桜島の北東わずか1.5キロに浮かぶ小さな島、新島。周囲2.3キロのこの島には今、たった2人しか住んでいない。しかも2026年3月、唯一の公的な移動手段だった行政連絡船が廃止されるという打撃を受けた。それでも島で暮らし続ける夫婦と、島の魅力を発信しようと動き出した人々がいる。この夏、新島で始まった新たな試みに密着した。
一時は無人島に——2人が選んだ島での暮らし
新島はかつて無人島だった。草木が生い茂り、人の気配が消えた島に再び明かりをともしたのが、新島出身の佐々木和子さん(66)と、福岡出身の夫・直行さん(73)の夫婦だ。2人が島に移り住んだのは2019年、今から7年前のことである。
「すごく人間らしい生活ができていいのかもしれない。楽しみです。島に住むのが」と和子さんは語っていた。島の風土に根ざした暮らしを選んだ2人だったが、その生活の根幹を揺るがす出来事が訪れた。
行政連絡船の廃止——1万5000人の署名も届かず
2026年3月、鹿児島市が運航していた行政連絡船が廃止された。桜島の浦之前港と新島を週3日往復していたこの船は、2人にとって生命線だった。廃止の背景には、2022年の北海道知床沖観光船沈没事故に伴う法改正があり、安全運航体制の確保が難しくなったという。継続を求める1万5000人以上の署名が提出されたものの、市の判断が変わることはなかった。

廃止から5カ月が経った8月、浦之前港には行政連絡船がひっそりと停泊したままだった。直行さんは「行政連絡船があったからこそ僕たちは住もうと思った。基本の『き』の字がなくなった。非常に困っています」と表情を曇らせる。

夫婦はもともと船を1隻所有しているが、万が一の際に島を出られなくなることを恐れ、予備の船の購入を検討している。「私が今乗っている船に何か起きたときはもう島から出ることができなくなってしまう」と直行さん。中古船でも約100万円の出費となる見込みだ。
観光客にも影響——海上タクシーは行政連絡船の10倍超
打撃を受けたのは島民だけではない。現在、新島へ渡る主な手段は海上タクシーのみで、運賃は行政連絡船の10倍を超えるという。「定期船だと気軽に乗れて金額も安いので来やすかった。そういう方たちが来られなくなった」と直行さんは嘆く。和子さんも「ここを活用できなくなっている」と島の現状を語る。

島の縁が生んだ8組のカップル——新たな出会いイベント始動
アクセスが制限される中でも、この夏、島の魅力を知ってもらおうと新たなイベントが企画された。参加したのは独身の男女それぞれ4人。雑草を抜き、海岸のゴミを拾いながら汗を流し、自然の中で交流を深めた。
イベントは、「NPO法人 ふるさと再生プロジェクトの会」が主催し、男女の出会いを支援する「かごしま出会いサポートセンター」が参加者を募るなどサポートを行った。佐々木さん夫妻らが立ち上げたNPO法人は、無人島だった時期から島の管理を続けてきた。草刈りなどの活動を通じてこれまでに結婚に至ったカップルはすでに8組にのぼる。
休憩中には、島の活動が縁で結ばれた夫婦の姿もあった。NPO法人ふるさと再生プロジェクトの会の東道也さん(70)は、妻・ひろ子さん(69)との馴れ初めをこう振り返る。「いつも電話で『生きているか』って電話が来て、何度も続くものだから気になって…」。結婚して変わったことを問われたひろ子さんは「秋がさみしくて大嫌いだったんですけど、秋が好きになりました。結婚はこんなにいいものかと思いました」と笑顔を見せた。道也さんも「帰ってきて家に電気がついている。それが一番」と静かに語った。
直行さんは参加者を島の守り神・五社神社へと案内し、参加者たちは新たな縁がつながるよう手を合わせた。
県結婚支援コンシェルジュの多田宏子さんはこのイベントの意義を語る。「室内でするイベントは多い。外で汗をかきながら自然な感じで会話をするイベントが少なかった。自然に話をして、そのうち縁をつないでいくイベントが新島にはできると思う」。

島に住んで良かった——2人が見つけていく答え
島で暮らし始めて8年目を迎えた和子さんは今、こう思っている。「今はこの新島に住んで良かったなと思っています、戻ってきて。形にできることがあれば投入していって、イベントができたらといいなと思う。通う方が多くなって新島を知ってにぎやかになったらうれしい」。
行政連絡船という公的な足を失い、島は確かに孤立の危機にある。それでも佐々木さん夫妻は、島が持つ自然の豊かさと、ここで育まれてきた人と人とのつながりを信じ、できることを一つひとつ積み重ねている。定期船が消えても、新島から人の縁は広がり続けている。

