コロナ禍で深刻なタイの観光業

タイでは、政府高官などを除き入国する際には指定されたホテルなどで、2週間隔離することが義務付けられている。このため観光ビザの取得が可能となった今でも、多くの外国人は2週間の強制隔離のためにタイへの観光に二の足を踏んでいる。観光立国と呼ばれるタイの経済は、新型コロナウイルスの影響で深刻な影響を受けている。地元メディアによると、タイ観光業協会に加盟する外国人向けの観光業者のうち、約3割が廃業、約5割が営業を停止した状態だという。

ゴルファー天国のタイ

タイ観光庁によると、タイには200コース以上のゴルフコースがあり、日本人をはじめ毎年多くのゴルファーが訪れていた。1年中温暖で、プレー代金も比較的リーズナブル。国際大会でタイガー・ウッズをはじめ、往年の名選手が歴史を刻んだコースもある。そこで、タイ政府はゴルフ好きな外国人観光客を呼び込もうと、隔離期間中に毎日ゴルフを楽しめる「ゴルフ隔離」を発表した。

Mida Golf Club提供
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「ゴルフ隔離」とは?

タイ保健省が「ゴルフ隔離」の可能な施設として認めたリゾート施設は現在6カ所。カンチャナブリ県やナコンナヨック県、チェンマイ県など地方にあるホテルを併設したゴルフリゾートだ。最大のウリは2週間の隔離中、毎日安心してゴルフを楽しむことができることだ。

しかし、この「ゴルフ隔離」を利用して入国するとしても、ビザや入国許可証は当然必要で、プレー中もマスクの着用が義務づけられる。2週間同じキャディが同じ利用客のみを担当するが、キャディはもちろん利用客もレストランなどの共用エリアに入る前には、体を洗って着替える必要がある。さらに、ホテルでの隔離と同様、2週間の隔離中3回のPCR検査を受けなければならない。

Mida Golf Club提供
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カンチャナブリ県のミダ・ゴルフクラブでは、すでに1月30日から韓国人観光客約30人の予約が入っているという。15泊16日で毎日のゴルフと3食付きで、1人11万6000バーツ。日本円で40万円ほどだ。

Mida Golf Club提供
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承認されたのは6カ所のみ

現在タイ政府に承認された施設はわずか6カ所のみで、都心に近い大半のリゾート施設は申請していない。多くの施設は、タイ在住の利用客に利用してもらうことの方が収入になると考えている。「ゴルフ隔離」をおこなうことで、感染対策にかかる費用が増える上、これまでの利用客が「隔離施設」だと知って、利用を敬遠するおそれもあるという。

Mida Golf Club提供
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生き残りをかけた「頼みの綱」

しかし、地方のゴルフ場は状況が違う。タイでは2020年12月から新型コロナウイルスの第2波が全土を襲った。「ゴルフ隔離」を実施するミダ・ゴルフクラブも現在、「ほぼお客さんがいない」と話すほど、深刻な影響を受けている。

人口が多いバンコク周辺のゴルフ場は在住者の利用があるため、まだ経営が成り立つ。しかし、地方のゴルフ場はタイ在住者の利用が少なく経営は深刻だという。地方のゴルフ場にとっては、外国人観光客の利用が見込める「ゴルフ隔離」は生き残りをかけた「頼みの綱」となっている。

Mida Golf Club提供
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復活の兆しは見えず

タイでは2020年11月、強制隔離の期間を10日間に短縮する案も浮上したが、タイ政府はこれを却下している。厳しい強制隔離を敷くことで、タイでは変異ウイルスの市中感染は確認されておらず、1日の新規感染者数も数百人で推移している。

一方で、観光立国であるタイのダメージは非常に深刻だ。特別観光ビザなど条件付きでの入国を認めているものの、2週間の強制隔離がネックとなって観光客の増加につながっていない。「ゴルフ隔離」もまたわずか6カ所の施設でしかおこなわれておらず、効果は限定的と言わざるをえない。観光立国の復活の兆しはまだ見えない。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】