空前のメガヒットとなっている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。

総動員数2千万人、興行収入は300億円に迫る勢いで既に歴代3位となっている。

一方で鬼の首を斬るなどの残酷なシーンに、子どもに観せるのを躊躇する保護者も多い。「鬼滅の刃」の映画倫理機構(以下映倫)による審査区分(レイティング)は『PG12(ピージーじゅうに』。この映画に対して保護者は子どもとどう向き合うべきなのか、映倫の年少者映画審議会委員でもある鈴木款解説委員が解説する。

映倫の4つのレイティングはどう違う?

「子どもがまだ小学校低学年なので、当初は『鬼滅の刃』を観せないようにしていました。でも学校の友達が皆観ていて可愛そうなので、とうとう連れて行ったんです。その後はグッズが欲しいとせがまれるようになりましたけど(苦笑)」

「残酷なシーンが多いと聞いています。PGなので親がついていったほうがいいですよね」

筆者は映倫で審議会委員をやっているためか、「鬼滅の刃」について保護者からよくこんな相談を受ける。

ではそもそも映倫のレイティングとは何なのか?

映倫は1956年、映画界が「表現の自由を護り青少年の健全な育成のために」自主的に設立した第三者機関が母体だ。現在映倫は日本で劇場公開されている映画の大半を、上映前に審査している。具体的にはその映画が法や倫理に反したり、特に未成年者に問題を生じさせるおそれがあるかどうかを、社会理念や倫理に基づいて4つのレイティングに指定するのだ。

PG12は保護者が同行しないといけない?

4つのうちG(General Audience)区分は、年齢にかかわらず誰でも鑑賞することができるものだ。保護者が安心して子どもに観せることができる映画といえ、子ども向け漫画やアニメはだいたいGに指定される。

PG12(Parental Guidance)区分は、「小学生には保護者の助言や指導が必要」なもので、今回「鬼滅の刃」が区分されたのはPG12だ。

ほかR15+(Restricted)は「15歳未満は観覧禁止」、R18+は「18歳未満は観覧禁止」となっている。かつて映倫のレイティングは、18歳未満観覧禁止かどうか(いわゆる「成人映画」かどうか)の2区分だったが、その後社会の価値観の多様化にともない現在の区分となった。

映倫の4つのレイティング
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PG12が生まれたのは1998年だった。当時ホラー映画が全盛で観ていた子どもがひきつけを起こすなど社会問題となり、欧米がPG格付けをつくったのを受け映倫も導入した。

当初PG12は「保護者が同伴すれば小学生も観覧できる」だったが、2009年に変更され現在の定義になった。しかしいまでも保護者の中には「PG12の映画は保護者がついて行かないといけない」と思っている人も多い。

「鬼滅の刃」は小さな子どもに不向きな映画?

PG12の定義をさらに細かくみると、「刺激的で小学生の観覧には不適切な内容も一部含まれている」とされている。

さらに映倫は「一般的に幼児・小学校低学年の観覧には不向き」で、「高学年でも成長過程、知識、成熟度には個人差がみられるので、保護者の助言・指導に期待する」と説明している。

つまり「鬼滅の刃」は映倫としては幼児や小学校低学年には不向きと判断しているということだ。

では「鬼滅の刃」はアニメながらなぜGではなくPG12となったのか。

映倫は「鬼滅の刃」をPG12に指定した理由を、「簡潔な刀剣による殺傷・出血の描写がみられる」としている。

映倫の石川知春専務理事・事務局長に話を聞くと、「個別の作品でどこをどう審査したかはお伝えできないのです」としながら、一般論としてこう語ってくれた。

「例えば未成年の飲酒や喫煙、麻薬シーンがある映画はPG12以上の区分となることがあります。殺人や暴力、性愛シーンの場合は、行為そのものより描写や表現の程度で区分けしますね」

映倫の石川知春専務理事・事務局長

描写や表現方法で変わるレイティング

「鬼滅の刃」では首が斬られるなど残酷なシーンが多いが、PG12になったのはどのような描写や表現が理由だったのか。石川さんは「あくまで一般論ですが」と苦笑しながらこう答えた。

「殺人や暴力の場合には直接描写だとR以上になりがちですが、映像の刺激性が緩和されるとPG12にもなります。緩和する手法としてはたとえば白黒を反転しているとか、アップでは無くルーズ(引き)の映像にしているとか、流血の量を減らすなどが考えられます。また描写の頻度、回数も区分には影響しますね」

実写の場合はアニメより刺激性が強いので、同じような描写でもR以上になるそうだ。

「鬼滅の刃」には見られなかったが、性愛シーンについてはどうなのか。

石川さんは「裸体や簡潔な性愛描写はPG12」だという。

「性愛描写については直接的な描写でなければPG12です。腰が動くなどの行為が見られるとR以上になります」

「パラサイト」も「鬼滅の刃」と同じPG12

今年アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』はPG12だ。

『パラサイト』をPG12にした理由を映倫は「刀剣による簡潔な殺傷・出血並びに性的描写がみられるが、保護者の助言・指導があれば小学生も観覧できる」としている。

アカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト』のポン・ジュノ監督

また『JAWS/ジョーズ』もリバイバル公開した際にはPG12になったが、「人食いザメによる簡潔な肉体損壊の描写がみられる」が、これも保護者の助言・指導があれば小学生も観覧可能だ。

いずれも「簡潔な」という言葉が使われているが、映倫では「『簡潔な』というのはPG12の指定理由の枕詞のようなもので、R15+では『刺激の強い』、R18+では『極めて刺激の強い』という言い方に統一している」(石川さん)そうだ。

また石川さんによると「こうした審査判断は数値化できないので、審査員の話し合いの中で決められます。申請者(映画会社)が下の区分を希望した場合は、該当部分について申請者と話し合い、修正した上で区分を決定します」とのことだ。

子どもに映画を教育的に観せるには?

実はかつての映画界には「教育映画」というジャンルが存在した。戦後の混乱期に子どもたちの娯楽と教養のために、まさに国を挙げて童話、文化、漫画映画の製作を行ったのだ。

「まだテレビが普及していなかった頃、文部省(当時)が映画会社に補助金を出して学校教育の教材として映画をつくっていました。いまも東映株式会社には教育映像部があって、社会教育映画をつくっています」(映倫年少者映画審議会・平山達郎委員)

しかし時代が変わり、ゲームや動画配信など子どもの周りには保護者の目が届かない、「青少年の健全な育成」に資するか不明な映像が溢れているのが現状だ。

PG12の映画をみても「Gに近いものからRに近いものまで幅広い」(石川さん)ため、保護者は子どもに観せていいのかどうか判断に迷うものがある。

そもそもPG12は刺激の強い映像に弱い子どもを守るためのものだ。

保護者は心配なら観せないという判断もある。もしそれでも観せると決めた場合には、子どもが観る前に『残酷なシーンがあるよ』と伝えたり、観た後には子どもから映画の感想を聞いたり、刺激を受けた子どもには『本当はこんなことはないんだよ』と伝えることが大切だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】