人型ロボットの実用化に向け、競争が激しさを増しています。その先頭を走っているのは中国です。
上海を取材するとショッピングモールでは家庭用ロボットが販売され、生活の一部になっていることが分かりました。
さらに東京のAI博覧会、そして関西の開発現場を取材。浮かび上がったのは、日本の“勝ち筋”をめぐる模索でした。
かつて“ロボット大国”と呼ばれた日本に巻き返しの切り札があるのか、徹底取材しました。
■上海で見たロボットの”日常” 1体676万円が普通に並ぶ
取材班がまず向かったのは、中国・上海のショッピングモールにある人型ロボットの体験館でした。
入口ではロボットが出迎えます。会話のできる業務用ロボットは1体およそ676万円。店舗での接客を担うために設計されたものです。
一方、家庭向けに販売されているロボットは約95万円。歌ったり踊ったりするだけでなく、「子どもに算数程度なら教えられる」という機能まで搭載されています。
高額に映るかもしれませんが、ショッピングモールの棚に並んで売られているという光景そのものが、すでに中国においてロボットが“生活の一部”になりつつあることを示しています。
■「実装して失敗の中から学んで改善する」中国 「日本はかなり努力する必要がある」と専門家
この違いはどこから生まれるのか。野村総合研究所のチーフエキスパート、李智慧さんはこう分析します。
【野村総合研究所チーフエキスパート 李智慧さん】「中国はとにかく、完璧ではなくても実装して失敗の中から学んで、それをどんどん改善に持っていく」
さらに、中国政府が「ロボットと人間の共生社会を実現する」という明確なビジョンのもと、政策面でも資金面でも強力に後押ししてきた点も大きいといいます。
【野村総合研究所チーフエキスパート 李智慧さん】「日本はかなり努力する必要があると、正直思います」
かつて日本は、犬型ロボット「aibo」、感情認識パーソナルロボット「Pepper」、二足歩行で世界を驚かせた「ASIMO」など、ロボット技術の最先端を走ってきました。
しかし今、中国のロボット業界団体によると、人型ロボットの出荷台数の97%が中国製だといいます。
■東京のAI博覧会で見た”脳”勝負
日本の現在地を確かめるべく、取材班は東京で開催された「AI博覧会」へ。
会場でひときわ注目を集めていたのは、日本のロボット開発ベンチャーのブースです。
「外観はベールに包まれたまま」という条件で、公開前のヒューマノイド「シナモン2」がダンスを披露しました。
腕を大きく振り、体全体でリズムをとる動きは、記者が「思ったより激しいダンスです」と声を上げるほどのキレがありました。
ただし、このロボットの“身体”は中国製。運動性能という点では、現状まだ及ばないのが現状のようです。
その代わり、この会社が力を注ぐのはロボットの”脳”、すなわちAIの部分です。
人が手招きをすると近づいてくるなど、ジェスチャーだけでロボットを動かせる技術は世界初といい、「動き」ではなく「考えること」で差別化を図っています。
【ドーナッツロボティクス 小野泰助CEO】「正確で、いちばん壊れなくて、いちばん安全なロボットが、日本の技術者が今まで培ってきたものがあってやれると思います」
■川崎重工が目指す「壊れにくく、現場で使えるロボット」
日本で初めて産業用ロボットを生産・販売した川崎重工業は“安全で実用的”という日本の強みを体現しています。
川崎重工業は2015年から人型ロボットの開発にも着手。
小型・軽量の「Friends」は、医療現場での活用を目標に開発されています。操作者が腕を動かすと、ロボットが同じ動作を忠実に再現する仕組みで、指先の細かな動きまで丁寧に反映します。
一方、大型機「Kaleido」は、災害救助などへの活用を見据えた設計です。30キロの荷物を軽々と運びながらバランスを崩さず、さらにはほうきを手に取り、床を掃くという繊細な作業もこなします。
【川崎重工業 村上潤一さん】「飛んだり跳ねたりはできなくても、重いものをしっかり持って、壊れにくいロボットを目指す。決して負けているとは思っていない」
■政府も10.5兆円を投資へ 国を挙げての巻き返し
こうした企業の動きを後押しするように、政府は2040年度までにロボットを制御する「フィジカルAI」に10.5兆円を投資する計画を打ち出しています。
高市早苗総理は「ロボットが自律的に人間を支援する『フィジカルAI』が実現できます。日本はこれで世界に打って出ます」と宣言しています。
■京都発・ハカルンちゃん 転び方にも”知性”が宿る
新規参入企業も続いています。
これまで工場の製品管理や事故防止をAIで支援してきた京都の「HACARUS」は、2026年4月にロボットとAIを融合させる開発拠点を新設。そこで生まれたのが、人型ロボット「ハカルンちゃん」です。
取材現場では、VRゴーグルと専用スーツを装着した人間の動きをリアルタイムでロボットに転送するデモが公開されました。記者が「タイムラグ、全然ないですね」と驚いた通り、動きはほぼ同時にロボットに反映されます。
障害物があっても体勢を維持する「ハカルンちゃん」。
それでも、取材中に転倒する場面もありましたが、取材班が注目したのはその倒れ方でした。人間が受け身を取るように、ゆっくりと体をかばいながら転ぶのです。
■スタジオに登場した「ハカルンちゃん」が示す未来
「HACARUS」の染田貴志社長はハカルンちゃんとともに番組スタジオに登場しました。
スタジオでは谷元アナウンサーが手を広げると、ハカルンちゃんも同じように腕を広げる場面が披露されました。
操作者がVRゴーグルをつけてネットワーク経由で動きを転送し、ロボットが滑らかに連動する様子に、スタジオは驚きに包まれました。
染田社長は実用化の可能性についてこう語りました。
【HACARUS 染田貴志社長】「工場の現場で人手が足りなくなってきているところで、今は人がやっているような作業をロボットが代替していく」
介護の現場への応用も視野に入れているといいます。
【HACARUS 染田貴志社長】「介護の現場は場所によって異なる環境に対して、AIとともにその環境を理解してサポートをするというのは、期待感の大きな一つになっています」
ロボット開発のトップを走る中国に対して、日本がどう巻き返しを図っていくとよいのでしょうか。
【HACARUS 染田貴志社長】「一つはAIの脳の部分。日本が強い製造業みたいな現場で、たくさんデータを集めて、この脳を強くして、それが世界に広がっていく。これが日本のロボット開発の一つの勝ち筋ではないかと考えています」
(関西テレビ「newsランナー」2026年8月27日放送)
