震災乗り越えた女性がガイドを務める「いのちをつなぐ未来館」

東日本大震災が発生した2011年3月11日、岩手・釜石小学校の児童は大多数がすでに下校していたが、それぞれが的確な判断で行動し、184人全員が無事に助かった。子どもたちは、どのように自らの命を守ったのか、当時校長だった女性が、あの日の教訓を伝え続けている。

いのちをつなぐ未来館 菊池のどかさん:
すぐあそこ、海のすぐそばの中学校から向こうの山の方に向かって、だいたい2kmくらい走って、逃げた中の1人です

 
 
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「いのちをつなぐ未来館」は、2019年3月にオープンした釜石市の津波伝承施設。
9月18日、一戸町の小学生が訪れ、ガイドの菊池のどかさんが、自身の経験を交えて震災について語った。

 
 

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
のどかさんの話は、本当にすごくうまいです。あったことをしっかり伝えてくださる

ーー響くものがある?

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
あります。そう聞かれると涙が出てくるからだめなんです

 
 

震災の時、子どもたちはどう避難したか

「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長・加藤孔子さんは、市からの提案をきっかけに2020年8月に就任した。
震災当時の釜石小学校の校長だ。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
震災の時、子どもたちはどう動いたのか。事前にどんなことが教育されていたのか、伝えていきたい

その思いを胸に、この日は震災の時、児童たちがどう避難したか、現在の小学生に対して話した。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
友達とゲームをしていた子。「あ!逃げよう」って言って、この子たちも走って逃げました。
途中、ちょっと走るのが遅れてきた子を、リレーの選手の子がおんぶして走りました

中には、津波をかぶる経験をした子もいた。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
屋上の3階に行ったら、もう3階の高さまで波が来ていました。夜10時にお父さんが迎えに来るまで、ずっとそこで波を何回もかぶって、手すりにつかまって待っていたんです。でも、命助かったんです

 
 

あの日、釜石市内の約3000人の小中学生は、そのほとんどが津波の難を逃れ、迅速に避難。
当初は“釜石の奇跡”と呼ばれた出来事だ。

2011年3月11日 岩手県釜石市
2011年3月11日 岩手県釜石市

釜石小の児童は、地震の際、大多数がすでに下校していたが、それぞれが的確な判断で行動し、184人全員が無事に助かった。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
「すごい子どもたちだ」って思いました。「よく逃げたね」って、職員室中、拍手が起こりました

防災マップも避難訓練もオリジナルの「防災教育」

児童の避難行動を支えたのは、加藤さんたち教員が始めた「下校時」の避難訓練。

子どもたちは事前に「防災マップ」を作成し、地域の危険なところを確認。
これを生かし、先生と保護者の目が届かない下校中でも、一番近い避難場所を自分たちで判断し移動する。

 
 

こうした防災教育が自主的な避難行動につながった。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
防災マップもオリジナル、下校時避難訓練もオリジナル、そういう工夫が教師には必要なんだよということ

 
 

震災から10年 誰もが“命が守る行動”を取れるように

現在は盛岡に住み、岩手大学の特命教授として教師を目指す学生に指導している加藤さん。
いのちをつなぐ未来館には常駐せず、定期的に助言をする形で関わっている。

 
 

さらに2020年度は、福岡・北九州市の教育委員会の防災のアドバイザーも務めることになり、11月27日、現地の教員・約50人を対象にしたオンラインでの研修会を開催。
かつての釜石小の教員たちと講師を務め、防災について家庭内でも考えてもらうことが大切だと述べた。

 
 

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
(防災教育で)大事なことは、(子どもたちが)自分の足で歩いたこと、自分の目で見たことだったと思います。家庭との連携の話もありましたが、それも子どもたちの命を救ってくれた

当時の釜石小の児童で、現在は慶応義塾大学の学生・寺崎幸季さんの姿もあった。

当時の釜石小の児童・寺崎幸季さん:
(防災教育を)やってくれていたから、今、私が生きている。先生たちの時間を削ってまでしなくてもよかったことなのに、すごくありがたい。大人になってすごく身に染みる

 
 

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
苦しいことも泣きたいことも沢山あったと思います。でも、みんなかっこいい大人になっている。私たち先生は、それが何よりもうれしいことです

震災後もたくましく生きる教え子たちの存在こそ、加藤さんの活動の原動力。
その防災に対する熱意は、北九州の教員にもしっかり届いていた。

北九州市立木屋瀬小学校 志比田心平先生:
自分の判断で、自分の命や家族を守れる子どもを育てられるよう、釜石小の防災教育を一つのの手掛かりにして、指導していきたい

 
 

さまざまな立場で、防災の大切さを訴えてきた加藤さん。

東日本大震災からまもなく10年。
これからの災害でも、あの日の子どもたちと同じように、誰もが命が守る行動を取れるよう教訓を伝え続ける。

いのちをつなぐ未来館 名誉館長・加藤孔子さん:
10年前のことを伝承すること。震災を乗り越えて力強く生きている人がいることを今の人たちに伝えて、災害に自分たちがこう備えていけばいいと気付いてもらえればいいと思っています

(岩手めんこいテレビ)

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