昨年は新型コロナウイルスの感染拡大が続いた1年だった。しかし2021年になってもいまだ収まる気配がなく、マスク着用は現在も欠かせない。

マスク着用の日常にある程度は慣れたと思うが、息苦しさや化粧崩れといったストレスを感じる人はいることだろう。

そんな悩みを改善してくれる商品が、大阪・八尾市のプラスチック用金型を製造する株式会社武林製作所から発売された。

その名も「マスクのほね」

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白く細長い形状をしたこの商品は、不織布マスクの中心を“一本の線”で支える、プラスチック製のマスクフレーム。

これを装着するとマスクを内側から支え、空間ができることから、マスクが口まわりに触れることなく快適に過ごすことができるというのだ。

使い方も簡単で、マスクの両端にフックをかけて装着するだけ。一本のフレームで支えるので、見た目も目立たないようになっている。プラスチック製であることから水洗いも可能で、何回も繰り返し使用することができる点もうれしいだろう。

装着していても確かに目立たない
装着していても確かに目立たない

「マスクのほね」は同社オンラインショップ「TMC BASEショップ」などで、10本セット(税込み1980円)・50本セット(同8780円)・100本セット(同13980円)の全3タイプが販売されている。なお初回生産分は完売となったが、新たな出荷分の生産を進めている。

医療の最前線を始め、販売・接客・製造の現場で働く人たちに役立ててほしいとの思いから、職場でまとめて導入してもらうことを想定し、セット販売にしているという。

なおサイズは、”ふつうサイズ”のマスク用(横120ミリ・縦57ミリ・高さ6ミリ・重量約2グラム)のみとなる。

「マスクのほね」サイズ
「マスクのほね」サイズ

ちなみに「マスクのほね」という商品名は、社長の「それ、骨みたいやな!」とのひと言から名付けられたんだそう。現場の人にクスッと笑ってもらえたらという想いが込められた。

口まわりにピタッと密着するマスクで、化粧が崩れたり息苦しかったりなどとストレスを感じていた人も、それが解消される商品となることだろう。

確かに、今までにありそうでなかった便利そうなアイテムだが、そもそもなぜマスクフレームを作ろうと考えたのだろうか?

武林製作所・商品開発責任者である武林広高専務取締役に話を聞いてみた。

こだわりはフック部の“ゼロに近い隙間”

ーーなぜ「マスクのほね」を作ることにした?

コロナ禍で受注減などの影響を受けている会社や工場はたくさんあると思います。弊社は歯ブラシの金型製作では国内トップシェアを誇る金型製造の町工場ですが、コロナ禍の影響でこれまでに経験したことのないレベルで受注が減ってしまったのがきっかけです。

弊社は2017年に立ち上げたオリジナルブランド「ITADAKI」という、金型技術を活かした商品を企画・製造・販売しており、社内には6名からなる商品開発チームがあります。そのメンバーが集まって、自分たちの技術を活かしてこのコロナ禍で世の中の役に立てる商品はできないかと考えて企画しました。


ーーどのようにしてマスクの軸を作るというアイデアは出た?

新商品のアイデアについては、社員17名全員であらゆる視点から何度も考えて数十個の案を出しました。その中の一つにマスクフレームがありました。発案者はスポーツジムに通うのが日課で、マスク着用が義務づけられた中で運動時の息苦しさを解消したいと思ったのが発案のきっかけです。

3Dプリンターで試作品を何度も作成して改良し、特に有酸素運動時の呼吸をいかに妨げないようにできるかを追求した結果、シンプルな形がいちばんストレスなく楽に呼吸ができるという結論にたどりつきました。

武林製作所の人たち
武林製作所の人たち

ーー金型製造の技術を生かした、こだわり部分はどこ?

マスクに装着しても目立つことがなく快適な着用感で、かつ丈夫であることを両立したシンプルでスマートな形状です。商品の見た目はすごくシンプルでありつつも、マスクを挟みこむ両端のフック部の隙間をゼロに近づけるというのがポイントで、この隙間の幅が広いとマスクからフレームが外れてしまいます。

しかし、この隙間こそが金型を作るうえで最大の難関になります。金型は鉄を削った空間に樹脂を流し込んで製品の形を作りますので、このゼロに近い隙間の部分が鉄の部分となります。そこに弊社の金型製造のノウハウが活かされております。


ーー製造の際、苦労した部分は?

3Dプリンターで製作した試作品で市場リサーチを始めたのが2020年の9月中頃で、約2カ月の評価期間を設けました。そして商品化を決めたのが同年11月中頃です。弊社の場合は通常の金型製作におよそ2カ月掛かりますが、今回は新型コロナウィルスの第三波で感染が広がる中、早急に製作をすすめ、比較的短納期でできる既存の金型を用いることで約1カ月で作り上げました。

また金型製作やテスト成形は普段から行っていますが、量産成形は初めてのこと。販売サイトの立ち上げ、プレスリリースの作成、梱包や出荷・備品調達など怒涛の日々を過ごし、時間がない中で商品を作り上げて発売するということがいちばん大変でした。

装着
装着

ーー商品名は社長の発言「それ、骨みたいやな!」からとのこと。聞いた時の周囲の反応は?

最初はみんな顔を見合わせて「???」という感じでした。以前弊社の社長がトラックで金型を納品する時にとても大きな事故を起こし、腰椎圧迫骨折で入院したことがありました。その時に全く身動きが取れない経験をし、改めて骨って体を支える大事なものだと感じていました。

今回のマスクをしっかり支える一本のフレームを見て、そんな骨のイメージとピッタリだと閃いたということです。話を聞いた会社のみんなは満場一致で「『マスクのほね』にしましょう!」となりました。

“小さめマスク”に対応したタイプも検討中

ーー使用する際の注意点を教えて

現行モデルは175ミリのふつうサイズの不織布マスク専用であるということです。それ以外の短いサイズのマスクに対応したタイプも製造を検討していますが、現行モデルの商品を175ミリのふつうサイズ以外のマスクに使用するとフックが外れてしまいます。また、プラスチック商品のため無理やりに力を掛けてしまうと変形のおそれがあります。

水洗いができ何度か繰り返し使っていただくことのできる商品ですが、しだいにフックがゆるくなりましたら新しいものと交換していただく消耗品となります。


ーーどういった人にオススメ?

医療の最前線で頑張ってくださっている方、飲食店や理美容関係のお仕事をされている方、工場や現場の作業者の方など、マスクの着用が義務づけられているさまざまな現場で働き、日々息苦しさや蒸れ、メイク崩れといったマスクのお悩みを抱えられている方におすすめです。

装着の様子 美容師
装着の様子 美容師

ーー反響はどう?

プレスリリースを発売日である12月23日の朝10時30分に配信しました。しかし最初に売れたのは夕方の17時20分で、その後もぽつぽつと1時間に2、3セットだけ売れるという感じが翌朝まで続きました。しかし午前8時を過ぎるとどこかのメディアがSNSでご紹介されたらしく、突然1、2分か2、3分ごとに1セットずつ売れるようになりました、それが昼過ぎまで続き結局24時間で150セット(1730本)をご購入いただきました。

3Dプリンターで製作した試作品で市場リサーチを行ったところ、色々と良い評価をいただいていました。今回も同様の評価を受けられれば良いなと願いながらも、まったく売れないかもしれない…という期待と不安が入り混じっていました。予想以上の反響があるということは思いもよりませんでしたので、販売初日はかなりパニック状態になりました。

装着の様子 販売員
装着の様子 販売員

運動時の息苦しさの解消が発案のきっかけとなった「マスクのほね」。

歯ブラシの金型製作国内トップシェアという金型製造の技術を用いたということだが、実際の使い心地はどうなのだろうか? 「百聞は一見に如かず」ということで、編集部で商品を試してみた。

本当にストレスから解放されるのか…試してみた

必要なのは、普通サイズのマスクと「マスクのほね」が1本。

装着は「マスクのほね」の両端にあるスリット部分に、マスク両端の中央部分を差し込むだけで、3秒とかからずに簡単に装着ができた。

これだけで手軽にできる
これだけで手軽にできる

マスクを着けてみると、まず口元にマスクが触れないことがうれしい。

そして「マスクのほね」の両端が頬に軽くフィットし、描く緩やかな曲線が、マスクと顔表面の間に程よい空間を作ってくれていることが分かる。重さも特に感じず、見た目も含めて装着している違和感はなかった。

口元に接していないからか話す際の不便さもなく、普段はコンビニの店員に聞き返されることが多いのだが、話しやすくなったことからかその回数も減ったように思える。呼吸もしやすく、長時間歩いていても蒸れたりといった不快さから解放された。

装着しても見た目に違和感なし
装着しても見た目に違和感なし

ちなみに、武林製作所こだわりのマスクを挟みこむ両端のフック部は、しっかりとマスクをはさみこんでいたため、マスクが外れるという心配をすることすら忘れるほどの安心感も。武林製作所の技術だからこその“ゼロに近い隙間”をしっかり体感できた。

そして要望があるとしたら、やはり小さめのマスクに対応したサイズが早くほしいということだろう。いつもは小さめのマスクを使用していることから、今回は普通サイズのマスクを着用したことで、顔とマスクの間に隙間があったことに違和感があった。

フック部の“ゼロに近い隙間”
フック部の“ゼロに近い隙間”
10本セット
10本セット

「少しでも快適に仕事をしてもらいたい」

最後に、この「マスクのほね」の今後の展開についても聞いてみた。

ーー「マスクのほね」の今後について、新しい展開など考えている?

ご購入いただいた方の7~8割ぐらいが女性ですが、もし小さめサイズ用のご要望をたくさんいただいた場合は検討したいと思います。


ーー最後に「マスクのほね」に込めた思いを教えて

弊社は大阪の町工場ですが、同じようにさまざまな「現場」で働く方々は、みなさん大変な思いをされているのではないかと思います。そんな状況下でも頑張って現場で働いている方々にお使いいただき、少しでも快適に仕事をしてもらいたいと願って作りました。

装着の様子 医療現場
装着の様子 医療現場

散歩やランニングなどの長時間動いたりする人はもちろん、人と接する接客業の人たちには蒸れや息苦しさからの解放だけでなく、話しやすさ聞きやすさへの手助けにもなるのは、間違いなさそうだ。

新型コロナウイルスはまだ収束する気配がなく、マスク着用の生活は今後も続くだろう。マスクによる不快さにストレスを感じている人は、このような製品を使用してみるのもよさそうだ。
 

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プライムオンライン編集部
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