高齢化が進み、病院に通うことが難しい人が増える一方、患者を支える家族や医療・介護に携わる人の負担も大きくなっている。こうした中、新潟県燕市では新潟大学が開発したシステムを使って、自宅や介護施設と医師をつなぐオンライン診療の実証実験が進められている。将来の地域医療を支える、新たな仕組みを取材した。
■燕市で“オンライン診療”実証実験「かなり鮮明に見える」
画面越しに患者の様子を確認する医師。新潟県燕市で始まったオンライン診療の実証実験だ。
この日、オンライン診療を受けたのは病院から車で10分ほどの距離にある自宅で療養する91歳の女性。
訪問看護師がタブレットを使い、診療所にいるかかりつけ医とつないだ。
医師は患者側と会話をしながら、体調や皮膚の状態などを確認する。
対応に当たった水澤内科医院の水澤彰郎医師は「カメラの当て方にもよるが、非常に皮膚の状態とか、かなり鮮明に見られたと思う」と話す。
■メリットは診療の機会増「患者や家族が安心できる」
この患者を医師が直接訪問するのは月に1回。
そこにオンライン診療を週に1度組み合わせることで、患者の状態を確認する機会を増やすことができる。
さらに医師が感じているメリットが患者や家族の安心だ。
「一番大事なのは、患者さんご本人とご家族が安心してくださること。オンライン診療によって、患者さん側も少し安心できる。それは最大のメリットだと思っている」と話す水澤医師。
オンライン診療を受けた患者の家族は「状況が起きたときに、1カ月に1回だと状況が変わってしまっていて、その時の状態が分からないこともある。1週間に1回オンライン診療があると、すぐ伝わる」と話した。
■高齢化で需要増すオンライン診療
オンライン診療というと、へき地や離島での活用を思い浮かべがちだが、今回実証が行われている燕市はそうした地域ではない。
それでも高齢化で通院が難しい人は増えている。
水澤医師は「街なかといえども、交通の移動手段がない方が増えてきているので、交通の便のいいところであっても、これからは必要になってくるんだろうと思う」と推察する。
■家族や介護職員の負担減へ“グループホーム”でも実証
オンライン診療が必要となる場面は自宅だけではない。
燕市内のグループホームでも、システムを使うための練習と実証が行われている。
施設で暮らす人が病院を受診する場合、家族による付き添いが基本だが、家族がいない場合や家族自身も高齢で付き添うことが難しい場合などには施設の職員が同行することになる。
グループホームの職員は「ご家族がいらっしゃらないとか、どうしても介護力が弱いご家庭、高齢世帯とかだとちょっと難しい。そういった場合、職員が介助で一緒に行くが、そういう方がこれからどんどん増えると思う」と話した。
1人の利用者に職員が付き添えば、その間、施設では1人分の人手が減る。
介護を必要とする人が増える一方で、支える側の人手不足も課題となっているため、オンライン診療は患者だけでなく、家族や介護職員の負担を減らす手段としても期待されているのだ。
グループホームの職員は「オンラインでこういう診療ができると、ご家族もきっと安心、気持ち的にすごく楽になると思うし、直接普段見ているのは私たちなので、直接先生とやりとりできるのは非常に安心」と今後への期待を寄せた。
■支える側の人材減「工夫・省力化しないと成り立たなくなる」
ただ、全国的に高齢化が進む一方、今後は医師や看護師、介護職など医療や介護を支える側の人材が加速度的に減少していくことが予想されている。
燕市健康福祉課の本間修さんは「2040年の問題というのは、高齢化だけではなくて、ドクターや看護師、介護職もそうだが、全て支える側の方が非常に少なくなる。ICTを使った中で色々工夫できるところ、省力化できるところはしながらやっていかないと成り立たなくなってくる」と話す。
燕市では、オンライン診療だけですべてを完結させるのではなく、対面診療を基本にしながら、その間をオンラインで補う形を想定している。
■「必要なところに必要な医療を」
こうした地域医療のあり方を検討し、このオンライン診療のシステムを開発したのが新潟大学だ。
プロジェクトメンバーは、実証で見えてきた課題や地域ごとにどのような使い方ができるのか意見を交わしている。
大学が目指しているのは、単にオンライン診療を普及させることではない。
新潟大学の上村顕也教授は「医療者を地域全体で共有して、必要なところに必要な医療を届ける。新潟県内どこに住んでいても、安心して医療を受けられる。今の時代は医療だけではなく、そのあとの介護・福祉につなげていく必要がある」と、オンライン診療は地域医療を支えるための一つの手段だという。
■「点ではなく面で支える」160人の医師がバックアップ
さらに、この仕組みではもう一つ大きなメリットがあるという。
「“点”であった医療というのは患者と医者だったが、そうではなくて、“面で支える”という点のドクターバンクは今のところ160人近くの医師が登録をしている」
必要な時には、新潟大学に登録している160人のドクターがバックアップする。地域にいない専門医からオンラインで助言を受けることも可能だ。
限られた医療人材を地域全体でつなぎ、必要な場所に医療を届ける仕組みを目指している。
■介護現場では“課題”も「通信環境が整わないと難しい」
一方、実際の介護現場では、課題も見えてきた。その一つが、機器の操作だ。
特定の職員だけでなく、利用者の状態をよく知る職員が誰でもシステムを使えるようになることが必要だ。
もう一つは、通信環境。グループホームの職員は「映像はすごくきれいだったが、やっぱり電波の関係なのか、ときどき先生の声が聞こえなくなる場面があったので、環境がうまく整わないと難しいかなと思った」と話す。
誰もが使える環境をどうつくるのか。そして安定した通信環境をどう確保するのか。
実証を重ねながら、高齢化の先にある地域医療をどう支えていくのか。燕市で、その答えを探す実証が続いている。
