データ提供 PR TIMES
本記事の内容に関するお問い合わせ、または掲載についてのお問い合わせは株式会社 PR TIMES (release_fujitv@prtimes.co.jp)までご連絡ください。また、製品・サービスなどに関するお問い合わせに関しましては、それぞれの発表企業・団体にご連絡ください。

鯨津朝子《Obstacles?》2026


「路上観察として、街の中にある電柱を主役に、ツアーを作りましょう」


そう総支配人から提案されたとき、「OMO5金沢片町」のスタッフたちは一瞬、耳を疑いました。金沢といえば、美しい茶屋街や伝統工芸、そして北陸随一のグルメタウンとして知られる片町など、観光資源にあふれた街です。その金沢で、あえて「電柱」を観察して歩くツアーを作る。それは、観光の常識を広げるような、深い探求の始まりでした。


観光地・金沢で「ビジネスを超えた」繋がりが生まれるまで

私たちのホテル「OMO5金沢片町」からほど近い場所に、現代アートの拠点として全国から多くの人が集まる「金沢21世紀美術館」があります。ホテル開業から間もなく、私たちは「アートの視点で、これまでにない金沢の魅力を発信したい」と考え、同館との連携を模索し始めました。スタッフ自身が何度も美術館へ足を運び、最初は、OMOのスタッフが美術館館内を案内する「金沢21世紀美術館お散歩ツアー」が実現しました。


「金沢21世紀美術館お散歩ツアー」の様子


その後も、ホテルとしてさらなる連携を画策していたなか、大きな転機が訪れます。当時の総支配人・比佐 雅宏が、同館のある特別展に出会い、その強いテーマと思いに激しく魅了されたのです。 そこでキュレーターが掲げていたのは、「感覚を通した学び」という思想でした。美術館に行くだけで終わりにせず、そこでの体験や気づきを自分の日常に持ち帰ってもらう。その姿勢に深く共感した比佐は、「ホテル側でも何かお手伝いできないか、そしてお散歩ツアーに参加するお客様にも何か届けられるものはないか」と考え、同館に提案を持ちかけました。


すぐにゲストに還元できるわけではないけれど、まずはホテルとして今できることから始めて、美術館の皆さんの視点に寄り添ってみたい。――そんな思いから始まったのが、実にユニークなアートの「実験」への参加でした。


それは、美術館内の屋外スペースに設置された特別展のコンポスト(生ごみ堆肥化装置)へ、OMO5金沢片町の朝食で出る生ごみを投入し、一緒に土壌を作るという試みでした。


展示期間中、2週間に1回の頻度で、比佐はホテルから出る20kg近くもの生ごみを抱え、吹雪の日は台車の車輪が雪にとられながらも、美術館へと運び続けました。コンポストの中は、冬の寒さのなかでも不思議なほど温かく、生ごみが発酵して豊かな土壌を作っていたそうです。「冬の金沢でバナナの花を咲かそう!」をテーマに生ごみを運ぶ日々。


せっせと生ごみを運び、コンポストへ投入する比佐


比佐は当時の思いをこう振り返ります。 「観光としての分かりやすさだけではなくて、アーティストの視点で街を見てみたらどうなるんだろう、という挑戦が、金沢という土地ならきっとできる。その視点から何か新しい企画に結びつけていきたいと考えていました。単なるビジネス上のお付き合いだけではなくて、何かを一緒におもしろがれる、そんな関係が生まれると楽しそうだというのがそこで芽生えたのかなと思います」


そうした中、美術館の学芸員である本橋 仁さんから「路上観察をテーマにした新しい展覧会をやるので、街に飛び出すツアーを一緒に仕掛けませんか」という、お声がかかったのです。


「万人受けしないのではないか」社内からの厳しいフィードバック

同館が企画していたのは、都市のデザインや経過を観察し、無用ながらも路上に残るおもしろさを愛でる「路上観察学会」の創設40周年を契機とした展覧会「路上、お邪魔ですか?」でした。


比佐が感じていた「日常をアートの視点で再解釈する」という路上観察の概念と、ホテルの観光の語り口は、非常に親和性が高いものでした。


展覧会入り口と、レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》2004


学芸員の本橋さん、そして展覧会に参加する現代美術家のアーティスト・中村 裕太さんらを交え、「いかに日常を面白がるか」を議論するなかで着目したのが、街の営みを象徴する「電柱」とそこに生きる「生き物」でした。伝統的な美しい景観の裏で、街の成り立ちを支える電柱と、人間の目線とは異なる世界で電柱を利用する動物や昆虫の生態を掛け合わせることで、まったく新しい街歩きの視点が生まれると確信したのです。


しかし、そのコンセプトをツアーへ落とし込もうとした際、壁が立ちはだかります。社内でのオンライン会議での提案を終えた瞬間、ニッチとは思いつつも「おもしろいコラボですね」という反応を期待していた比佐に厳しい現実が突きつけられました。


「さすがに分かりにくすぎるのではないか」

「アート好きのファーストレイヤーにも、ニッチすぎて刺さらないのではないか」


説明した直後に飛んできた鋭い指摘に、目が覚めていくような感覚を覚えたといいます。OMOを利用するメインの層である30代の女性が、電柱というテーマに喜ぶ姿が想像できないという、真っ当な懸念でした。


一度は企画の変更も頭をよぎりました。しかし比佐は、「最初から万人受けしなくても、新しいことを追求してアップデートし続けることが、将来的に『新たな視点』を求めて金沢を訪れるお客様への価値になる」と信じ、「とにかく大受けするかは分からないが、信じて実施につなげよう」という強い気持ちで実施を決断したのです。


「電柱が美しい…?」引き継いだスタッフの戸惑い

この構想段階を経て、具体的なオペレーションやツアーの台本作成という実行フェーズは、現場スタッフの堀 安優美に引き継がれました。しかし、ここでも新たな葛藤が生まれます。比佐からの引き継ぎにあたり、堀はアーティストの中村さんや学芸員の本橋さんと共に初めてフィールドワークへ出かけました。そこで目の当たりにしたのは、電柱を眺めては「いいですね、美しい」と盛り上がる専門家たちの姿でした。


フィールドワーク中に電柱を眺める様子


「当時は路上の楽しみ方を全く知らなかったので……変態的な方々の場所に足を踏み入れたような感覚でした(笑)」と堀は当時の戸惑いを語ります。「正直、最初は『早くツアーの台本を完成させなきゃ』という悩みに数ヶ月間も苦しめられていて、焦りの方が大きかったんです」。専門的な表現や感覚的な言葉ばかりでツアーに落とし込めず、関連書籍を買い込んで必死に勉強する日々が続きました。


転機となったのは、フィールドワーク中に堀が何気なく口にした一言でした。道端の電柱を見て「鉛筆のような形だからエンピツ柱ですね」と言うと、専門家たちが「それ面白い!」と大盛り上がりし、一瞬で共通言語になったのです。


「路上観察はもっと自由でいいんだ!私の路上の楽しみ方はこれだ!」と視界が開けた堀の熱量は、ここから爆発します。自らも「偏愛者」になると腹をくくり、フィールドワークを繰り返しながら、台本をブラッシュアップしていきました。


中村さんたちと5〜6回にわたり街を歩き、彼らが何を見て、何を美しいと感じているのかを徹底的にインプットしていきました。現代ではほとんどコンクリート製に移行し、「生きる化石」と呼ばれるほど希少になった木製の電柱(木柱)。これは猫が引っかき傷をつけやすく、犬がマーキングをしやすいという、都市の生き物たちの重要なアクセスポイントになっていること。


アーティストたちから話を聞く堀(右手・一番奥)


アーティストたちがボソッと言った言葉に「今の部分、絶対お客様にも伝えたいです!」と食らいつき、アートの知識がないゲストの目線でも100%伝わる内容へとさらにブラッシュアップしていきました。堀は熱量で全体の方向性を引っ張り、マーケティング上の懸念を抱えていた社内や、美術館側とも一切妥協のない着地点を作っていくことにつながりました。


日常の風景を再解釈する、豊かな人生へのパスポート

こうして完成した「知ればおもしぃ路上観察ツアー」は、ゲストをただ観光名所に連れて行くだけの従来の街歩きとは、全く異なる結果を生み出しました。


突発的に金沢旅行を決めた30代の女性2名は、ツアー中に路上観察の魅力にすっかり引き込まれ、現地解散後も迷うことなく「このまま自分たちでフィールドワークを続けます」と、電柱の根っこを探しに街へ消えていきました。また、3世代で参加したファミリーでは、案内された看板やアーケードの写真を1つずつ嬉しそうに撮影する祖母の姿を見て、5歳の子どもが帰り道に「あ、あれも電柱!あっちも!」と指をさして楽しむ光景が見られました。


ツアー中に見上げる電柱


「小さい頃ってなんか『あの雲ウサギの形に見えるよね』とか、イメージを膨らませながら誰しも遊んだじゃないですか。その感覚が返ってくるような気持ち」と堀は笑います。


驚くべき変化は、ホテルのスタッフたちの間にも起こりました。ツアーを担当するOMOレンジャーの間で「日常の路上観察報告」が活発に共有されるようになったのです。


「北陸の信号機には、雪が付着するのを防ぐために、しずく型の可愛いカバーがついている」「川の水位が上がったときに警報を出すための、マカロンみたいな形をした鉄塔を見つけた」


これまで見過ごしていた些細な日常の風景を発掘し、共有し合う文化がスタッフの間で定着していきました。堀自身、路上観察の専門家たちが登場する動画を観て、「おもしろがるポイントがたくさんある人ほど、きっと豊かな人生を送れるんだろうな」と感じていたといいます。その気づきが、他のスタッフに波及した瞬間でした。


スタッフ間のチャットで日常的に飛び交うようになった、街の路上観察報告


街の魅力とゲストをつなぐホテルの役割

前任の比佐は、このツアーが提供する価値をこう総括します。


「特定の場所を案内するだけでなく、街歩きにおける新しい『視点』そのものを持ち帰ってもらうこと。この視点があれば、ゲストは自分の地元に帰ったときも、次に別の街を旅するときも、ずっと日常を豊かに感じることができるはずです」


現代アートは、一見すると難解に感じられることも少なくありません。しかし、「そのアーティストの背景だったりとか物語を知ると魅力的に見える。そこをつなぐ役割が私たち、OMOだといいな」と堀が言うように、ホテルスタッフがその物語のつなぎ手となることで、鑑賞を超えた体験を目指しています。


金沢21世紀美術館が仕掛けた「街に実際に飛び出して、展示の本質を理解してほしい」という願い。その橋渡しをしようと、OMO5金沢片町のスタッフたちは日々試行錯誤しています。ただの電柱が、世界に一つだけのアートに見えてくる。そんな街歩きは、今日も金沢の街の日常を、新たな視点としてゲストに届けています。




行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ
PR TIMES
PR TIMES