人気アニメ『はたらく細胞』。赤血球と白血球が主人公となり、さまざまな免疫細胞が体内でウイルスや病原体と戦う様子を描いた作品だ。そのキャラクターを生かしたゲームソフトを、広島大学病院の医師が考案した。

ゲーム好き医師が“VRゲーム”考案

4月7日、広島大学病院で開かれた記者会見。小児外科の佐伯勇医師はこう語った。
「子どもたちにプレーしてもらって、がんをやっつける体験をしてほしい」

広島大学病院・佐伯勇 医師
広島大学病院・佐伯勇 医師
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発表されたのは、小児がん患者向けに開発された「治療支援用VRソフト」の完成。人気漫画『はたらく細胞』のキャラクターを使い、制作は地元企業ビーライズに依頼した。VR(仮想現実)の世界で、クイズ形式で体の仕組みを学びながら、がん細胞や細菌と戦うゲーム。まるでアニメの主人公になったかのような気分が味わえる。

『はたらく細胞』の治療支援用VRソフト
『はたらく細胞』の治療支援用VRソフト

この企画を立ち上げ、ストーリーも自ら作成したのが佐伯医師だ。小児外科医として治療にあたる一方、プライベートでは大のゲーム好きでもある。その“好き”は、以前から医療現場にも生かされてきた。

医師が患者診察を練習するVRソフト(2023年取材)
医師が患者診察を練習するVRソフト(2023年取材)

「体重の変化はありましたか?」
「最近は変わっていません」
ゴーグルを装着した医師が、VR空間で患者と向き合う。これは診察のやり取りを想定したシミュレーションソフト。コロナ禍だった2021年、人との接触が制限される中で、医師の育成に役立てるために佐伯医師が考案した。
この経験が、のちに小児がん患者支援ソフトの開発につながっていく。

過酷な治療に耐える子どもたち

中国・四国地方で唯一の小児がん拠点病院である広島大学病院。ここでは多くの子どもたちが治療を受けている。

広島大学病院は中国・四国地方で唯一の小児がん拠点病院
広島大学病院は中国・四国地方で唯一の小児がん拠点病院

小児がんは15歳未満で発症するがんで、白血病や脳腫瘍など種類はさまざま。国内では毎年2000人以上が新たに診断されている。

佐伯医師は以前、こう語っていた。
「治療が大人より厳しいの一言に尽きます。子どものがんは、この時点で完全にやっつけてしまわないともう次がない。抗がん剤の量もスパン(期間)も、成人よりずっときつい。そうした苦しい治療に耐えなくてはなりません」

長期の入院生活。学校に通えず、院内学級で学ぶ日々。体の負担だけでなく、心のケアも大きな課題となっている。子どもたちを励ましたい――その思いから、佐伯医師はVRゲームの開発を企画。2023年、寄付を呼びかけた。
「このプロジェクトで、がんの子どもたちに笑顔を届けていける、そんな未来があればいいなと思っています」
すると、132件・1510万円もの善意が集まった。

VR制作に協力した声優陣のサイン色紙
VR制作に協力した声優陣のサイン色紙

さらにテレビアニメの声優陣も協力し、聞きなじみのある声が導く本格的なゲームが完成した。

小児がんと闘った子どもたちが体験

完成したゲームを、子どもたちが初めて体験した日。
「はたらく細胞じゃん!」
「そう、はたらく細胞のゲームです」
「やったぁ!」

骨肉腫と闘って2025年に退院した篤人くん(8)
骨肉腫と闘って2025年に退院した篤人くん(8)

わくわくしながらゴーグルを装着したのは、小学3年生の篤人くん(8)。足のがん「骨肉腫」と闘い、2025年に退院したが、今も定期的に通院している。

VR空間で、がん細胞が篤人くんに問いかける。
ーー僕はがん細胞だ。がん細胞の特徴として正しいのはどちらかわかるかな?
A:ケガを治すときだけ分裂し、その後はピタッと増えるのをやめる。
B:増えろという合図がなくても勝手に分裂を続け、数をどんどん増やす。

大人でも難しいクイズに、篤人くんは「B」を選択。
「正解!」
「おー、すばらしい」
その場に笑顔が広がる。病院にいることを忘れてしまうようなひとときだった。

「体の中に入っているみたい」

体験を終え、篤人くんはこう話した。
「本当に『はたらく細胞』のアニメみたいに体の中に入っている感じがして、すごかったです」

このゲームでは、抗がん剤の役割についても学ぶことができる。篤人くんの母親は「薬を使うことで元気な細胞をどう補っていくのか、その流れが子どもにもわかりやすく、私たちにとってもわかりやすく説明されているので改めて勉強になりました」と話す。

小児がんと闘い、3年前に退院した壮汰くん(7)
小児がんと闘い、3年前に退院した壮汰くん(7)

この日は、3年前に退院した壮汰くん(7)も体験。佐伯医師は子どもたちの笑顔をじっと見つめていた。
「楽しそうにしてくれている姿がうれしかった。僕が伝えたいことを、無理せず自然に吸収してくれているんじゃないかな。全国の子どもたちにプレーしてもらいたいと思っています」

広島大学病院・佐伯勇 医師
広島大学病院・佐伯勇 医師

今後は、全国15の小児がん拠点病院へこのVRゲームの活用を広げる予定だ。臨床研究も進め、患者の心や体への効果を検証していく。
その先に見据えるのが「デジタルメディシン」という考え方。アメリカではすでに、VRゲームがパニック障害などの治療薬として処方されているという。今回の取り組みは、日本初の「デジタルメディシン」につながるかもしれない。

楽しさの中で、知識を学び、病気と向き合い、乗り越えていく――。がんと闘う子どもたちを笑顔にする研究が始まった。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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