熊本地震で車中泊を余儀なくされた人々の間で危険性が指摘された「エコノミークラス症候群」。長時間同じ姿勢でいることで足にできた血の塊(血栓)が肺に詰まり、突然死に至ることもある恐ろしい病だ。しかし、そのリスクは災害時や飛行機の中だけではない。長時間のデスクワークや車の運転など、私たちの日常にも潜んでいる。血栓症の専門家に、誰にでも起こりうるこの病気のメカニズムと、今すぐ実践できる簡単な予防法について解説してもらった。

「長時間座るだけ」で忍び寄る突然死のリスク

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「エコノミークラス症候群」という名称は広く知られているが、その正式な医学的名称は「静脈血栓塞栓症」だ。血栓症を専門とする金沢大学の森下英理子教授は、そのメカニズムを次のように説明する。

長時間座ったままの姿勢でいると、足のふくらはぎの静脈で血の流れが滞り、血液がよどんでしまう。この状態が血の塊、すなわち「血栓」を形成しやすくする。問題は、この足にできた血栓が血流に乗って移動し、肺の血管に詰まってしまうことだ。

これが「肺血栓塞栓症」と呼ばれる状態で、多くの血栓が肺の血管を塞ぐと、呼吸が困難になる。主な症状は胸の苦しさや胸痛だが、最悪の場合、突然死につながることもあるという。単に長時間座っていただけ、という行為が、命を脅かす事態を引き起こしかねないのだ。

あなたの日常にも潜む危険 デスクワーク、長距離移動…

この病気は、飛行機のエコノミークラスだけで起きるわけではない。森下教授は「令和8年熊本地震で見られるような車中泊とか、あるいは、長時間の車の移動、あるいは長時間パソコン作業する、こういったときでも起きてくる」と指摘する。

つまり、災害時の避難生活だけでなく、お盆や連休の帰省ラッシュ、そして日常的なデスクワークでさえ、リスク要因となりうるのだ。特に、高齢者はリスクが高いとされるが、油断は禁物だ。30代や40代といった若い世代でも発症する可能性があり、注意が必要である。パソコン作業中にこの病気のリスクがあると聞いて、驚く人も少なくないだろう。私たちの生活のすぐそばに、その危険は潜んでいる。

今すぐできる!命を守るための3つの予防策

では、この静脈血栓塞栓症を予防するにはどうすればよいのか。森下教授は、誰でも簡単に実践できる3つのポイントを挙げる。

1つ目は「ふくらはぎを動かす」ことだ。血栓は足の血のよどみからできるため、ふくらはぎの筋肉を動かすことが最も重要となる。「第二の心臓」とも呼ばれるふくらはぎを意識的に動かすことで、血流を促進できる。1〜2時間に1回は立ち上がって歩き回ることが理想的だが、それが難しい場合は、座ったままでもつま先を上下に動かす屈曲運動を1時間に10回程度行うだけでも予防効果があるという。

2つ目は「足を伸ばす」こと。特に車中泊などで寝る際は、シートを倒して足を伸ばして寝ることが重要だ。膝を曲げた状態が長時間続くと、非常に危険である。

3つ目は「水分補給」だ。水分が不足すると、いわゆる「血液ドロドロ」の状態になり、血液が固まりやすくなる。その結果、血栓ができやすくなるため、脱水状態にならないよう、こまめに水分を摂ることが不可欠だ。

ストレスも血栓の原因に 災害時の教訓

能登半島地震でも被災者のケアにあたった森下教授は、災害時の経験から得られた教訓についても語る。意外にも「ストレス」も血栓ができる原因の一つになるという。

避難所生活ではプライバシーの確保が難しく、大きなストレスがかかる。このストレスを軽減することが、血栓予防にもつながるのだ。その対策として、森下教授は「段ボールベッド」の早期配備を提言する。段ボールベッドは、床からの冷えやホコリを防ぎ、感染予防になるだけでなく、プライバシーを保つことでストレスから解放されるメリットが大きいという。

また、能登半島地震の避難所では、ラジオ体操をすることが有効だったことや、温かい炊き出しがストレス軽減につながり、血栓が起きにくかったという事例も報告されている。物理的な対策だけでなく、心のケアも血栓予防には欠かせない要素なのだ。

これからお盆の時期を迎え、車で長距離を移動する人も増えるだろう。エコノミークラス症候群は特別な病気ではなく、誰の身にも起こりうる。こまめに体を動かし、水分を補給するなど、簡単な予防策を心がけ、自らの命を守ることが重要だ。

(石川テレビ・8月6日放送)

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