ストレスや不眠、更年期障害など、さまざまな不調に処方される「漢方」。症状がある場所だけでなく、体全体の状態から原因を探るのが特徴だ。広島県内では数少ない、呉市の病院に新設された「漢方診療科」の現場を取材した。
県内でも少ない“漢方専門”の診療科
9月19日、呉市の呉共済病院で「病院まつり」が開かれた。
地域の人々が訪れ、子どもたちも胃カメラの操作や電気メスの使い方を体験。ロボット手術のシステム「ダビンチ」の操作方法を見学するなど、普段は目にする機会の少ない医療機器や手術室に関心を寄せていた。
最先端の医療に触れ、楽しみながら病院への理解を深める子どもたち。一方、会場の一角では、大人たちが足を止め、医師に体の悩みを相談する姿があった。
「肩こり以外に頭痛はない?」
「めまいがする」
「それは天気が悪い時?」
相談に応じていたのは、2026年4月、呉共済病院に新設された“漢方診療科”の河原章浩医師だ。漢方医学を専門とし、広島大学病院から常勤の漢方専門医として派遣されている。
原因がはっきりしない不調や、複数の症状を抱える患者にとって、漢方は治療の選択肢の一つとなる。しかし、漢方を専門として診療を行う病院は、広島県内ではほとんどない。
痛む場所だけでなく“全身を診る”
地域の病院で、漢方の力を生かした診療に取り組む河原医師。
この日、診察に訪れたのは50代の女性だ。腰の痛みや足のしびれがあり、普段は整形外科に通っているが、院内の紹介で漢方診療科も受診している。
「日常生活は問題ない?」
「歩くのに足を引きずっている」
「ひどくなった?」
河原医師が診るのは、痛みのある場所だけではない。舌の状態を確かめ、脈に触れ、さらに診察台で横になった女性のおなかを触診する。
「痛い?ここを押したらどんな感じがする?」
腰や足が痛いのに、なぜおなかまで診るのか。
河原医師は「例えば頭痛でおなかを触ったりすると『関係ないでしょ』と思われるかもしれないが、それが病態に関係したりする。めぐりが悪いかどうかが分かる。漢方では舌診と脈の状態で全身の状態を把握します」と説明する。
症状だけでなく、体全体を診るーーそれが漢方診療の特徴だ。患者一人ひとりの体質や状態に合わせて薬を選び、変化を見ながら調整していく。
女性は「先生が『薬を変えてみようか』とかいろいろしてくれるので、それを聞くと安心感もあります。今は頼りっきりという感じです」と話す。
114項目の問診で生活習慣も確認
患者の全身の状態を知るために欠かせないのが「漢方医学科の問診」だ。便通や食欲など、質問は全部で114項目に及ぶ。
河原医師は「漢方は聞く内容がすごく多い。患者さんによっては書くのが大変だと言われますが、外来で来られた症状と直接関係がなさそうな点でも、実は遠くで何か原因になっていたりするので、たくさん質問が書いてある問診表を使用します」と話す。
不調の要因を探るカギは「日々の暮らし」。何を食べ、どう過ごしているのか。毎日の習慣が体の状態を知る手がかりになる。
内臓での栄養の吸収が悪い80代男性が、家族に付き添われてやってきた。
「冷たいものをよく飲むと言っていたでしょう?」
河原医師が尋ねると、男性は「サイダーとカルピスとコーラ」と答えた。1日に3本以上飲むこともあるという。河原医師は、体を温める漢方を処方する一方、冷たい飲み物を控えるよう助言。「3本は飲みすぎだから1本ぐらいにしたら?」と生活習慣の見直しを促す。
男性は「医者にかかっても体温がすごく低かった。35.5度とか。漢方を飲みだして36.5度まで上がった。『漢方でこんなに効くんだ』と思って、今は真面目に飲んでいます」と話す。
妻も「食べたらすぐベッドで寝るという感じだったけど、起きて少し歩いたりするようになりました」と、変化を感じている。
西洋医学と漢方の両方の視点を生かす
ただし、すべての不調が漢方で改善するわけではない。痛みやだるさの陰に別の病気が隠れていないか、必要に応じて採血やCTなどの検査も行う。
河原医師は「すべてが漢方で治せるというわけではない。西洋医学よりも漢方が優れている病態もあるし、西洋医学と一緒に漢方を使うとなお良いという病態もある」と説明する。例えば、抗がん剤の副作用に漢方薬を使うことで、口内炎や吐き気の改善が期待できる場合もあるという。
漢方だけでも、西洋医学だけでもなく、両方の視点を生かして治療を考える。そこに漢方診療科の強みがある。
河原医師は「痛みや冷えが常にある状態はつらいこと。少しでも日常生活がより良いものになればいいかなと思っています。専門の医師がみると、意外に治せる病態もあるので、一度相談してほしい」と呼びかける。
広島県内ではまだ数が少ない漢方診療科。患者の「もう少しよくなりたい」という思いに応えるため、漢方専門医の力を生かす動きが始まっている。
(テレビ新広島)

