日本酒とクラフトサケ。最も近い存在でありながら交わらなかった両者がコラボレーションし造り上げた「境界線を楽しむ酒」とは。
■未知の領域 麹99%の日本酒
福島県古殿町にある豊国酒造の矢内賢征さんは、酒造りに苦戦していた。
全国新酒鑑評会で幾度もの金賞、看板商品の「一歩己」は全国的にファンも多いなか、なぜこれほど苦しんでいるのか?
「麹の層が下に沈殿してるんですよね」
造っているのは「麹の日本酒」。
通常、日本酒はコメが80%、麹20%の割合が一般的だが、今回造るのは麹99%。未知の領域へのチャレンジだ。
ただの酒造りではない。今回は、クラフトサケを造る福島県南相馬市のhaccobaとコラボレーション。肝となる麹を共に作る。
■日本酒とクラフトサケの間にある壁
さらに、タッグを組んだ裏には、深いワケがあった。
「僕ら別に対立しているわけではないが、対立軸で語られる場面がある」と話す豊国酒造の矢内さん。
haccobaの佐藤太亮さんも「文化的には、そこには壁がなかったと思っている。制度上は壁を作らざるを得なかったかもしれないが」と語る。
酒税法では、米、米麹、水を原料に造ったものが「清酒」と定められている。
一方、クラフトサケは「その他の醸造酒」。免許の違いから、純粋な清酒を造れないため、ハーブといった副原料を加えるなど、清酒の定義を外れる必要がある。
さらに、現行の酒税法ができた1953年以降、清酒製造免許が新規に発行された件数はゼロ。「見えない壁」によって、両者が対立軸で語られてしまうこともあった。
今回のコラボは全国的にも稀な、垣根を越えたプロジェクトなのだ。
■垣根を越えるおいしさ
しかし、向き合うのは麹99%という着地点が見えない酒造り。そこに、クラフトサケの自由な発想や知恵が加わり、完成形に近づけていく。
600キロの原料のうち、コメはわずか6キロという、ほぼ麹で造る日本酒。実はこの1%にある仕掛が隠されていた。
完成したのは2本。豊国酒造は麹99%の日本酒、さらにhaccobaは、麹100%のクラフトサケを造っていたのだ。これがコラボの狙いだ。
わずか1%の違いによって制度上は異なる2つの酒。互いが最も近づく限界を極めた、日本酒とクラフトサケだ。
haccobaの佐藤さんは「『違いがあるかもしれないけど、どうでも良いくらいおいしいね』と、垣根など忘れてしまうくらい、みんながそのお酒を飲んで楽しんでいるっていう状態がこのお酒を通して作れれば良い」と語る。
また豊国酒造の矢内さんは「『仲悪いと思っていたのに、実は楽しいことやってんじゃん』って思われるのが一番面白いなって思っている」と話した。
■購入者 飲み比べを楽しむ
8月14日、2つの酒が並べられた福島市の酒店には、さっそく買い求める多くの人が…「13日に発売だというので、新しいのを買ってみようかなと」「一歩己もhaccobaも普段あまり飲まない方なので、どんな違いがあるのか、どんな風においしいのかとワクワクしています」と語った。
中には…2本買いする人も。「いままでにない造り方だと見たので、非常に興味深かった。飲み比べてみたい」「お客さんが福島の酒として一歩己なのかhaccobaなのかを選んでいくみたいな。そこには壁がない。それが福島の酒を取り巻く環境のさらなるレベルアップかな」と話した。
■たかが1% されど1%
haccobaの佐藤さんは「造っている側が楽しんでいるのが伝わると、飲み手もきっと楽しんだよなって信じている。その空気感がより伝われば良い」と語った。
2人の表現者が生み出す、たかが1%、されど1%。1%の差の中にどんな味わいの違いがあるのか?
