1月の「しぶんぎ座流星群」、8月の「ペルセウス座流星群」と並ぶ3大流星群の一つ、「ふたご座流星群」が12月にピークを迎えた。

2020年は月の影響が少ない好条件で、1時間に50個以上の流れ星を観測することができると予想されていたため、活動がピークに近づく12月13日の夜から観測取材を行った。

観測しやすいと言われていたが…

山梨県、富士河口湖町。

我々が到着したのは午後5時前。天候は晴れの予報だったが、空を見上げると、厚い雲が垂れ込めていた。

厚い雲に覆われて星がほぼ見えなかった
厚い雲に覆われて星がほぼ見えなかった
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凍えるような寒さの中、不安とともに、夜が更けていった。

待つこと2時間あまり…覆われていた雲が徐々に消え、ついに夜空に輝く星たちが顔を出し始めた。

徐々に雲が消え、星空が見え始めた
徐々に雲が消え、星空が見え始めた

目では見えない世界を捉える

空を見上げると、輝いて見えていた星々だか、映像に収めるとなるとそう簡単にはいかない。

普段、我々が業務で使用しているENGカメラと呼ばれる放送用のテレビカメラは今回のような星を撮影することには向いていない。

夜空に輝く一筋の光を捉えたい、肉眼では見ることのできない世界観を表現するために我々は5台の高感度カメラを使用した。

流星のリアルタイム動画の撮影、写真では表現できない星が流れる様子などを動画撮影することに“全集中”した。

今回取材で使用した高感度カメラ(SONY α7sⅡ、SONY α7sⅢ)は、ほんの少しの光でも増幅し、人の目には見えない世界を表現できるカメラだ。

他にも用途はたくさんあるが、特にSONY α7sⅢについては、夜間の使用は初めてに近かったが、星々の煌めきと暗い空に輝く一筋の光を美しく撮影することができた。

”過去”を撮影する

いつ星が流れるか予測できない流星撮影、当然、流れ星が見えてからでは間に合わない。

通常であれば撮影したものを収録し続けるが、複数台のカメラを使うため膨大なデータ量になってしまい、映像データを本社に送りきれない。本社に送られた膨大な映像の中から流星の部分を取り出すのは至難の業だ。時間もかかり、ニュースの時間に間に合わない可能性もある。

今回は「過去を撮影する」機能とも言えるキャッシュレック機能を使用した。

キャッシュレック機能とは、録画ボタンを押す前の映像を内蔵メモリーに蓄積することで、録画数十秒前の映像までさかのぼって収録することができるというもの。

流れ星が見えてから録画ボタンを押したとしても、流れる前からの映像が収録されている。撮り逃すことの出来ない一瞬を撮影する取材などでも効果を発揮できそうだ。

今回は高感度カメラとキャッシュレック機能を駆使し、曇り空から晴れ間が見えたその一瞬の一筋の光を撮影できた。

午後6時から深夜0時過ぎまでの間、晴れ間が見えたのはおよそ2時間半程度だったが、そのなかで約40個の流星を撮影することができた。

新しい技術を駆使しての撮影となったが、技術のハード面だけでは今回の撮影は成功していない。最新技術に熱意と努力が組み合わさった結果だったと言えよう。

撮影に使用したカメラ:
SONY α7sⅡ タイムラプス撮影
SONY α7sⅢ 星の動画撮影
SONY XDCAM(録画機として)
動画撮影データ 
絞り f2 
シャッター速度1/8秒程 
感度 ISO 50000〜250000程

取材後記1

誰しも一度は宇宙にロマンを感じたことがあるのではないだろうか。
星を観ていると吸い込まれそうになる。星には不思議な力が働いているのかもしれない。

プライベートで何度か星の写真を撮影しに行った事はあるが、今回流れ星の撮影は初めてだ。リアルタイム動画の撮影となるとなおさらだ。

撮影はモニター画面との睨めっこから始まった。

モニター画面に映るものがカメラに記録されるもの全てだからだ。流れ星が肉眼で見えても、カメラのフレームに入っていなければ意味がない。ひたすらモニター画面を凝視する。肉眼で見たい気持ちを抑えるのに必死だった。

冬の撮影は寒さとの戦いでもある。じっとしている分、完全防寒をしていても身体が冷えて来る。特に指先の感覚がなくなっていくのがわかる。時折吹く寒風に耐えながら星が流れるその一瞬を待った。

レンズ越しに見る世界はとても狭い。流星観測の基本である空全体を見るということとは相反しているのだ。

それだけに流れ星がモニター画面に映し出された時の感動はひとしおだ。思わず「おー!」と声が出てしまい、一気に寒さも吹っ飛んだ。

寒さに加え、マスクで眼鏡を曇らせながらの撮影となったが、流星撮影の大変さと楽しさを再確認する取材となった。

取材撮影部 撮影 岸下怜史

取材後記2

中村龍美 カメラマン
中村龍美 カメラマン

今回のふたご座流星群取材を企画立案したが、本当は取材前日まで悩んでいた。なぜなら、星の撮影、特に流れ星の撮影はあらゆる点で最高難易度といえるからだ。

人員も時間も必要な取材になり、撮れなかった時のことを考えると悩んでしまう。「撮れたら天国、撮れなきゃ地獄」である。

天気予報で晴れと予報されていても雲一つ、薄曇りであっても星は見えない。まさに「星」取材は「水もの」の頂点ともいえる。だからこそ撮れた時の達成感や感動、成果が高いのだが極めて難しい撮影である意味覚悟が必要となる。

快晴を信じて出発したが、到着すると曇り空、天候回復を願い合計5台の高感度カメラで四方を撮影できるように配置、凍えるような寒さの中、天気予報サイトを確認しながら待ち続けた。

雲の切れ目から星が顔を出し快晴となった。数時間ではあったが、撮影できた流星と満天の星空は寒さを忘れるほどの美しさだった。

いくつか流星が、緑の「短痕」と呼ばれる「尾」のような光跡の流れている様子も撮影できた。「これだから撮影の仕事は面白くてやめられない」とあらためて思った。

1年の中で空の透明度が高い冬はひときわ星が輝くという。

「星に願いを」 。一度は耳にしたことがある言葉がある。流れ星に抱いた望みを叶えられるという。

暗い空に輝く一筋の光り、冬の空を流れ星が華やかに彩りきらめいた…

取材を終え自宅の帰り道、見上げた夜空は明るくいくつか微かに星が見える程だった。

流星取材で星に願いをかけながら撮影しようと思っていたが、色々なプレッシャーと撮影に没頭して忘れてしまった。

また来年、その時こそ「願い」をと心に決めた。

取材撮影部 企画立案・撮影・編集 中村龍美

撮影中継取材部
撮影中継取材部