天津出身の中国人が買ったお土産

天津といえば、個人的には、かつての取材相手の生まれ故郷という印象が強い。王さんという男性で、2009年頃に日本人の友人の紹介で知り合った。

初対面のとき、王さんは私にこう言った。

「私は天津出身です。これは故郷のお土産、天津甘栗です」

渡された天津甘栗は大きな袋で、中国語の説明書きがあった。都内の物産店で買ってきてくれたそれを見て、天津の空港で売られているものと同じだと思い出した。

おもしろい現象だが、日本人の間で「天津といえば甘栗」というイメージが強いため、逆に天津でも(以前はなかったのに)日本人向けのお土産として甘栗を販売するようになったのだ。ほかに、天津甘栗チョコレートもあり、こちらもけっこう人気がある。

日本人が空港で「中国ならではのお土産を買わなくちゃ」と思うため開発された商品らしい。おそらく王さんは、日本人に「天津出身です」というと「ああ、あの甘栗で有名な……」と言われるため、日本人へのお土産に天津甘栗が最適だと考えて、選んでくれたのだろう。

王さんとは定期的に会い、いつも、日本のAGC(アニメ、ゲーム、コミック)がいかにすばらしいかという話をしてくれた。

2012年9月、日本政府が尖閣諸島の国有化に踏み切った際、中国各地で激しい反日デモが発生し、日中関係は急速に冷え込んだ。

私はぜひ王さんの考えを聞きたいと思い、連絡すると快く応じてくれた。取材のとき、私はいつも中華料理店で、その人と一対一で会うようにしている。

相手を緊張させずに本音を聞き出すためには、食事しながらざっくばらんに話すのがいちばんいいと思っている。録音はしないし、メモさえとらないこともある。

私が王さんに、ある中華料理店で食事するのはどうだろうかと提案すると、その日に限って、王さんはそれをやんわりと却下した。

「すみません。敏感な話をするので、そのお店はやめたほうがいいです。あそこは中国人の知り合いが多い店なので、ばったり会う可能性があるし、誰が聞き耳を立てているかわからないから」

王さんはこういうと、繁華街から少し離れた小さな店を指定。私たちはそこで待ち合わせし、反日デモについてじっくり語りあった。その後、王さんは上海に帰国。私が訪ねていくといつも歓待してくれた。

会うのは当然、中華料理だ。上海のショッピングセンターにある上海料理店、杭州料理店、一度だけイタリア料理店にも行った。

王さんは自身もマスコミ出身だったこともあり、私の仕事をよく理解し、私が納得いくまで説明してくれる人だった。