが駆けつけたところで、もう一人の男がバイクで乗り付け、同じく自爆ベルトを爆発させた。

「イスラム国」が犯行声明

こうしたやり方での連続自爆テロは、「イスラム国」の手口としてよく知られている。実際、半日後には「イスラム国」が犯行声明を出した。

今もイラク各地に潜伏する「イスラム国」

米国主導の有志連合軍の作戦により、「イスラム国」は2017年には拠点としていたイラク第二の都市モスルを失った。イラク政府は2017年12月に「イスラム国」に対する勝利と全土解放を宣言、以後バグダッドの治安は改善傾向にあった。しかし彼らは以前のような形で領域支配をしてはいないものの、今もイラク各地に潜伏し、イラク軍やイラク国民を散発的に攻撃している。「イスラム国」の週刊誌『ナバア』は、毎週イラクで数十回の攻撃を実行していると報告している。

それでもイラクの治安状況は、相対的には改善された。特にバクダッドでは、2003年のイラク戦争以降自爆テロが頻発するようになり、2016年には「イスラム国」により300人近くが死亡する自爆テロが実行されたが、2018年以降自爆テロの発生はなかった。

シーア派民兵組織の存在

かわってイラクの治安を悪化させる主体となったのが、「人民動員隊」(PMF)の名の下に結集されたシーア派民兵組織である。彼らを強大化させたのは、シーア派の隣国イランだ。イランはPMFに積極的に資金や武器を与えて「代理組織」化し、イラン体制の手足として利用してきた。2020年1月に米軍がイラクで殺害したイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官は、中東各国でPMFをはじめとする代理組織を操り、イランの地域侵略作戦を主導する立場にあった。

ソレイマ二司令官殺害を受けて「アメリカに死を!」と叫ぶ群衆(2020年)

イランは1979年の建国以来アメリカを「大悪魔」と呼び敵視している、自他共に認める反米国家だ。イラクでは2020年、バグダッドにあるアメリカ大使館や在留米軍に対するロケット弾攻撃が数十回発生したが、そのほとんど全てはカタイブ・ヒズボラやバドル組織などのPMFによるものとされる。PMFは他にもジャーナリストなどの著名人や外国人、米軍関連の通訳者などをターゲットにしていると非難されている。

ソレイマニ司令官の1周忌を偲ぶため多くの人々が集まったバグダッド(2021年1月)

在外米軍削減を公約として掲げてきた米トランプ前政権は、1月15日までにイラク在留米軍の規模を2500人まで削減したと発表した。PMFを始めとするイラクの親イラン派は、かねてより米軍の完全撤退を要求している。PMFは既にイラク各地に検問所を設置し、米軍削減により生じた力の空白を埋めつつある。

バイデン新政権を意識

この力の空白により「イスラム国」などのテロ組織が更に勢いづく可能性もある。今回の自爆テロは、前日の20日に就任式を終えたばかりのバイデン新大統領に対する「はなむけ」といわんがばかりのタイミングで発生した。テロ現場も米大使館から数キロメートルしか離れていない。「イスラム国」がバイデン新政権を意識している可能性は否定できない。

大統領就任式で聖書を手に宣誓するバイデン大統領

バイデン氏は自身の大統領就任にあたり「アメリカが戻ってきた」と述べ、就任演説でも「我々は同盟を修復し再び世界に関与する」「アメリカは試練に立ち向かう。単に力を示すだけでなく、模範としての力でも世界を導くのだ」と述べた。

複雑なイラクの治安状況が悪化する中、バイデン政権は具体的に何をどう他国と協力し、どのようにしてより安全な世界へと導くのか。バイデンの発言は口先だけの理念に過ぎないのか、それとも実行力を伴うものなのか。バイデン政権は早くも試練に直面している。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】