マイページ
アメリカ中間選挙を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」 停戦、ホルムズ海峡、原油価格…再び焦点はイランか|FNNプライムオンライン

アメリカ中間選挙を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」 停戦、ホルムズ海峡、原油価格…再び焦点はイランか

Google ニュース プリファードソース

米共和党が9、10日の両日、テキサス州ダラスで異例の全国党大会を開いた。党大会といえば、通常は4年に一度の大統領選挙で候補者を正式に指名するために開かれるものだ。ところが今回は中間選挙である。「史上初の中間選挙党大会」と銘打った、11月3日の中間選挙へ向けて支持者を鼓舞する一大政治イベントだった。

それならば、大統領選挙につきもののあれも登場するのだろうか。「オクトーバー・サプライズ(October Surprise=10月のビックリ)」である。

選挙の流れを一変させる「オクトーバー・サプライズ」

「オクトーバー・サプライズ」は、投票直前の10月に突然飛び出し、選挙の流れを一変させる事件やニュースを意味する米国政治独特の言葉だ。その語源をたどると、奇しくも現在と同じ「イラン」に行き着く。 

目隠しをされた人質(アメリカ大使館占拠事件・1979年)
目隠しをされた人質(アメリカ大使館占拠事件・1979年)
この記事の画像(6枚)

1980年、民主党のジミー・カーター大統領は再選を目指していたが、前年から続くイランの在テヘラン米大使館人質事件に苦しめられていた。一方、共和党のロナルド・レーガン候補陣営が恐れていたのは、投票直前になってイランが突然米国人人質を解放することだった。それが実現すればカーター氏は外交的勝利を演出し、一気に支持を取り戻すかもしれない。レーガン陣営の選挙対策本部長ウィリアム・ケーシー氏は、そんな選挙直前の一発逆転劇を「オクトーバー・サプライズ」と呼んだとされる。

ところが、その後、話はもっと複雑になった。カーター政権で国家安全保障会議(NSC)のスタッフを務めたゲーリー・シック氏らが、レーガン陣営自身がイラン側と秘密裏に接触し、「人質を大統領選挙が終わるまで解放しないよう働きかけたのではないか」と主張したのである。

人質が解放されたことを明らかにしたレーガン大統領(1981年1月20日)
人質が解放されたことを明らかにしたレーガン大統領(1981年1月20日)

事実人質52人が解放されたのは、カーター氏の任期が切れた1981年1月20日。しかもレーガン氏が大統領に就任した、そのわずか数分後だった。

元イラン大統領アボルハサン・バニサドル氏らも秘密取引があったと主張し、さらに後年、元テキサス州副知事ベン・バーンズ氏も、レーガン氏を支持していたジョン・コナリー元テキサス州知事の中東歴訪に同行し、人質解放を選挙後まで待つようイラン側に伝えてほしいとのメッセージを各国指導者に伝えた、と証言した。ただし、この「秘密取引説」は米議会の調査では裏付けられなかった。それでも「オクトーバー・サプライズ」という言葉だけは、その後の米国政治にしっかりと定着した。

イランが中間選挙の“キングメーカー”に?

では、今年は何が飛び出すのだろうか。再び「イラン」ではないかとの見方がすでに出ている。

アメリカン・エンタープライズ研究所のHPより
アメリカン・エンタープライズ研究所のHPより

保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は6月22日、「Trump Must Expect an Iranian October Surprise(トランプはイランの『オクトーバー・サプライズ』に備えよ)」と題する論考を掲載していた。

その警告はかなり刺激的だ。イランは米国政治をよく研究しており、「時間を武器として使う方法」を米国の外交官以上に理解しているという。そしてトランプ大統領は、イラン革命防衛隊(IRGC)を11月3日の中間選挙の行方まで左右しかねない、「キングメーカー(勝者を決める存在)」にしてしまった、と指摘する。

例えば、10月にイランがホルムズ海峡の航行をさらに混乱させればどうなるか。原油価格は跳ね上がり、ガソリン価格も上昇する。物価高に不満を募らせる有権者の怒りは、そのまま与党共和党へ向かう可能性があるというのだ。

トランプ大統領自身は9月9日、イラン戦争について、「戦争は中間選挙直後に終わると思う」と記者団に語った。裏返してみれば、これは11月3日まではトランプ政権には戦争を終わらせる決定打がないことを認めたようにも聞こえる。

トランプ大統領は「イランは戦闘を長引かせることで中間選挙に影響を与えようとしている」と主張
トランプ大統領は「イランは戦闘を長引かせることで中間選挙に影響を与えようとしている」と主張

それなら、その間、隙を突く者はいないのだろうか。64年前に、レーガン陣営がイラン人質事件をめぐって秘密工作をしたとの疑惑のように、今年は逆に民主党側の「オクトーバー・サプライズ」が起きることはあるのだろうか。あるいはイラン自身が、米国の選挙日程をにらみながら、停戦、ホルムズ海峡、原油価格というカードを切るのだろうか。もっとも、今からそれが分かるのなら、「ビックリ」にはならないのだが。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。

  • 1
  • 2
関連記事
【よく一緒に読まれている記事】
やはりイランは「勝たずに勝つ」のか 敵を完全に打ち負かすことよりも自らが生き残ることを重視する歴史
やはりイランは「勝たずに勝つ」のか 敵を完全に打ち負かすことよりも自らが生き残ることを重視する歴史
木村太郎の他の記事
“1人の怒れる男”が「3人子殺し」の母親の刑事裁判を無効に 米刑事司法を揺るがせたリンジー・クランシー裁判
“1人の怒れる男”が「3人子殺し」の母親の刑事裁判を無効に 米刑事司法を揺るがせたリンジー・クランシー裁判
国際
ロシア「地球最後の日のラジオ」が“謎の放送” CIA長官の極秘モスクワ訪問直後のメッセージは偶然なのか
ロシア「地球最後の日のラジオ」が“謎の放送” CIA長官の極秘モスクワ訪問直後のメッセージは偶然なのか
国際
トランプ大統領に“スキャンダルの匂い” 「ナタリーと旅行したいだけ」民主党議員の一言にホワイトハウス猛反発 最側近との“異例な近さ”
トランプ大統領に“スキャンダルの匂い” 「ナタリーと旅行したいだけ」民主党議員の一言にホワイトハウス猛反発 最側近との“異例な近さ”
国際
トランプ大統領が米韓演習の縮小を指示 アメリカのイラン戦争の思わぬ「余波」がアジアの安全保障に及び始めた
トランプ大統領が米韓演習の縮小を指示 アメリカのイラン戦争の思わぬ「余波」がアジアの安全保障に及び始めた
コラム
一覧ページへ
×