服を企画する仕事は、感覚のままにアイデアを形にするだけではありません。店頭で聞いたお客さまの声やスタッフの反応、街中で感じたトレンドを拾い、店頭に並ぶ一着へと落とし込んでいきます。そこには、「ブランドらしさをどう形にするか」という感性だけでなく、生産面やコストと向き合い、思い通りにならない時に別の答えを探す、地道な仕事があります。
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(左から)湯浅/HEP FIVE店 店長、丸田/企画マネージャー、坂尻/ディレクター
今回は、VOLCAN&APHRODITEの商品企画を担う坂尻、湯浅、丸田の3人に話を聞きました。アイデアがどうやって一着の商品になるのか。店頭の声を形にするために、3人が大切にしていることとは。VOLCAN&APHRODITEのものづくりの舞台裏をお伝えします。
企画を形にする、商品開発の舞台裏
―企画から納品までは、どれくらいの期間ですか。
坂尻朝美(以下、坂尻):商品によりますが、1カ月〜3カ月が目安ですね。「これは次のシーズンに必要だ」と判断したら、そこから逆算して進めていきます。
―実際の進め方はどのような流れになりますか。
丸田菜央(以下、丸田):「こういうアイテムが欲しい」という企画が固まったら、その内容をもとに、生地やサイズ、仕様を細かく書いた指示書を作成します。原寸大のデータを合わせてみたり、カラー展開を決めたりして、それが決まってからサンプルの見積もり依頼する流れですね。
―サンプルの見積もりが出たあとは、どう進むのでしょう?
丸田:内容を確認したうえでサンプルを依頼します。上がってきた製品のサイズ感やデザイン、仕様をチェックして、修正がある場合は修正指示書を作成し、もう一度お願いする形です。問題がなければ、販売する分をまとめて生産する量産の指示を出します。
商品として店頭に並ぶ前に、販売方法や必要な情報を店舗グループに共有していきます。
―工程の中で、特に時間がかかるのはどこですか。
丸田:やっぱり指示書ですね。「このボディで、この生地で、プリントは何センチから何センチの間で配置」といった内容を全部まとめるので、そこに一番時間がかかります。指示に間違いがあるとイメージ通りのものが仕上がらないので、慎重に進めなければいけないところです。
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VOLCAN&APHRODITEを支える、店頭と企画の距離感
―普段は、どんなふうに情報をやり取りされているのですか。
湯浅美南(以下、湯浅):3人のグループチャットでやり取りしています。「お客さまがこういうものが欲しいと言っていました」と、聞いた声を伝えて、商品につなげています。
店舗で顔を合わせた時も、自然と商品の話になっていますね。気づいたらずっと話し込んでいることもあります(笑)。「これは好評でした」といったスタッフからの声も、そのまま共有しています。
―日常的に商品の話をされているんですね。
湯浅:そうですね。スタッフの声を活かして商品にしていくので、スタッフとお客さまと一緒に作り上げてきた、という感覚がすごくあります。
今何が求められているのかを踏まえて、VOLCAN&APHRODITE(以下、ボルカン)というブランドが作り上げられてきたのかなと。日常から生まれるアイデアが活かされていると思います
流行を追うだけじゃない。「求められるもの」を探す
―トレンドの移り変わりが早い中で、新しい情報をキャッチするために意識していることはありますか。
丸田:普段からInstagramやTikTokなどのSNSはチェックしていて、海外のアカウントもリサーチするようにしています。街を歩くときも、実際にどんなファッションをしている方が多いか、自然と目で追ってしまいますね。
あとはスタッフの声や、お客さまの反応を聞くことも大切にしています。そうした現場の声を知ることで、トレンドだけでなく今どんな商品が求められているのかを捉えて、企画に活かしています。
―街中では、どんな方に目がいきますか。
丸田:やっぱりボルカンにあるような地雷系のファッションとか、パンクですね。全然違うジャンルでも「こういうのを着ている人が多いな」「この色をよく見るな」というところはつい見てしまいます。
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制約があっても、「カワイイ」を諦めない
―企画の仕事で、大変だと感じるのはどんなときですか。
丸田:企画はかわいいものを考えるだけの仕事ではなくて、お客さまが求めている声やコスト、生産面など、いろんなことを考えながらひとつの商品にしていきます。なので、コストが合わなかったり、本当はこの生地を使いたいのに生産ができないこともあって、作りたかったものが作れない時もあるんです。
そこで「やめておこう」ではなく、「この生地なら作れるんじゃないか」「こうしたらもっとかわいいかも」と提案していきます。
―形になるまでには、何度もやり取りがあるのですね。
丸田:そうですね。「もう少し手を加えたほうが、お客さまの求めているものに近づくんじゃないか」と、何度もやり取りを重ねることも多いです。自分では判断がつかない時は、2人に相談することもあります。
そうやって時間をかけて出来上がったものを見て、「やっぱりこれにしてよかったね」と言い合える瞬間は、すごく嬉しいですね。
―お客さまの反応が見えることもありますか。
丸田:自分が携わった商品をお客さまがSNSに投稿してくださっているのを見たり、実際に街で着てくださっている方を見かけたりすると、本当に嬉しくなりますね。
自分のアイデアが形になって、それをお客さまに楽しんでいただけることが、この仕事の魅力かなと思います。
―チームで働くうえで、大切にしていることはありますか。
湯浅:私は、いろんな人から意見をもらうようにしています。他店舗の店長に聞くこともありますし、スタッフの意見と合わせて提案することもあります。
坂尻:私も、自分の意見だけでは通さないようにしています。ただ、それでもこだわりたい時、「これは絶対に」という時もあるんです。そういう時は根拠を自分の中で用意しておいて、「これはこういう理由だから企画したいんだ」と、納得してもらえるように話します。
―なるほど、ただ押し通すわけではないのですね。
坂尻:はい、タイミングを待つこともありますね。今は早いかもしれないけれど、「あと半年くらいしたら、世間の声としてもこれは受け入れてもらえるかもしれない」というように、けっこう長い期間をかけて準備することもあります。
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多様な気分を受け止める、VOLCAN&APHRODITEのものづくり
―企画を形にするうえで、重視している軸を教えてください。
坂尻:何か表現したいものがあった時に、それをそのまま出さないことですね。「これをボルカンでやるとしたらどうするか」を一度通してから形にする。そこは常に意識しています。
―ブランドの視点を挟むということですね。
坂尻:そうですね。今までやったことがないものでも、お客さまやスタッフの声を聞いていくと、「ボルカンだったらこう取り入れるよね」という形が自然と見えてきます。
―その「ボルカンだったら」という感覚を、どのように捉えていますか。
坂尻:改めて「ボルカンらしさ」を言葉にしようとすると、一言で出すのは難しいですね。
というのも、私たちのチームもお客さまも、地雷系やサブカル系、Y2Kなど、いろんなジャンルに興味を持っている方が多いんです。今日はこの気分だけど、明日は違う気分かもしれない。その時々で「今日はこれを楽しみたい」という、自分らしさを大事にしている方が多いんですよね。
―先に「らしさ」を定めているわけではないのですね。
坂尻:「らしさを作ろう」として作ってきたというよりは、自然と積み重なっていった感じだと思います。ボルカンに寄せていくのではなく、その時の「今これが欲しい」を反映していく。その積み重ねが「らしさ」になっていたのかなと。
「これがボルカンだ」という何かひとつ象徴するものがあるわけではないと思います。
「こういうのが欲しかった」と言ってもらえるために
―日々、どんな気持ちで企画をされていますか。
坂尻:私たち自身が「かっこいい」「かわいい」と思えることは、大前提としてすごく重要だと思っています。そのうえで、スタッフやお客さまの声にしっかりと耳を傾けることも大切にしています。
スタッフには「これは本当におすすめできる」と思ってもらえるように、お客さまには「こういうものが欲しかった」と思ってもらえる商品を作りたいですね。
―企画で迷った時、最終的な判断の基準はありますか。
湯浅:普段から店頭に立っているので「こういう商品がいいな」と思ったら、一度スタッフに相談します。20代前半のスタッフが多く、最新のファッションに敏感なので「めっちゃいいと思います」と返ってきたり、逆に意見をもらえたりするんです。
そのうえで、店頭にある商品と合わせられそうかなど全体を見て、「これはお客さまに喜んでもらえそう」と思えたものを共有しています。
丸田:私はコストや生産面から決めることが多いですね。想定している価格帯に収まるかどうか、その生産数が現実的かどうか。難しい場合は、別のデザインと組み合わせて進める方法を考えます。
―服を届けることで、お客さまにどんな変化があると嬉しいですか。
湯浅:「私はストリートが好きだったけど、ボルカンを知ってこういう系統もすごく好きになった」と言ってくださるお客さまがいるんです。そういう変化を見られるのが、一番嬉しいですね。
特に多いのは、普段は違う系統のファッションをされていて、「地元では着にくい、でもやってみたい」と勇気を持って来てくださる方です。他県からSNSで見てくださっていて、「ずっと来たかったんです」といらっしゃることもあります。そういう方には着方を提案して、「こういう着方もあるんだ」と新しい楽しみ方を見つけて帰っていただけることが多いですね。
好きになるきっかけになったり、「友達にもおすすめしてみる」と言ってくださることも結構多くてすごく嬉しいです。
―海外のお客さまも多いと伺いました。
湯浅:そうですね。アニメ好きな方が多くて、「こういうアニメのキャラクターのコーディネートにしたい」と言われることもあります。海外では手に入らないアイテムも多いので、それを目当てに来られる方が大半かなと思います。
―どうやってお店を知って来られるのでしょう。
坂尻:Googleマップのレビューを見て来てくださる方が多いですね。1店舗で2,700件を超えている店舗もあり、海外のお客さまからのコメントも多くいただいています。「ここで買ってよかった」「スタッフさんが気さくで喋りやすかった」という声を読んで、来店される方も多いです。なかには「自分の国にもこのお店ができてほしい」と言っていただけることもあって、そう言われるとやっぱり嬉しいですね。買ったものをその場で着て、そのまま大阪を楽しんで帰られる方もいらっしゃいます。
―ご自身が企画したものが店頭に並んだ時は、どんな気持ちですか。
湯浅:単純に嬉しいですし、お客さまから「こういうのが欲しかった」という声をいただいた時は「やってよかったな」とすごく思います。
あとは入荷したタイミングで、「ここにディスプレイしたい」「こういうコーディネートにしたい」と考えるのも楽しいですね。自分が考えたものが店頭に並んで、そこからお客さまへの提案につながっていくことが、企画のやりがいだなと感じます。
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3人が語る、企画職に必要なこと
―最後に、これから企画を目指したいという方へメッセージをお願いします。
湯浅:今店頭に立っているアパレルスタッフの方には、いろんな店舗を見ておくといいと思います。同じジャンルだけでなく、自分と違うジャンルのいいところを取り入れると、オリジナリティーのあるアイテムにつながると思います。
あとは、スタッフやお客さまの意見を常に聞いておくことも大切です。必要ならメモに残して企画チームに上げておくと、企画の仕事に近づきやすくなると思います。「こういうアイテムがあったらいいな」という想像でもいいので、積極的に意見を伝えていくと、仕事がもっと楽しくなると思います。
丸田:普段からSNSや街中でリアルな流行を見て、「なんでこの商品が人気なんだろう」「なんでみんなこれを着てるんだろう」と考える習慣を身につけておくと、企画にすごく活かせると思います。あとは、IllustratorとPhotoshopといった基本的なパソコンのスキルも、身につけておくと役立ちます。
商品企画は思い通りにいかないことや、コストが合わない葛藤もあります。それでも、お客さまに喜んでいただけた時の達成感は大きいので、前向きにチャレンジしてほしいなと思います。
坂尻:ファッションだけでなく、音楽やアートだったり、日常の中にはたくさんのヒントがあります。「面白いな」「これもいいな」と自然に受け入れて取り入れていくことが、企画の引き出しにつながっていくと思います。
企画は、いろんな人と一緒に作り上げていく仕事です。人とのやり取りを楽しみながら進められると、経験も自然と積み重なっていくと思います。
―最後に、今後の展開を教えてください。
坂尻:既存店のリニューアルで、新しいボルカンを見せていきたいと思っています。時代やお客様から求められるものはその時々で変わっていくので、店舗も同じようにアップデートし続けていきたいですね。心斎橋筋商店街に3店舗目を出したところなので、大阪・南エリアで地域一番店を目指していきます。
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■ VOLCAN&APHRODITEについて
「地雷系」「サブカル系」「Y2K」など日本のファッションカルチャーを発信する、ジャンルレスなセレクトショップ。足を踏み入れた瞬間から広がる個性あふれる異空間の中で、ここでしか出会えないOnly oneなスタイルを提案。関東・関西・九州に店舗を展開している。
Instagram:@volcan_hepfive
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