「父親はなぜ目を覚ますことのないまま亡くなったのか」
「医療事故の被害者も、悲しむ家族も減らしたい」
真相解明と再発防止を願う家族が起こした裁判で司法の判断が下されました。
大阪公立大学医学部附属病院で骨折の手術を受けた後、鎮静剤を大量に打たれ意識不明となりその後死亡した男性の家族が、医療事故の責任と、3年間会見を開かなかった病院の対応の責任を問い起こした裁判。
大阪地方裁判所が男性が意識不明になった医療過誤についての責任を認めおよそ4600万円の賠償を病院側に命じる判決を言い渡しました。
一方、「公表の遅れ」については責任を認めませんでした。
■翌日にも退院のはずの骨折手術で意識不明に…
7年前、大阪公立大学医学部付属病院で手首の骨折手術を受けたあと、意識不明となった男性。
病院からは、“翌日にも退院できる”と説明されていた簡単な手術だったといいます。
しかし、手術後に男性の長男が病室で目にしたのは…
【男性患者の長男】
「『息子さん入ってよろしいよ』って言われて(病室に)入ったときに、親父の酸素マスク越しに喉仏見たら、息吸ってないんちゃうかなって思って」
男性は容体が急変し、一時、心肺が停止していたのです。
異変に気付いた長男が看護師に伝え、一命はとりとめたものの低酸素脳症により、意識不明となりました。
■“普段使われないほど大量”の鎮静剤使用 計測機器との接続忘れ…
病院の医療事故調査報告書などによると、術後、男性がカテーテルを抜こうとするなどしたため医師が鎮静剤を投与。
その量は普段使用しないほど多い量でしたが、看護師に呼吸停止などのリスクが伝えられず経過観察が行われませんでした。
さらに、看護師は心拍数を計測する機械の接続を忘れるなどしたため、男性の心肺停止を知らせるアラームが鳴らなかったのです。
■医師「呼吸が止まりやすいと(看護師に)伝えきれていなかった」
関西テレビが入手した事故から1カ月後の病院と男性の家族とのやり取りの音声には、
ミスを認める医師の発言も録音されていました。
【家族と病院のやり取り音声2020年1月15日※家族提供】
麻酔科医
「(鎮静剤の大量投与で)低酸素脳症のリスクはあります。それに関する認識を、どれぐらい呼吸が止まりやすいとか、そういうことまではっきり(看護師に)伝えきれていなかった」
病院側
「(担当した看護師)3人は謝罪して、退席をさせていただきます」
家族
「何があったかというのを私たち家族がしっかり本人から聞かないとダメなんで」
病院側
「本人(看護師)たちが非常に気持ちも混乱しておりまして…」
家族は、事故について速やかに公表するよう病院に求めてきました。
当時、病院には重大な医療事故について、報道機関などを通じて公表するとした内規がありましたが、病院側は内規について家族に伝えず、ホームページでのみ公表。
家族の再三に渡る要望の末、会見を開いたのは事故から3年も後のことでした。
■3年後に開かれた会見で「遅れ」を謝罪
大阪公立大学医学部付属病院の中村博亮病院長は会見で、「本来でしたら、我々の方からきちんと明示して公表基準があるということをお伝えするべきだったと反省しています」と公表の遅れを謝罪しました。
男性は、家族の看病もむなしく手術から3年半後に、意識を取り戻すことのないまま肺炎で死亡しました。
■「親父みたいな被害者をもう二度と出さないで欲しい」
家族は2024年、病院に対し男性が意識不明の後遺障害をおったほか、公表の遅れにより、家族が精神的苦痛を受けたなどとして約1億4000万円の損害賠償を求めて裁判を起こしました。
【男性患者の長男】
「その方(速やかな公表をした方)が医療事故が減るでしょ、それが一番ですね。
簡単な手術で人の命を奪うような事故がなくなってほしいと思う」
家族の代理人を務める酒井孝浩弁護士によると医療事故の公表をめぐる訴訟は全国でも珍しいといいます。
裁判で病院側は看護師の注意義務違反は認めるも、鎮静剤のリスクを伝えなかった医師の責任については否定。
公表についても、「報道機関を通じたものに限定していない」として違法性を争いました。
判決前日、関西テレビの取材に対し、長男は「お金(賠償金)をもらったからって親父が帰ってくるわけじゃないですし、親父の命の尊さというのか、やっぱり、あの病院にもっとこれからちゃんとやって欲しい。親父みたいな被害者をもう二度と出さないで欲しい」と話しました。
■医療過誤の責任は認められたが「公表」については…
そして迎えたきょう=16日の判決。
大阪地裁は、医療過誤については、看護師が男性のバイタルサインを確認せずに退室し、さらにモニター機器への接続もしなかったことに注意義務違反があるとしました。
一方、鎮静剤大量投与の危険性を看護師に伝えなかった医師については「看護師らの注意義務が尽くされていれば結果の回避が見込まれることを踏まえると、医師の注意義務違反の有無が主たる争点にあたるとは解されたない」としました。
そのうえで、死亡と医療過誤との相当因果関係は認められないなどとして、およそ4600万円の賠償を命じました。
そして、3年会会見を開かなかったことについては「いつ、どういう形で公表するかは公益目的であり、原告のためではない」として違法性を認めませんでした。
閉廷後、長男は「長い6年9ヶ月だった。すっきりしないけど、前をみて生きていこうと思う。始めからお金が目的ではなかったので金額(賠償額)には興味がない。親父の尊厳を守りたかった。裁判報道を通じて医療事故があったことを知ってもらえたのは良かった」と話しました。
