子ども時代の虐待やいじめなどのつらい体験と、将来「子どもを持ちたくない」という意向との関連を、東京科学大学の研究チームが発表した。
子どもを持つかどうかについて意向が明確な若者では、こうした体験の数が多いほど、「持ちたくない」と考える割合が高かったという。
18~29歳の子どものいない約4000人を分析
研究を行ったのは、東京科学大学医歯学総合研究科の藤原武男教授、宇賀神千春大学院生らのチーム。
2023年9月から11月にかけて実施された全国規模のインターネット調査「JACSIS 2023」のデータを使い、18~29歳の子どものいない4222人を対象に分析した。
調べたのは、子ども時代の「逆境体験」と、将来子どもを持つことへの意向との関連だ。
逆境体験とは、虐待やネグレクト(養育放棄)、家庭内の問題、いじめなど、子ども時代に経験する有害で苦痛を伴う出来事を指し、「ACEs(Adverse Childhood Experiences)」と呼ばれる。
研究チームによると、こうした体験は、大人になってからの心の健康や対人関係、子育てへの自信などと関連することが知られている。
一方、子どもを持つ意向との関連については、海外の先行研究でも結果が一致しておらず、日本の子どものいない若者を対象とした研究も限られていたという。
「逆境体験」の数が多いほど「子どもを持ちたくない」
分析対象の4222人のうち、「子どもを持ちたい」と答えた人は47.8%、「子どもを持ちたくない」は23.0%だった。
「将来子どもを持ちたいか分からない」と答えた人も29.2%いた。
研究チームは、このうち「持ちたい」「持ちたくない」のいずれかを選んだ2989人について、逆境体験の数との関連を分析した。
その結果、逆境体験の数が多いほど、「子どもを持ちたくない」と考える割合が高かった。
年齢や性別、両親の学歴の違いを調整した解析でも、逆境体験が3つ以上あった人は、体験のなかった人と比べて「持ちたくない」と考える割合が1.74倍だった。
一方、逆境体験の数と、「将来子どもを持ちたいか分からない」という回答との間には、明確な関連は認められなかった。
関連の仕組みは今後の課題
研究チームは、子ども時代の逆境体験と、子どもを持つ意向との時間的な関係や、両者の関連にどのような心理的・社会的要因が関わっているのかについて、今後明らかにすることが重要だとしている。
また、体験の種類や時期、文化的な背景が異なるかによって、関連が変わるのかどうか検討も必要だとしている。
子どもを持つかどうかは「個人の自由な選択」
研究チームは、子どもを持つかどうかは個人の自由な選択であり、今回の結果は、特定の意向を変えるべきだという意味ではないとしている。

そのうえで、子どもを持つことへの意向には、現在の経済状況やパートナーとの関係だけでなく、子ども時代の環境や体験も関連している可能性があると説明している。
本人の意向を理解する際には、こうした背景も踏まえることの重要性が示唆されるという。
支援にあたっても、本人の価値観や選択を尊重するとともに、本人が希望する場合には、それぞれの困りごとやニーズに応じた支援を受けられるようにするなど、個人の背景に配慮した視点が重要だとしている。

