誰もが当たり前のように使っている“生活道路”の法定速度が、9月1日から大きく変わる。
これまで時速60キロだったものが、時速30キロに引き下げられるのだ。
一般道路のおよそ7割に関係するこの改正は、私たちの日常にどんな影響をもたらすのだろうか。徹底取材した。
■ 9月1日から何が変わるのか
今回の改正で対象となるのは、主に道路幅が5.5メートル未満の狭い道路だ。
中央線や植栽などで車線が分離されている一般道路は引き続き時速60キロのまま。
また、速度標識がある場所は、これまで通りその速度が最高速度となる。
一方、中央線のない細い路地や住宅街の道路は、9月1日以降、法定速度が時速30キロとなる。

■ まだ知らないドライバーが大多数
8月25日、大阪市内では警察による啓発活動が行われた。
警察官がドライバーにビラを手渡しながら声をかける。
警察官:9月1日から生活道路、中央線がないような細い道路の法定速度が、60キロから30キロになるのご存じですか?
返ってきた答えは、「知らないです」というものがほとんどだった。
「気を付けないといけないかなと思う。今聞いて分かったので」と話すドライバーもいて、改正が目前に迫っているにもかかわらず、認知度はまだ低いのが実情だ。
大阪府警大淀警察署の谷川聖交通課長は、「今後、警察としても様々な機会を通じて、広報・啓発活動とともに取り締まりも行っていきたい」と話す。

■ 幅5メートルほどの“生活道路”で車はどのくらい出しているのか
幅5メートルほどの“生活道路”で、走行する10台の車の速度を実際に計測した。
自転車や歩行者の通行量も多く、車が間近をすり抜けていく狭い路地。その結果、10台の平均速度は時速31.7キロと、引き下げ後の法定速度とほぼ同水準だった。
住民たちの感覚も、その数字と重なる。
近隣住民:(法定速度は)住宅街やし、狭いから(時速)30キロくらい?
記者:実は時速60キロなんです
近隣住民:(時速)60キロ出していいんですか!子供の数も多いし、幼稚園があそこにあるから、(時速)30キロに変えてもらわんと困りますわ。

■ なぜ今、“生活道路”の法定速度を下げるのか
大阪大学大学院人間科学研究科の中井宏准教授によると、1960年に始まった現行の道路交通法のもと、日本は長年、幹線道路など広い道路での事故対策を優先してきた。
その結果、交通死傷者数は着実に減少してきたが、近年は横ばい傾向が続いている。
中井宏准教授は「生活道路の事故、特に死者を減らしていこうという動きの一環」と説明する。
国がより狭い生活道路の対策に本腰を入れた背景には、こうした状況があるということだ。
自動車などの速度と歩行者の致死率の関係は明確で、国交省が2017年から2021年に発生した事故を分析したデータによると、車が時速30キロを超えると、歩行者の致死率は急激に上昇していることが分かった。

■ シミュレーターで体感した「時速30キロ」と「時速60キロ」の差
自動車教習所の協力のもと、月1回程度運転する記者がシミュレーターで体験した。
まずは時速30キロ。慎重にハンドルを握りながら前方に神経を集中させていると、突然、子どもが飛び出してきた。
思わず体が固まるような緊迫感の中、ブレーキを踏むと、ギリギリのところで子どもの手前に停車することができた。

■時速60キロで運転してみると…
次に同じ道を時速60キロで運転してみると…
画面の流れが時速30キロと比較して、かなり速くなる。
そして子どもが飛び出した瞬間、「あ!ちょっと今のは避けきれないですね」と記者は声を上げた。
時速30キロではギリギリ回避できたものが、時速60キロでは間に合わなかった。
大阪香里自動車教習所 細田哲匡課長補佐:要所要所でブレーキを構えるとか、スピードを落とすとか、そういった運転が必要。

■ 配達員への影響 安全と時間の板挟み
改正を歓迎する声がある一方で、毎日“生活道路”を走る職業ドライバーたちには切実な問題もある。
多い日には1日120個もの荷物を配達するという配達員の久保翔也さんは、「狭い道だったら、自転車とか歩行者が急に飛び出してきたりとかするので危ない」と安全への意識を語る。
これまで狭い道路では時速40キロ程度で走っていたが、9月以降は時速30キロ以内に抑えなければならない。
配達員 久保翔也さん:時間指定(の荷物)が多かったりすると急がないと、時間指定内にまわり切れない。時間指定も気にしながら、安全面も気にしながら、スピードも気にするとなると、大変な部分はある。
配送を行う会社の大塚楓人社長は「安全性としては、素晴らしい良いことだとは思うですけど、配達が終わらないというのは僕らとしては大変かな」と苦しい本音を明かした。人手不足で人員を増やすことも容易ではないという。

■ 専門家が懸念する”抜け道シフト”のリスク
大阪大学大学院の中井准教授は、法改正が思わぬ副作用をもたらす可能性にも言及する。
大阪大学大学院人間科学研究科 中井宏准教授:スピードが今までよりも低下した場所があると、これまでそこを通ってた人が、その道路を避けて、もっと狭い道とか、通学路みたいな所に抜け道をシフトさせることがあり得ると思うので、隣の道路とか、近い道路で新しい事故のリスクが生じる可能性があるのは少し心配です。
速度を下げた道路の周辺で、新たな危険が生まれかねないという指摘だ。
日ごろ使っている道路の法定速度も変わるかもしれない、今回の改正。
みなさんも再度、確認してみてはいかがだろうか。
(関西テレビ「newsランナー」2026年8月26日放送)


