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髪や肌に潤いをもたらすことから、美容分野で社会実装を進めているアイシンの微細水粒子技術「Hydraid(以下ハイドレイド)」が、食品分野の取り組みで成果につながっている。
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静岡県焼津市の老舗、長峰製茶とのコラボで乳酸発酵茶の発酵工程にハイドレイドを導入した試みだ。商品化が実現され評判は上々で、さらにお茶業界が抱える市場縮小などの課題や、耕作放棄地の活用や地域活性化といった、社会課題解決への貢献も期待されている。 ![]()
アイシン・ハイドレイド事業推進部の井上慎介が、長峰製茶の多々良高行代表と生産者である池田園の池田佳正園主を現地に訪ねた。
お茶業界の課題に光を灯した乳酸発酵茶
日本人の「お茶離れ」が叫ばれて久しいが、アイシンと静岡県焼津市にある長峰製茶の取り組みが、新たな市場創出はもとより、社会課題解決への貢献でも期待を集めている。長峰製茶は明治9年創業の老舗お茶問屋で、農林水産大臣賞をはじめ品評会で数々の受賞歴を誇っている。
長峰製茶の多々良代表は、日本人のお茶離れの一方で海外では抹茶の需要が非常に高まっており、「私ども長峰製茶にも問い合わせや注文が世界各地から増えており、現在の状況は一過性のものではないように感じています」と話す。そのことは、同社としてビジネス的には歓迎されることかもしれないが、150年にわたり日本人にお茶を届けてきた老舗にとって、現状への課題感は決して小さくない。
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こうした日本人の茶離れによる国内お茶市場縮小の危機に、静岡県内では日本茶の原点に立ち返り、各地に伝承されている晩茶を育てる晩茶研究会を有志らが設立。晩茶の良さを広く人々に知ってもらい、日本茶再興を目指す活動を行っており、多々良代表や長峰製茶の茶葉の生産者である池田園の池田佳正園主も参加している。![]()
その活動の中で偶然発見された茶葉の発酵方法が、現在、お茶に新たな価値を生み出し、茶業界の課題への対応にも貢献が期待されている。それが、蒸した茶葉を真空パックで保存する方法で、「乳酸発酵した池田園の地元袋井市の『菩提酸茶』には、さわやかな柑橘系の香りとすっきりとした酸味が生み出されるのです」(多々良代表)。
しかも、池田園主によれば、菩提酸茶に向くのは、耕作放棄地のような痩せた畑で育った香り立つ茶葉だという。これにより、放棄された耕作地の再生や、雇用増、さらに商品の魅力・価値向上による地域活性化への貢献が期待されている。農林水産省によれば、日本のお茶の作付面積は2015年の約4万4千haから2025年は約3万3千haまで減少しており、耕作放棄地の活用は大きな課題。実際、静岡県内では牧之原市で官民連携による茶畑再生事業なども推進されており、菩提酸茶による新たなお茶の価値創造は、業界の将来性や他分野への展開という点でも注目される。
大学との共同研究が新領域を開拓
多々良代表や池田園主による蒸した茶葉の真空状態での保存による乳酸発酵は菩提酸茶の価値を高め、独自の製法により特許も取得。商品化にも取り組み、試行錯誤を重ねた結果、「菩提酸茶」をベースにノンアルコール飲料「bodhi(ボーディー)」を開発。「2020年に静岡県で開催された世界緑茶コンテストで特別賞を受賞し、さらに研究を進めて品質向上に取り組むことにしました」(多々良代表)。
一方、そのころアイシンでは美容院などに実装を進めていたハイドレイドについて、新領域探索担当を設けさらなる活用分野の拡大に取り組んでいた。その一つが食品分野で、野菜にハイドレイドを照射して効果を調べるという、静岡大学農学部の一家崇志教授との共同研究だった。その中で、一家教授はお茶の発酵工程にハイドレイドを活用した際にどのような効果が得られるか調べたいと考え、乳酸菌発酵茶の生産者を探すことになった。
乳酸菌発酵茶の生産者は限られていたことから、長峰製茶が作っていることを知る関係者が両者をつなぐこととなった。「詳しい話を聞くため静岡大学に行きました。そこで教授にお会いし、オンラインミーティングでアイシンの担当者とも話をして、ハイドレイドによる茶葉の発酵にチャレンジしようということになったのです」と多々良代表は振り返る。
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両者による共同研究は、茶葉にハイドレイドを照射する装置をアイシンが試作し、菩提酸茶の作り方を長峰製茶側が伝授することで、照射有り無しの2パターンで作成することからスタート。それを長峰製茶側に送り確認してもらうという段取りとした。
こうして最初に送られてきた菩提酸茶は、試飲した多々良代表と池田園主が顔を見合わせるほどのインパクトを持っていた。そのときの衝撃を池田園主は「まず、ハイドレイド照射したほうが、明らかに酸味が強くなっているのに驚きました。そしてもう一つ驚かされたのが、冬場の堅い茶葉をお送りしたにもかかわらず、ハイドレイドの照射により、短期間でここまで発酵していることでした」と力を込める。
試行錯誤を重ね理想の発酵法を追求
一方、アイシンの井上は、これまでハイドレイドの研究は人への効果が中心で、それ以外は野菜の日持ちに影響するかといった研究室レベルだったと話す。このため、結果が良好でも他の方法に比べて優れているのか判断しかねるところがあったという。「それがお茶のプロの比較で風味に明らかに差が出ており、しかもそこに価値を認めてもらえたことは、私たちにとっても非常に大きな前進でした」と、そのときの喜びを語る。
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その後も試作は繰り返され、そのたびにはっきり違いが出たと多々良代表と池田園主は口をそろえる。しかも、二人をこの共同研究にのめり込ませたのが、毎回変わっていく風味の方向性だった。「もともと菩提酸茶というのは伝統的な発酵をベースとしており、いわゆる乳酸発酵茶ですから風味にクセが強いものが多いのです。しかし私たちは、乳酸発酵茶でありながらクセがなく、クリアですっきりした香りや味わいを目指していました。ハイドレイド照射によって生まれた菩提酸茶は、まさにその狙いにピッタリ一致していたのです」(多々良代表)。
長峰製茶からの報告を受けたアイシン側では、何故そうした変化が菩提酸茶に起きているのかを明らかにするための仮説立案と検証を繰り返し、最も効果差の大きいポイントがどこか解明を試みていたという。そうした中では、担当者が長峰製茶側との間を何度も行き来して共同研究を進展させており、池田園主は「茶葉についてもっと詳しく調べたいという話になり、ご担当が自宅ベランダで茶葉を乾燥してみることもありました」と笑みがこぼれる。
井上も、美容分野以外でもハイドレイドの新たな可能性が見えたことと、長峰製茶側が目指す方向性に見事に合致していたことに大きな手ごたえを感じていた。こうして2021年から3年かけて照射に使うハイドレイドの数や照射時間、照射する茶葉の状態・量、その前段階の蒸し工程の最適化などにより、現在の工程を構築してきた。
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茶葉と向き合い続ける発酵までの工程
ここで、現在行われている菩提酸茶の興味深い発酵までの工程を紹介しよう。茶葉はまず「送帯式蒸機」で下から蒸気をあてて茶葉を蒸し、柔らかくするとともに青臭さを取り除いていく。この時点で茶葉に乳酸菌が含まれることがわかっているが、それがもともと茶葉にあったものか、空気中から入ったものかは解明されていないという。
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蒸された茶葉は、ハイドレイドの照射に先立ち、少し発酵している茶葉としていない茶葉を混ぜ合わせる。その際には、茶葉をミキサーで細かくした懸濁液(けんだくえき)を加えており、約30分かけて丁寧にかき混ぜて馴染ませていく。このように発酵している茶葉としていない茶葉を混ぜ合わせていくと、乳酸菌の増
加が加速されるということだ。
全体が馴染んだ茶葉は、ハイドレイドを照射して発酵させるため、アイシンが推奨する重さになるよう計量しながら、ケースに小分けしていく。
その後、内部の両脇に4つずつハイドレイドのデバイスがセットされた装置に茶葉を入れ、8時間照射して乳酸菌による発酵が行われるのである。
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お茶が広げたハイドレイドの可能性
このハイドレイド照射による発酵茶葉から生み出されたBodhiは、ハイドレイドに出会う前からつくっていたが、多々良代表は「まだ伝統的な晩茶に近いクセのある風味が残っており、それがハイドレイド照射してからは、ドライフルーツのような香りが安定して出せるようになりました」と話す。いわば、ハイドレイドとお茶の伝統技術の融合により、新たな価値が創出されているのだ。
その差をいちばん感じていたのは、長峰製茶の茶葉の生産者であり、多々良代表と一緒に真空発酵法を生み出した池田園主だ。「いい香りというのは、鼻にフッと入ってスッと抜けていくんです。従来のハイドレイド照射していないBodhiは、鼻に入った香りがスッと抜けていく感覚になっていませんでした。その差をものすごく感じています」と力を込める。
一方、お茶のプロではないアイシン側では、最初は担当者たちも香りの差があまり実感できなかった。それが試作の3回目くらいになると担当者から「酸味が変わりました」という報告が上がるようになり、井上は「その後どんどん風味が洗練されていくのが、自分にもわかりました。香りがいいし飲んでおいしいので、ハイドレイドが食品にも大きな可能性があることを証明していただいた実感が、次第に強くなっていきました」と話す。
これからもさらなる価値向上を目指して
現在までの共同研究とその成果を振り返り、多々良代表はお茶を取り巻く現在の課題解決への貢献に期待を持っていると話す。発酵食品の文化やお茶の文化は世界各地にあり、現在の海外の日本茶人気は抹茶が牽引しているが、発酵茶でこれだけフルーティーな香りとさわやかな酸味が楽しめれば、日本茶が世界にもう一度出ていくきっかけになるのではないかと思えるからだ。「現に、ハイドレイドを照射した菩提酸茶はすでに海外へ輸出しており、お茶を扱う企業以外の様々なジャンルからも引き合いが増えています」と表情が緩む。
池田園主は、生産者として菩提酸茶に使う品種を広げていく挑戦に意欲的だ。すでに香駿(こうしゅん)という、ジャスミンのような甘く華やかな香りが特徴の静岡産品種で好結果が出たので、ほかの品種で香りや味がどう変わるのか苗を植え始めていると話す。「さらに、量産化も茶業界では課題になっていますが、実は菩提酸茶には耕作放棄地のような痩せた畑で育った茶葉のほうが香り豊かに仕上がり、今日ご案内した茶畑も耕作放棄地を再生し、農薬も肥料も一切やらない自然栽培です。そうしたことから、放棄耕作地の課題解決にも貢献し、地域活性化につなげることも期待できると考えています。そのためにもハイドレイド照射の成果をもっと多くの人に知っていただき、需要を増やしていきたいです」。
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井上は今後の展望は二つあると話し、一つは伝統的な製茶の手法にハイドレイドの技術を組み合わせることで新しい価値を創造したことが非常に大きいとして、「今後は発酵精度を高め、お茶業界の価値向上に貢献すると共に、現代のお茶文化を次の時代に残していくことにも貢献していきたい」と話す。
さらに、ハイドレイドは空気中の水蒸気を使うという、世界中のどこでも使え、しかも安全な技術であり、今回、美容以外の分野で価値が確認できたことは非常に重要で、「肌や髪に対する外からのアプローチに加え、体の内側から健康や美を育むインナーケアの可能性が見えてきました。今後も様々な領域に広げられるよう、さらに研究を進めていきたい」と、ハイドレイド活用の次なる進化を見据えている。
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アイシン公式ホームページ:https://www.aisin.com/jp/product/mobility/new-other/
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